ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月7日放送)に株式会社「千正組」代表取締役の千正康裕が出演。これからの総理官邸のあり方について語った。
官邸主導は大切だが、まだ過渡期にある
飯田)官邸のあり方と言うと、「この国の意思決定をこれから先どうやって行くのか」ということになると思います。官邸の機能強化はこの10~15年ずっとメディアを賑わせて来ましたが、いまのあり方については、どうご覧になっていらっしゃいますか?
千正)『官邸は今日も間違える』というタイトルの本を出したばかりなので、官邸に批判的な人に思われがちなのだけれど、基本的に官邸主導は賛成なのです。
飯田)官邸主導に。
千正)ただ、まだ過渡期にあって、もっとよくしなければいけないと思っている。私は20年前に官僚になったのですが、当時は官僚主導から官邸主導に変わって行く時代でした。その時期に仕事をしていたので、それは肌で感じていました。
飯田)官僚主導から官邸主導に。
千正)これは、省庁ごとに「最適な答えを見つける」という役割が機能しなくなったということが根っこにあります。コロナの話もそうですが、感染症対策は厚労省だけれど、経済はどうするのか。観光であれば国交省の管轄になります。1つの省庁だけでは解決できない問題が増えて来たので、もう少し高いところから、いろいろな観点を考えて決定することが必要だと思っています。
飯田)高いところから。
千正)それが強化されて来たから、いままでであれば変わらなかったものが、早く大きく動くようになったのでしょう。菅さんには、いろいろな評価があるけれども、少なくともワクチン接種の2回目まで、あれほどのスピードで進んだのは、菅さんのリーダーシップの成果だと思います。政府のなかの1つの役所だけでやっていたら、できなかったでしょう。自衛隊も協力するなど、いろいろなところが頑張って早く進んだわけです。
「何をすれば喜ばれるか」という頭で考えてしまう
千正)間違えることもあります。それは、総理の周りのスタッフも含めた官邸が、「よかれ」と思ってやっていると思うのです。
飯田)打ち出す政策はよかれと思ってやっている。
千正)彼らは政権の支持率を常に高く保ちたいのです。そのために「何をすれば喜ばれるか」という頭で考えている。
飯田)何をすれば国民にウケるかと。
千正)悪く言えばそうです。
飯田)常にウケを意識しなければならないのは、選挙のこともあるし、支持率が高ければ求心力が上がり、支持率が低ければ「誰々下ろし」のようなことが始まってしまうことを考えると、必然的にそうなりますね。
千正)誰が総理になっても、短期的に常に支持率を高く保っていないと、与党のなかから「この総理の下では闘えない」と倒閣運動が起こります。そのなかで、総理ないし官邸の方たちは意思決定をしているのだなと、そこは理解できます。
いい政策をつくる「3つの条件」
千正)いい施策をつくるには3つの条件があります。詳しい人が徹底的に考えるということが1つ目。2つ目は、できるだけ多くの人の話を聞く、ということです。頭がいい人が考えたからと言って、神様ではないから、想定外の不具合やバグが出て来るので、なるべく多くの人に話を聞いて気付かなかったところを直すことが必要です。
飯田)多くの人の話を聞いて。
千正)3つ目は、給付金やマスクを配るなど、政策の意思決定をしたときは報道も増えますから、注目度が高くなる。ただ、意思決定をしてから国民にそれが届くまでには、いろいろな仕事が間にあって、時間をかけてやっと届くのです。対応を決めてから届くまでのオペレーション、執行がうまく行くかを考えるのが3つ目です。この3つをきちんとやらなければ、国民に届くいい政策はつくれないと考えています。
短期的な支持率を求めすぎてしまうと失敗する
千正)ともすれば、短期的な支持率を求めすぎると、詳しくない人が「これがウケるのではないか」と決めてしまう。あるいは、事前に調整しないで決めてしまうことも多くありました。例えばコロナ初期にあった学校の一斉休校。
飯田)ありましたね。
千正)あれは、ある週の木曜日に安倍元首相が、「次の月曜日から休校を要請します」と発表してしまった。猶予が金、土、日の3日間しかなかったので大混乱しました。事前に文科省とも調整していなかった。そういうことですね。
飯田)萩生田さんも「勘弁してください、現場が持ちませんよ」という話をしたけれども、押し切ったという話がありました。
「決めたけれど届かない」問題をどう変えて行くか
千正)詳しくない人が決めてしまったり、できるだけ多くの人の話を聞くという過程を飛ばしてしまったり、オペレーションがうまく行かない場合もある。そうなると、定額給付金がなかなか届かないとか、アベノマスクと言われてしまったけれども、布マスクを配り終わったときには緊急事態宣言が解除されたあとだった、ということが起きてしまう。決めたけれど、なかなか届かないという問題もあります。ここをどう変えて行くかということを提案している本なのです。
飯田)官僚の皆さんはそれぞれ専門があるから、「詳しい人が一生懸命考える」ということは得意ですよね。広く意見を吸い上げるシステムや、オペレーションに向かって柔軟に人を集め、タスクをこなして行くというところが、まだまだうまく行っていないということですか?
千正)そうです。
飯田)そこに縦割りの壁などがあるわけですか? 人を集めるにしても、各省庁からおいそれと人を呼ぶことはできないというような。
「どういう手段をセットでやれば早く届くのか」を考えるべき
千正)意思決定したあと、それを形にするにしろ、オペレーションするにしろ、細かい設計は各省庁がやるわけです。あとはきちんとやっておけと。しかし、そこに人も増やさないのです。
飯田)「やれ」と言っておいても。
千正)「早くしろ」としか言わない。そうすると現場の人は、人海戦術で、青天井で残業して帳尻を合わせようとする。そして保健所の人が疲弊してしまうような問題が起こる。だから政策のスピードを緩めろと言いたいのではなく、早くできるようにシステム化することが重要なのです。時間がかかるのであれば、外注してお金を付けるなど、「どういう手段をセットでやれば早く届くのか」ということを考えるべきだと思います。コストが必要なところにはコストをかけるべきです。
飯田)いまは現場の心意気で回しているようなところがあるわけですか?
千正)そうです。だから公務員の世界が大変になっている。
飯田)若手が辞めてしまうというような話がありますね。
「子育て世帯への給付金の方針変更」に見られる岸田政権の柔軟さ
千正)子育て世帯への10万円の給付金がありますが、これがまさに似た構造をなぞっています。当初は5万円を現金で配り、あとから5万円分のクーポンを配るという話でした。すると、事務費が1200億円かかることがわかり、「そのお金は無駄ではないか」と野党から批判された。自治体の現場からも、現金を配るだけでも大変なのに、クーポンを印刷・発行して、お店で使えるようにするのは、「事務が大変で、オペレーションが難しい」という話が出たわけです。
飯田)そうでした。
千正)そこまで想定せずに、最初は現金とクーポンの2段階でやると決めたのだと思います。しかし、各方面の意見を聞いて直したというところが、いまの政権は違うのかなと思います。よく言えば柔軟にはなっているのだと思う。
飯田)いままでであれば「5万、5万でやるのだ」と押し通していたかも知れないものが、直前で「現金一括で配ってもいい」という方針に変わるという。
千正)そうですね。これまでならば、「Go To トラベル」を止めるのが遅いのではないか、という批判があっても、1度決めたことを軌道修正しにくいところがあったのです。しかし、いまの政権はアジャイルというか柔軟というか、それを「ブレているのでは」と言う人もいるけれど、「事前に全部想定しても正解を決められない」のがいまの政治の状況だと思います。1度方針を出したあとでも、いろいろな人の意見を聞いて方針を変えるということは、やるべきだと思います。
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