ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(12月24日放送)に元内閣官房副長官・慶應義塾大学教授の松井孝治が出演。岸田総理が経団連の会合で「賃上げに積極的な企業を支援する」と述べたというニュースについて解説した。
岸田総理が賃上げに積極的な企業を支援する方針
岸田総理大臣は12月23日、経団連の幹部らの会合で挨拶し、「成長と分配の好循環による新しい資本主義の実現に向けて、賃上げに積極的な企業を支援する『賃上げ税制』を抜本的に強化する」とした上で、従業員などの賃上げに協力を求めた。総理は「賃上げを通じた分配はコストではなく未来への投資だ」と述べている。
飯田)「新しい資本主義」、「賃上げ」については総裁選のときから打ち出していましたが、補正ができて、24日には来年度本予算が閣議決定されます。松井さんはどうご覧になりますか?
松井)賃上げを促すのは、いいことではあると思うのです。日本の大企業は、労働分配率が中小企業よりも低いですからね。
飯田)中小企業より低い。
松井)要するに内部留保をとにかく大切にしていて、「安全に、安全に」経営しているのですが、「何のために働いているのか」ということを勤労者にわかってもらうためにも、もう少し労働分配率を高めた方がいいことは事実です。
日本企業は研究開発や設備投資に積極的に動いて攻めの姿勢に転じるべき
松井)他方で、これは是正によるインセンティブ付けですから、いいことだとは思うのですが、単に賃上げするのではなく、企業がお金を人への投資や研究開発、設備投資に回すなど、もう少し積極的に動くべきです。
飯田)投資や開発に。
松井)日本企業はみんな守りの姿勢で、気付いたら韓国に負け、中国にも逆転され、アメリカとは大きな差がついているわけです。「この10年、20年間で差が大きくなっていることをどう捉えるか」が重要で、単に賃上げをすればいいということではありません。企業がとにかく安全にという姿勢から、攻めの姿勢に転じないといけません。日本の国富がずっとシュリンクしているのです。
堂々と値上げしてもいい
松井)他方で、私の行きつけの喫茶店では、流通コストやコーヒー豆代が上がっているので、モーニングセットがいままで640円だったものから670円に値上げされたのです。マスターは申し訳なさそうに「いろいろやって来たけれど無理なんです。バターも上がったし、コーヒー豆も上がったし」と言われました。そんな「申し訳ない」という感じではなくて、多少値段が上がってもいいと思います。だって20年間、物価は上がっていないではないですか。
飯田)そうですね。
松井)「申し訳ない」という気持ちを持つことは、日本の美徳でいいのです。しかし、美味しいものは堂々と値段を取るということでいいと思います。値上げすべきものは値上げする。その代わりいい商品、いいサービスを提供する。日本の中小企業から大企業まで含めて、シュリンクをやめて、成長志向で物事を捉えて欲しいと思いますね。
「日本の国が豊かになるために何が必要か」という目線で考えて欲しい
飯田)1人当たりのGDPで見ると、韓国にも間もなく抜かれるのではないか、台湾にも抜かれるのではないかという状態になって来ています。いままでのアジアにおける、「日本が先頭を走り、他の国々が雁行体制で続く」という形が崩れている。ここは何とかしないといけないですよね。
松井)大学の話で言うと、コロナ禍で留学生も戻って来られないわけです。日本人がいろいろな国籍の優秀な学生と、競い合って勉強するという環境を取り戻してあげないと、留学生も可哀想だし、日本人の学生も各国の優秀な学生と一緒に学ぶ場を失ってしまい、日本人思考になってしまいます。世界中から魅力ある資本を集め、技術を集め、「日本の国が豊かになるために何が必要か」という目線で考えて欲しいです。
「新しい資本主義」とは何か ~霞が関の官僚も理解していない
松井)賃上げには賛成なのですが、気になるのは、「国内思考」という感じがするところです。「新しい資本主義とは何か」と役所の幹部や若い人に聞くと、みんな「わからない」と言うのです。
飯田)わからない。
松井)日本は資本主義が機能してない部分もあります。機能させた方がいいのに、「それを社会主義と足して2で割るのですか?」というようなことを言って、霞が関の官僚たちもよくわかっていないようです。
飯田)霞が関の官僚も。
松井)いまはそれぞれ「岸田さんが何を考えているか」を考えながら政策をつくっているのですが、みんなそれがわからない。思い思いに「新しい資本主義」の名目で予算を取って来ているようですけれど、どうも統一コンセプトがないようです。
貪欲に成長を求めるべき
松井)岸田さんは立憲民主党と相通じるところがあるのですが、「脱成長」というようなことを言われると、ちょっと。資本主義の負の部分は是正すべきですが、成長は成長として、もっと貪欲に求めていいと思うのです。2020年代で世界各国がしのぎを削っているときに、「昔の昭和の時代がよかった」などと、昭和を懐古されても「どうかな」と思います。私は昭和愛好家ですけれど。
飯田)懐かしがられても。
松井)将来のある10代、20代の子たちが、いつの間にか発展途上国の子どものようになっても仕方がないので、やはり豊かになり、その上で「昔のよい部分をどう取り戻して行くか」ということを考えて欲しいですね。
経済を大きくして税制も増やす ~必要な社会保障を賄えない
飯田)そのキックオフとして、「成長なのか分配なのか」ということが議論されて来ましたけれども、成長は追い求めなければいけないのではないかと、若い人であればあるほど、思うような気がします。
松井)経済がなければ社会保障もないわけですから。借金してバラ撒き続けるということでは、一時的にはいいと思いますが。
飯田)起動させるときなどは。
松井)財務省のように「財政規律が絶対」という形ではないと思います。ただ、ずっと国債を日銀に引き受けさせて、事実上、お金をバラ撒くというようなやり方では持ちません。経済全体を少し大きくして、税収も増やして行かないと、必要な社会保障を賄えません。
飯田)税収も増やして。
松井)「新しい資本主義」はこれからだと思いますが、このような視点でやって欲しいです。岸田さんがせっかく政権を担って、おそらく参議院選挙もいまの状況であれば、それほど負けないでしょうから、2~3年ほど岸田さんがやられる可能性があるのです。古きものを懐かしむのはいいけれど、懐古主義ではなく、未来志向でやって欲しいと思います。
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