日本女子バスケ 初の銀メダルに導いた名将の「夢を叶える言葉の力」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、8月8日、日本バスケットボール界の悲願だった五輪メダル獲得を果たしたバスケットボール女子日本代表にまつわるエピソードを取り上げる。

日本女子バスケ 初の銀メダルに導いた名将の「夢を叶える言葉の力」

【東京五輪2020 バスケットボール 女子決勝】<日本対米国> 米国に敗れたものの銀メダルを獲得した高田真希(中央)ら日本代表=2021年8月8日、さいたまスーパーアリーナ 写真提供:産経新聞社

東京五輪の最終日に行われたバスケットボール女子決勝。世界ランク1位で大会6連覇中のアメリカに敗れたものの、女子代表「AKATSUKI FIVE(アカツキファイブ)」銀メダルの躍進は、日本だけでなく世界中のバスケファンから賞賛を集めました。

なかでも司令塔・町田瑠唯は、準決勝まで全試合で2ケタのアシストを記録。準決勝では五輪新記録となる驚異の18アシストをマークし、大会ベスト5にも選出されました。町田は決勝戦のあと、こんな言葉を残しています。

『今まで女子バスケはメダルから遠いと言われていたと思います。金メダルを目標にしてきましたが、それを信じていた人はそれほど多くなかったと思います。今大会で銀メダルを取り、いろんな方に女子バスケの魅力や世界に通用したことなどが伝わったと思います。それが良い結果になりました』

~日本バスケットボール協会公式サイト 2021年8月8日配信リリースより(決勝戦後の町田瑠唯コメント)

逆説的にとらえれば、選手たちはこれまでの常識に縛られず、「金メダル」という高い目標を信じ続けたからこそ、日本バスケ史上初となるメダル獲得の大偉業を果たせた、と言えます。

ここから学べるのは、結果を出す上では、組織としていかに共通認識を持てるか。そして、その目標を信じ続けられるか、ということです。キャプテンである髙田真希も同様に、目標を信じ続けた結果としてのメダルであることをこんな言葉で表現しています。

『どんな状況でもぶれずに金メダルが目標と言ってきてくれた。信じてやればここまで来れる。高い目標に近づくには、思い続けることが大切。言霊って大事だなと思う』

~『スポーツ報知』2021年8月8日配信記事 より(髙田真希のコメント)

この、ぶれずに「金メダルが目標」を言い続けた人物こそ、流暢な日本語で選手たちを鼓舞し、チームを率いて来た米国人ヘッドコーチ(HC)、トム・ホーバス氏です。その高い目標は、HCに就任したその日から明確に宣言したものでした。

『私個人の夢としては、これはずっと夢を見ていたことですが、東京の決勝の舞台でアメリカと対戦して金メダルを獲ることです。まだ、日本代表として欠けているパズルのピースがあることは実感しています。リオデジャネイロオリンピックで8位の日本が、東京オリンピックでメダルを獲ることは容易ではないですが、常に前進しなければなりません』

~日本バスケットボール協会公式サイト 2017年1月23日配信リリースより(トム・ホーバスHC、就任会見でのコメント)

もちろん、ただ宣言するだけで夢や目標が叶うはずもありません。日本の選手たちは、ホーバスHCが「世界一の練習量」と自負するほどの厳しいトレーニングを継続。

『2017年の就任時から指揮官が選手らに教え込んだフォーメーションは100通り以上』

~『中日スポーツ』2021年8月6日配信記事 より

このように頭を使ったバスケを徹底して来ました。体も頭も、これ以上ないほどのハードワークを重ねて来た結果としての銀メダルなのです。

周囲が「あり得ない」と思うほどの高い目標でも臆することなく宣言し、そのために必要な努力を重ねる……簡単なようでいて、実際にそれを徹底することが難しいというのは、多くの人が実感できることではないでしょうか。ホーバスHCがその難題を実行できるのは、2つの理由があるように思えます。

1つは、自分自身が少年時代に夢見た「NBA選手になる」という高過ぎる目標を叶えた経験からです。しかもその夢の実現を、ポルトガルや日本の実業団でプレーする、という遠回りを経験したあとに叶えた点も異例中の異例です。通常、大学卒業時にドラフトにかからなければ、その後は契約に至ることも難しいのがNBA。それでも諦めることなく、わずか4ヵ月でもプレーできた成功体験は、確かに説得力があります。

そして、難題実現のためのもう1つの要因。それは、選手のことを信じ、「できる課題」を提示し続けて来たことです。今大会、日本の戦術的な勝利要因と言えば、高い成功率を誇った3ポイント。失敗することを臆することなく打ち続けた結果と言えますが、その背景にあったのがホーバスHCの「言葉のマジック」でした。

『「日本の選手はもともと3ポイントシュートも、フリースローも上手なので、無理にワンハンドに変える必要がないと気づいたようです。いちばん大きな変化は、『3Pを入れて』と言っていたのが、『3Pをどんどん打って』という言葉に変わったことです」

数多く打てば、それだけ入る。バスケット用語でいうところの、「アテンプト」を増やす方針を固めたのだ』

~『Number Web』2021年8月7日配信記事 より

目標に向かって、必要で的確な言葉を選択することができる。しかもありがたいことに、通訳を介せずにしっかり日本語でコミュニケーションが取れたことは、何よりも大きな日本の武器になったと言えます。

そんなホーバスHCが決勝戦後に語った言葉とは?

『銀メダルを取り、ここからが新しい時代のはじまりです。ファンも増えるし、サポートも増えると期待しています。

日本人が持つ良さやチームワークで優勝することもできます。そのためにも今後も進化していかなければいけないですし、日々勉強です。そして、これからがはじまりです』

~日本バスケットボール協会公式サイトより 2021年8月8日(決勝戦後のホーバスHCのコメント)

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