ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月12日放送)に神戸大学大学院法学研究科教授でNPO法人インド太平洋問題研究所理事長の簑原俊洋が出演。中国の裁判所がカナダ人企業家に対して懲役11年の判決を言い渡したというニュースについて解説した。
中国の裁判所、カナダ人企業家に懲役11年の判決
中国の遼寧省丹東市の地方裁判所は8月11日、国家機密を探った罪などで起訴されたカナダ人企業家マイケル・スパバ氏の公判を開き、懲役11年、5万元(約85万円)没収の判決を言い渡した。
ファーウェイの孟晩舟氏と引き換えにカナダ人を戻すか~アメリカがこの取引に応じるかどうか
飯田)中国は同じ時期にカナダ外務省を休職中のマイケル・コブリグ氏も拘束しています。ファーウェイの副会長がカナダで拘束されていますが、これとの兼ね合いということが指摘されています。どのようにご覧になりますか?
簑原)連日続いていますね。その前(10日)は(ロバート・ロイド・シェレンバーグ被告が)死刑判決(維持)を受けたということもありました。少なくとも3人のカナダ人が拘束されているということは、やはりファーウェイの孟晩舟副会長との取引で、彼らは人質なのではないのかと考えています。カナダのトルドー首相はおそらくアメリカに頼って、どのような取引が可能かということを模索しているのでしょう。やはり孟晩舟氏をアメリカ当局に引き渡さず、中国へ送り返せば、3人は無事帰って来るのではないかと。注目されるのは、この取引にアメリカが応じるのかどうかということです。
飯田)アメリカはむしろ孟晩舟氏の引き渡しを求めていた。
簑原)そうですね。自国への引き渡しですね。
飯田)いまのところ、その線は変わっていないということですか?
簑原)変わっていないですね。
孟晩舟氏自身の罪を追及したいアメリカ
飯田)ファーウェイという会社、そのITやサプライチェーン、情報のやり取りというところで、トランプ政権のときから槍玉に挙げられているところがありました。
簑原)この場合は、サプライチェーン云々の話ではなく、孟晩舟氏自身の罪をアメリカは追及するということだと思います。
飯田)イランとの取引のなかで、制裁に違反したのではないかということが言われています。
簑原)それもありますし、個人の問題もあったのではないかと思いますね。
飯田)資産に関してということですか?
簑原)そうですね。
アメリカではなく、弱いカナダに圧力をかける中国の戦術
飯田)その辺をネタにしながらというのは、当然ながら米中の摩擦というか、角の突き合わせのなかの一環でやっているということですか?
簑原)中国は、伝統的に弱い国を標的にするようなところがあります。カナダもそうですし、リトアニアとも最近はいろいろとあります。中国は相手を見て、どのような態度で出るのかを見ます。ですので、カナダに対して圧力をかけるということは、アメリカではないので、アメリカに対しては間接的に圧力をかける。アメリカ人に対してこういう形を取って死刑にしてしまうと、アメリカの世論が急激に熱くなってしまうので、それは避けたいという中国の1つの戦術ではないでしょうか。
リトアニアへの報復~ヨーロッパへのメッセージ
飯田)リトアニアの件というのも、直接的な引き金となったのが、台湾の代表部をリトアニアの首都につくる。その名前が「台北」という名前ではなく、「台湾」という名前を使ったというところだと言われていますが、この辺もある意味での方便のようなところはありますか?
簑原)日本の方でも台湾代表部に名前が変わりましたよね。実際、台湾は台湾だと思いますし、街の名前が台北なのであって全然問題ないと思いますが、中国はリトアニアが現状を変更しているということに怒っているのです。名称というのは言われたように、方便でしかないと思います。
飯田)もともとリトアニアという国が中国の人権状況に関してかなり批判的であるとか、外交官を台湾に派遣したりもしている。その意味でも中国としては頭に来ている部分もあったということですか?
簑原)それは当然ありますし、他のヨーロッパの国々に対するメッセージでもありますね。「リトアニアのような行動をすれば、このような報復が待っていますよ」という。
飯田)向こう側のEU各国に対してもメッセージを出しているのですね?
簑原)当然そうですね。追随しないようにというメッセージだと思います。
本音では中国との真正面の喧嘩は避けたいヨーロッパの国々
飯田)EUの中心というと、どうしてもドイツの名前が浮かんで来ますが。
簑原)ドイツ、フランスですね。ドイツもこの秋にバイエルン号、フリゲート艦が日本にやって来ますが、中国にも寄港するのではないかと言われています。
飯田)上海に寄るのではないかと。
簑原)この辺り、ドイツは上手に外交をやりますね。中国とのバランスをきちんと保ってやって行く。イギリスのジョンソン首相も「中国とは大人の関係をして行かなければいけない」と言っています。ヨーロッパの国々は、中国と真正面の喧嘩は避けたいということが本音ではないでしょうか。
自国の利益を中心に考えて、同盟国の利益を考えていないアメリカ
飯田)アメリカはいまのところ対峙する関係ではありますが、そこにいろいろな国を巻き込もうということをバイデン政権もやっている。ヨーロッパがどっちつかずの姿勢を見せていても、アメリカに関しては変わらないと見てもいいのでしょうか?
簑原)アメリカに関しては、今後どのような政策を取って行くのか。中国と対峙することははっきりわかるのですが、他方で、同盟国の利益を考えるというところがまだ見えて来ないのです。アメリカは自国の利益を中心に考えるということは鮮明に出ています。そうなると、他の同盟国も、「それならばバランスを取ります」ということになるのではないでしょうか。バイデン政権がTPPに復帰するのであれば、同盟国同士でスクラムを組むのだという意思が見えて来るのですが、それがまったく見えて来ません。バイデン外交には、その辺りのことが物足りないのではないかと個人的には考えています。
アメリカの中間選挙に外交は影響しない~多くのアメリカ国民の関心は国内問題
飯田)そこに来て中間選挙がアメリカではある。西側諸国を考えると、今年(2021年)の9月にドイツでも総選挙があるし、フランスの大統領選も2022年にあります。日本も選挙が近い。
簑原)フィリピンや韓国も選挙がありますね。
飯田)この辺の選挙によって、外交方針も影響を受けるということも考えられますか?
簑原)常時、外交をフォローしているアメリカ国民はごく少数です。関心があるのは国内問題です。特に中間選挙に関しては、外交はポイントにはならないと思います。戦争などであれば別ですが、平時であれば、やはり国内問題がフォーカスされて行くのではないでしょうか。
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