「45歳定年制」を考える ~管理職を選ばない「職人的な生き方」のススメ

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ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」(9月15日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。サントリーホールディングス(HD)新浪剛史社長が発言し、話題となっている「45歳定年制」について解説した。

「45歳定年制」を考える ~管理職を選ばない「職人的な生き方」のススメ

ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」

「45歳定年制」波紋を呼ぶ

サントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長が新型コロナ収束後の日本経済の活性化策として発言した「45歳定年制」に対し、SNS上で批判が集り、新浪氏は9月10日の記者会見で「定年という言葉を使ったのは、まずかったかも知れない」と釈明した。

新行)サントリーホールディングス(HD)の新浪社長がオンラインセミナーで発言したものです。「個人が会社に頼らない仕組みが必要だ」ということで、45歳定年制という発言をされたようですけれども。

佐々木)「社長が言うなよ」というところです。働いている人がそういう心構えを持つことは大事なのだけれども、企業側から見ると、高齢化社会で若者が減って来ているなかで、中高年の人件費が負担になるということがあると思います。私が新聞社にいたのは20年くらい前ですけれど、そのころは団塊世代の人が50代の退職前で、社内にたくさんいました。

新行)何人くらいですか?

佐々木)当時私がいた新聞社では、1学年で100人くらいいました。いまは20人くらいですよね。すごく減っている。でも団塊世代は1学年で200人くらいいて、すごい数でした。いまの子どもの数は80万人くらいだけれど、団塊世代は200万人くらいいました。だから局長心得や部長心得など、いろいろな「心得」がありました。部下のいない局長待遇のような人もいて、何もせず1日中パソコンでゲームをやっている人も少なくありませんでした。

80年代ごろまでは定年は55歳であった~現在は定年65歳が通常

佐々木)確かに会社側の論理だけではなく、働く期限が延びているというのはあります。80年代前半くらいまでは、定年は55歳だったのです。信じられないですよね。

新行)信じられないですね。

佐々木)22歳で大卒で入社したら、30年少ししか働かなかった。でもいまは65歳定年が普通で、おそらく70歳くらいまで伸びると考えれば、50年近く働くことになります。半世紀ですよね。これで1つの会社にずっといるのかどうかということは、考えなければいけないのではないでしょうか。

新行)50年ですからね。

韓国での失敗~多くの人が独立してチキン店をはじめて失敗

佐々木)新浪社長的な経営者の論理というのは、基本的に彼らは新自由主義、リバタリアンなので、「お前たちはジャングルを頑張って生き抜け」というような話になるわけです。自分は勝ち抜いて、経営者などになったクチだから、常に強者の論理で言ってしまう。

新行)強者の論理で。

佐々木)普通の人にとっては、例えば45歳で定年になって放り出され、「あとは起業しろ」と言われても、それができるかと言うと、起業できる人はそうそういません。韓国では、それをやった結果どうなったかと言うと、多くの人がから揚げ屋さんを始めて、大体失敗したのです。韓国でチキン店を始めて失敗する中高年が社会問題になっていて、映画にもよくそういうシチュエーションの人が出て来るのですが、日本でも同じことになるのではないでしょうか。士(さむらい)商法ですよね。慣れないことをやって失敗するという。

「45歳定年制」を考える ~管理職を選ばない「職人的な生き方」のススメ

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数十年かけて第2シーズンへ移行するという方法

佐々木)だからと言って50年、1つの会社にしがみつくのもどうかという意見もある。下から見れば、ただでさえ管理職の上司はうっとうしいのに、70歳の上司が未だにいるなんて嫌ではないですか。やはり長い目で見れば、どこかで第1シーズンが終わって、第2シーズンに行くということを考えなければいけないとは思います。

新行)次のシーズンに行く。

佐々木)「いますぐやれ」というのは難しいと思います。45歳と言うと、中高年に見えるけれども、いまは晩婚が多いから、30代で結婚する人が圧倒的に多いではないですか。45歳では子どもがまだ小学生、中学生くらいです。これから大学にも行かせなくてはいけないのに、「教育費はどうなるんだ」という話になるから、いますぐの大転換は難しいでしょうね。ただ、今後は何十年もかけて、少しずつ社会を第2シーズンに行けるような方向へ変えることが大事だと思います。

専門的なスキルを蓄積し、2~3年で転職する「職人的な生き方」

佐々木)ウェブの広告業界に、37歳の女性の知り合いがいます。彼女は向上心が強いのですが、「起業したい、独立したい」という意識はなく、「自分は職人気質である」と言います。ウェブや広告における自分の持っているスキルを高めて、それを自分の持ち味にしたいと思っている。マネジメントも嫌いだし、管理職にもなりたくない。でも独立する気もない。

新行)管理職にもなりたくないし、独立する気もないのですね。

佐々木)ただ、3年おきくらいに転職しているのですよ。「なぜ2年~3年で転職しているのか」と聞くと、いまこの時代だから、必要なスキルがある。例えば、ウェブの世界では最近DX(デジタルトランスフォーメーション)などと言われています。そこで「DXを覚えたいな」と思ったら、そういうものが得意そうな会社に転職する。コロナ禍でインターネットショッピングが盛り上がると、ネットショッピングを学びたいと思い、そういう会社に転職する。そのときどきに自分がやりたいこと、学びたいこと、専門性の高いスキルを蓄積したいので、それに合わせて職を転々として行く。しかし、決してマネージャーにはならない。

新行)転職してもマネージャーにはならずに、専門性の高いスキルを蓄積する。

佐々木)管理職は選ばないのだけれども、ある種の職人として、その人の場合はウェブ職人ですが、業界を渡り歩いている。同じような仕事をしている横のつながりは大事にしていて、情報交換をしたり、一緒に専門系のイベントに行ったりする。そのように、「職人的な生き方をする」というのは、今後の選択肢としてあるのではないでしょうか。

「知らないことを学ぶことの面白さ」を自分のなかに持つことが大切

佐々木)同じことが、現場仕事でも毎回言われています。大学に行って高い教育費を払い、結局ブラック企業に就職してしまうよりは、中卒でもいいから、昔からあるような型枠工など、現場の職人さんをやった方が独立、自立できるのではないかと言っている人もいます。それが本当に正しいかどうかはわかりませんが、そういう職人的なワークスタイル、アルチザンですよね。こういう考え方もいいのではないかと、最近思います。

新行)自分のなかにある仕事の価値観によって、そういう転職の仕方もありますよね。

佐々木)「知らないことを学んで行くことの面白さ」を、自分のなかに持っているのが大事なのではないでしょうか。独立や起業をして一流の経営者になるような人ではなく、普通の人でもできる仕事だと思います。江戸時代の昔から、日本は職能集団などと言われていて、職人さんなどで構成されている社会でしたから、そこに戻ることもありなのではないでしょうか。

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