ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月13日放送)に多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授・事務局長の井形彬が出演。通常国会に提出される「経済安全保障推進法案」について解説した。
「経済安全保障推進法案」1月17日からの国会に提出へ
政府・与党は電力や通信など、基幹インフラを担う大企業が安全保障上問題のある機器を導入しないよう事前に審査することなど、経済安全保障に関する4つの柱を可能とする新たな法案を、1月17日から開かれる通常国会に提出する方針だ。
飯田)安保上、問題のある機器を導入しないような事前審査、安全保障上重要なものについては特許の非公開。それからサプライチェーン。さらには先端技術の研究開発のために必要な情報を積極的に提供するという辺りが、4つの柱のようです。現状の経済安保、日本の対策、取り組みに関してどうご覧になっていますか?
井形)最近、経済安全保障について書かれている多くの文章を見ていると、「日本は遅れているのだから、何とか頑張らなければ」という論調が多いのですが、私は経済安保については、もう少し日本政府を評価してもいいのではないかという立場を取っています。
飯田)日本政府を評価してもいい。
井形)アメリカは進んでいます。中国も進んでいます。ただ、米中は喧嘩しているので、当たり前の話ではないですか。
飯田)喧嘩の当事者ですからね。
米中以外で経済安保に関して進んでいるのは日本 ~各国の大使館から「日本から学びたい」と言われる
井形)米中以外に経済安保を頑張っているのはどこかと言うと、私は日本だと思います。日本にあるいろいろな国の大使館、特にヨーロッパや、ファイブアイズと呼ばれているカナダやオーストラリア、ニュージーランド。あとはインド太平洋と呼ばれている国々の大使館から、「日本の経済安保に関する考え方や政策がいちばん進んでいる」と言われているのです。
飯田)各国の大使館から。
井形)「ぜひ最新状況を教えて欲しい。何がうまく行っているのかを教えていただければ、真似する。うまく行っていないものがあったら教えてくれ。それはやらないから」と。とにかく「日本から学びたい」ということをよく言われます。
韓国も日本を参考にして外務省に経済安保関連の部署を設置
飯田)技術流出について、大学から技術が盗まれている。あるいは人も引き抜かれているけれど、「日本の道具立てとしては外為法しかないではないか」ということが言われていますが、その辺りはどうですか?
井形)足りていないところはもちろん、たくさんあります。たくさんあるのですが、そういう状況を変えなければいけないということで、例えば国家安全保障局と呼ばれている日本の安全保障にとって重要な政策をつくり、実行して行くところに、経済安全保障を担当する経済班をつくった。その日本の対応は早かったです。
飯田)なるほど。
井形)また、外務省や経産省など、さまざまな省庁において経済安全保障を対策とする部署をつくっています。韓国が最近、韓国の外務省に経済安保室のようなものをつくりましたが、これは日本を参考にしたのだと思います。
外為法も改正する方向で動いている ~研究者の引き抜きに対しても新たな対策
井形)ヨーロッパの国々も、日本のように、まずは制度化を進めなければいけないということで、経済安保の省庁をつくっています。外為法に関しても、ものとお金を止めるためには、いまのところ外為法しかないというのはその通りなのですが、重要な技術に関しては、もう少ししっかりと守って行こうということで、外為法を改正する方向で動いています。
飯田)外為法を改正する方向で。
井形)技術が漏れるというのは、ものや金と同時に、人もあるわけです。研究者が引き抜かれて、頭のなかに入っている設計図が向こうに行ってしまえば、輸出していることと同じになってしまう。そういう状況を「みなし輸出」と言うのですが、これを止めるために、国が研究費を出すときに「あなたは他の国から研究費などをもらっていないかどうか開示してください」という、新たな条件を付けるなど、できることは既存の枠組みのなかでかなり頑張ってやって来たのです。
今後、バージョンアップして行く「経済安保推進法案」
井形)今回、「経済安保推進法案」が出て来た理由は、既存の枠組みで頑張って解釈できるところに関しては、やり切ったのかなと。そろそろ新しい法案が必要だということで出て来たのでしょう。また、「4本柱」として出ているのですが、これでもまだ足りないため、推進法案が通った場合、今後は定期的にバージョンアップして行くのだと思います。その都度、新しい施策が取られて行くと考えていいと思います。
「経済安保担当大臣」という存在は日本だけ ~世界でも先進的な日本
飯田)これは基本法のようなもので、各法律の当該部分でバージョンアップすることが繰り返されるということですか?
井形)そうですね。このような形でしっかりと基本法のようなものをつくっているのは、日本は世界でも数少ない国の1つですし、また、経済安保担当大臣をつくったのも、おそらく世界で初なのです。
飯田)そうなのですね。
井形)日本はアメリカ、中国にはキャッチアップしようとしている。それはその通りなのですが、世界的に見てもかなり先進的だと、いまの政府を評価してもいいのではないかと思います。
飯田)安全保障会議をつくるときにも、アメリカの事例が多く引かれて、「アメリカと比べると日本は遅れている」というところからの視座で報じることが多かったですし、私自身もそうだったと思うのですが、他の国との比較については、あまり報じられていないですね。
井形)EUを見ると、そもそも経済安全保障をどう定義するのかというところから始まっているのです。さらにEUで難しいのが、技術流出の問題や投資規制の問題は、「国レベルでやることなのか、それともEUレベルで統一してやることなのか」というところも決まっていないような状況で、日本の方が進んでいる。だから日本から学ぼう、学びたいというが現在の状況です。
台湾のパイナップルやリトアニアのラム酒などに対する「反ボイコットキャンペーン」
飯田)リトアニアが中国から圧力をかけられているという話がありますが、「リトアニアでつくったドイツ製品は“メイド・イン・ジャーマニー”と書いてあっても買わないぞ」という圧力は、まさに経済安全保障に関わるところですよね。
井形)去年(2021年)、台湾がパイナップルを中国に輸出しようと思ったら、中国に「買わない」と言われて困っていたところ、日本企業が台湾のパイナップルを買った。しかも日本の消費者も「美味しい」と言って、すぐに売り切れたという話がありました。
飯田)ありましたね。
井形)今回の場合はリトアニアのラム酒です。中国に輸出するはずのラム酒が、約2万本止まってしまった。すると、今度は台湾が「俺たちの番だ」と言って、ラム酒をたくさん買い、台湾政府が美味しいラム酒の飲み方やラム酒を使った料理のメニューを紹介して、「みんなでリトアニアのラム酒を飲もう」というキャンペーンをやっているのです。こういう反ボイコットキャンペーンが出始めている。それが経済を強制的に外交ツールに使ってしまおうとすることへの抑止につながればいいなと思います。
飯田)法律の枠組みとは違うけれども、経済安全保障上の武器となる。
井形)安全保障において、国民1人ひとりにできることはあまりないのですが、経済安保に関してはできることがあるのです。
今後は抑止まで視野に入れた対策を取る必要がある
飯田)経済安保においては、ボイコット、不買運動のような攻め方が注目されますが、それにカウンターを当てて行くというか、国民1人ひとりにできることはあるのですね。
井形)まさに「反ボイコットキャンペーン」という感じです。
飯田)経済安保は「私たちには関係ない。企業が頑張るのでしょう」というような、遠いところにある印象だったのですが、そう考えると身近になって来ますね。
井形)あとは企業に関するところというのも、最終的に日本の経済が今後、どれだけ伸びて行くのかということを考えると、技術流出は止めなければいけないし、知的財産は守らなければいけません。
飯田)そうですね。
井形)また、安定的な貿易関係を考えると、何か外交上の問題があった場合に「輸入・輸出を止めます」とか、「留学生を行かせません」「観光客を止めます」という対応を取るような国に対しては、しっかりと「我々は安定的な貿易を行いたいのだから、そのような行動は認めない」と抑止して行く必要があると思います。
飯田)抑止をする。
井形)今回の経済安保推進法案は非常にいいとは思うのですが、防御の側面が強いので、今後は抑止まで視野に入れた対策を取る必要があると思います。
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