岸田総理の所信表明にない「規制改革」 ~これだけある「その弊害」
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月13日放送)に数量政策学者の高橋洋一が出演。自民党の政権公約、および岸田政権の経済政策について解説した。
自民党、衆院選に向けて政権公約を発表
衆議院選挙に向け、自民党は政権公約を発表した。政権公約では新型コロナウイルス対策や経済政策など、8つの分野を重点政策と位置付けている。
所信表明に官僚に対する重しでもある「規制改革」がない
飯田)先日の所信表明を下敷きにしながらというところですが、どうご覧になりますか?
高橋)所信表明に「規制改革」という言葉がありませんでした。私の調べるところによると、あれは1979年の大平政権で出た言葉で、私は1980年に役所に入りましたが、「必ずある」と思っていた言葉です。もちろん菅政権までずっとあったのですけれど、今回は入っていなかったので驚きました。
飯田)今回は入っていなかった。
高橋)ここ40年間入っていたものを、なぜ抜いてしまったのかなと思いましたけれどね。
飯田)そんなに昔から入っていたのですね。
高橋)それが「新しい資本主義か」と思いましたよ。
飯田)「規制改革」がないことが。
高橋)規制改革は、はっきり言って「官僚に対する重し」でもあるわけです。
飯田)官僚に対しての。
高橋)いろいろな規制を見直せという話があっても、放っておくと何もしないから、官僚に対しての重しがあるのだけれど、あれで霞が関の官僚はみんな喜んだと思いますよ。「あ、なしか」と。ほっとしたと思います。
飯田)なるほど。この規制があるということになると、規制に引っ掛かるかどうかの線引きのようなところに、当然ながらいろいろな既得権も生まれて来ますし。
高橋)だからいつも見直せという話になる。それが普通なのだけれど、ないということで「ホッ」として、それが矢野論文にもなり、要するに官僚の方が調子に乗っているだけだと思いますよ。
「官僚支配」へ戻るのか
飯田)かつて「官僚支配」などという言葉もあったと思いますが。
高橋)完全に官僚だと思いますよ。
飯田)そちらに戻って行くのでしょうか?
高橋)だって規制改革がないでしょう。
規制改革は実質経済成長率を高めるために行う
高橋)規制改革をなぜやるかと言うと、実質経済成長率を高めるためなのですよ。
飯田)実質経済成長率を高めるため。
高橋)これがないと、なかなか新しい産業が出て来ないので、実質経済成長率が高まらないのです。分配の話をしているでしょう。あれは成長率が下がってしまうのですよ。その点から見ても変だと思いました。自民党の公約集では、さすがに規制改革を入れないわけにはいかないけれども、「規制改革会議」をやめてしまって、「デジタル臨時行政調査会」に名前を変えるとか、「成長力会議」もやめて「新しい資本主義実現会議」になっているでしょう。この辺りに政権の性格が出ているように思います。
規制改革がないと株価が上がりにくい
高橋)規制改革がないと、実は株価が上がりにくいのです。
飯田)規制改革がないと。
高橋)規制改革をなぜやるかと言うと、将来の成長を見込む面白い種をいくつか出し、株価を上げるというところもあって、それとともに「官僚の重し」がある。それがないから株価が上がらないのはよくわかります。つまらないから。
飯田)つまらないから。
高橋)規制改革だと「このような産業が伸びそうだ」などと言うのに、そういう夢がないのですよ。
経済政策の部分は、新しい資本主義や経済安全保障が厚く書かれている
飯田)経済政策の部分は、新しい資本主義や経済安全保障に関して、分厚く書いているということですね。
高橋)経済安全保障は確かにあって、中国を意識したものです。甘利さんが一生懸命やっていたから入っているのでしょうけれど。
飯田)甘利さんが。
高橋)規制改革に関して、さすがに公約集では少し出ていると思います。でも、ウェイトはかなり減ってしまうでしょうね。
飯田)甘利さんなどは、規制改革の部分で戦い続けた人でもありますよね。
高橋)そうなのだけれど、最近は経済安全保障に行ってしまって、今回は新しい資本主義ということで、全部消されてしまっているのでしょうね。
規制改革の実現には時間がかかる
飯田)規制改革をやる、潜在成長率を上げるというような話は、供給の部分を高めると。いま需要が足りないなかでそれをやってしまうと、ますますデフレが進むという指摘がありますが、その辺りはどうですか?
高橋)規制改革をすぐ行っても、長期的な話しかありません。短期的には全部需要で決まるので、心配には及びません。そう簡単に供給の方は上がりませんから。
飯田)規制改革と言っても、すぐにはできない。法律を変えなければならないなど、いろいろあると。
高橋)時間がかかるのです。数年単位の話でしかないから。
飯田)数年単位であると。
高橋)規制改革をしないと、あとが大変なのです。需要サイドだけで考える人は、「供給の話を考えなくては」と言うのだけれど、日本でやっていない規制で残されたものは多いのですよ。「電波オークション」がそうでしょう。だから通信産業が伸びないのです。電波オークションをやると新規参入がたくさんあって面白くなるのですけれど、そういうものをやっていないから。
まだ見えない「新しい資本主義」
飯田)「新しい資本主義」がどういうものになるのか、まだ見えない部分が多いですね。
高橋)全然わからないですよ。何が新しいのですか? いまのところ「規制改革をやらない方が新しい」としか見えません。
飯田)個別具体的なところでは、「賃上げに積極的な企業への税制支援」や「看護師・介護士・保育士などの所得向上のため、報酬や賃金の在り方を抜本的に見直す」ということなどが書かれているようですけれども。
高橋)経済が成長すれば、自ずと賃上げの話が出て来るのですけれどね。
飯田)人が足りなくなって、上げないと人が集まらないということになって行くと。
高橋)そういうことです。だから、税制で支援しても悪くはないのですけれど、やはり根っこの方で経済成長の種がないとやりにくいのですよ。経済成長なしで、分配だけ考える人は多いのだけれど、それは無理なのです。経済成長したら分配が簡単なので、そういう答えしかないのですけれどね。
「分配から成長へ」は無理 ~インフレ目標を4%くらいに上げるべき
飯田)総裁選中は「分配から成長へ」という話もされていましたが。
高橋)それは無理ですね。
飯田)総理の最近の答弁では、「成長から分配」というように。
高橋)「分配から成長へ」というのは無理なのです。民主党政権のときに非難を受けて、わかりきった話なのだけれど、岸田さんは左側の方だから、そちらに戻ってしまうのです。だから令和版の所得倍増計画もできないという話なのでしょう。実質経済成長率を高めるような、規制改革がないとやりにくいですよ。それとともに、需要の話で行くと、マクロ経済政策でインフレ目標を高めたりしないと無理です。しかし、それはせずに「インフレ目標2%でいい」などと言うでしょう。
飯田)そうですね。
高橋)そうすると、せいぜい実質ベースでは30年間ほどで1%くらいしか伸びなかったのだけれど、1%くらいしか伸びないと、倍増するのに75年程度かかりますよ。
飯田)よく「72の法則」などと言いますよね。
高橋)インフレ目標を4%くらいに上げて、需要の方でも高圧経済を少し強くすれば、簡単に名目5%くらいにできるのですけれどね。目標を5%にすると倍増が13年~14年になるので、いい目標になるのですけれど。
飯田)まさにアメリカはその局面に来ていて、月次ですが物価が4%~5%上昇。
高橋)そこで割り切ってしまって構わないので、日本であれば「インフレ目標2%が達成できないから引き下げろ」と言うのだけど、逆なのです。4%に上げてしまえばいいのですよ。もっと言えば、2%くらい簡単にクリアできるから、4%にすれば、達成率が半分でも2%になるでしょうということです。
飯田)「4%まで踏んでいいのだ」ということになると、思いきり踏めるから。
高橋)そのくらいでいいのですけれどね。
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