衆議院選挙終わる……気になるあの政策は?

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「報道部畑中デスクの独り言」(第270回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、岸田政権で注目となる「2つの政策」について---

自民党総裁選での岸田総裁の公約

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衆議院選挙は「自民党の絶対安定多数確保」「立憲民主党不振、日本維新の会躍進」という結果になりました。事前の厳しい見方のなか、自民党は15議席の減少にとどまり、安定した政権運営を行える環境が整いました。

「国民の皆さんの声に応えるための政策を、スピード感をもって断行する。選挙戦という戦いが終わり、これから政権を待ち受けているのは政策実現のための戦いだ」

自民党の岸田文雄総裁は、選挙後の記者会見で決意を述べました。

「金融所得課税の見直し」「四半期決算開示の見直し」が明記されている

「金融所得課税の見直し」「四半期決算開示の見直し」が明記されている

さて、今後です。岸田政権は「新しい資本主義」構築に向けた動きを活発化させていますが、私が注目するのは自民党総裁選のときに打ち出した2つの政策です。

「大企業には長期的な視点に立って“三方良し”の経営、すなわち株主だけではなく、従業員、取引先も恩恵を受けられるような経営を強く求めて行く」

9月8日、岸田氏の記者会見でこんな発言がありました。「三方良し」……何やら「大岡裁き」のようですが、総裁選で打ち出した2つの政策……1つは金融所得課税の見直しです。いわゆる「アベノミクス」では株価が上がり、投資家や富裕層には恩恵をもたらした一方で、その恩恵が全体に行き渡らなかったことから、こうした政策が浮上したわけです。

(上)衆議院選挙に向けた自民党の公約集/(下)「四半期開示の見直し」は盛り込まれた 「金融所得課税の見直し」の文字はない

(上)衆議院選挙に向けた自民党の公約集/(下)「四半期開示の見直し」は盛り込まれた 「金融所得課税の見直し」の文字はない

景気というのは「気」=気持ちの問題でもありますから、機運を高めるという効果も期待されます。ただ、財源という面では「焼け石に水」という声もあります。

「そのことだけをとらえて“新しい資本主義”であると言うなら残念至極。財源として、そもそも富裕層の持っている資産の割合が日本は非常に少なく、そこからとっても意味はない」(経済同友会・桜田謙悟代表幹事)

また、金融所得課税の引き上げは結局、中低所得者の課税強化につながり、「富裕層の課税強化に見せかけた大衆増税」という証券関係者の指摘もあります。

(上)新しい資本主義実現会議の緊急提言案/(下)「四半期開示見直し」を明記 ただ、さまざまな方面に配慮した表現となっている

(上)新しい資本主義実現会議の緊急提言案/(下)「四半期開示見直し」を明記 ただ、さまざまな方面に配慮した表現となっている

岸田総裁は総理就任直後の国会で「選択肢の1つ」とトーンダウン、歯切れの悪い答弁に終始しました。投開票日の各局のインタビューでは、岸田総裁は「取り下げたわけではない。手順について丁寧に説明した」と述べましたが、優先順位が下がったことは否めません。

もう1つは、四半期決算開示の見直しです。四半期決算=3ヵ月に一度、企業の業績などを公表するこの仕組みは、1999年から東京証券取引所の自主ルールで上場企業に求められるようになり、2008年には金融商品取引法で法的にも義務付けられました。企業と投資家のいわゆる「情報格差」を埋める効果がある一方で、企業が目の前の利益追求に走り、長期的なビジョンに立った経営や研究開発がおろそかになったと指摘されています。

「投資家に適切に開示するのは大事だが、3ヵ月の上がり下がりが中長期的な企業価値の上がり下がりと誤解されたとすれば、あまりいいことではない」

トヨタ自動車の近健太取締役は11月4日の決算会見で、見直しに一定の理解を示しました。

トヨタ自動車・近健太取締役(11月4日 オンライン決算会見で)

トヨタ自動車・近健太取締役(11月4日 オンライン決算会見で)

一方、この2つの政策は投資家の利益を直撃します。企業と投資家の「情報格差」にも影響を与えかねないことから、株価は値下がりし、敏感に反応しました。経団連の十倉会長は2つの政策に一定の理解を示した上で、「急激な変化はマーケットに不必要な混乱も与えるので、慎重に進めて行かなくてはならない」と、株価の動きに懸念を示しました。

2つの政策については、このようにさまざまな意見があります。しかし、私が気になるのは、一度明記された政策が「選択肢」などという表現で影を潜めて行く……このようなことが続けば、「決められない政権」のレッテルが貼られてしまうのではないかということです。

「成長の果実を分配する」「成長と分配の好循環」もどこかで聞いたフレーズであり、安倍政権とどう違うのか……そんな疑念がついて回ります。不満がマグマのように大きくなれば、来年(2022年)夏の参議院選挙にも少なからぬ影響を与えることになるでしょう。

「一時はマーケットに影響しても、いずれ“織り込み済み”になる。ハレーションを受け止める勇気があるかどうかだ」……野党の幹部は語ります。

経団連・十倉雅和会長(11月1日 記者団に対し)

経団連・十倉雅和会長(11月1日 記者団に対し)

四半期決算開示の見直しについては、自民党の選挙公約に明記されている他、「新しい資本主義実現会議」の緊急提言にも盛り込まれました。しかし、緊急提言の表現は、「投資家や企業の意見を踏まえ、市場への影響を見極めた上で、適時開示を促進しつつ四半期開示を見直すことを検討する」……かなり回りくどいものとなっています。

「ちゃんと議論するが、他のものに先駆けてやるということではなく、全体で議論するなかで、来年の春辺りを目指し、他のものと並行して進んで行くと思う」

山際大志郎経済再生担当大臣は、記者会見でこのように述べました。

金融所得課税の見直し、四半期決算開示の見直し……賛否分かれるなか、この2つの政策は岸田政権の「突破力」を占うものになると私はみています。(了)

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