ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月3日放送)に元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が出演。北朝鮮のミサイル発射をめぐっての林外相と米・ブリンケン国務長官の会談について解説した。
北朝鮮のミサイル発射めぐり日米外相が会談
林芳正外相は日本時間の2月2日、アメリカのブリンケン国務長官と電話会談を行った。北朝鮮の核・ミサイル開発は地域や国際社会の平和と安定を脅かすものだとして、北朝鮮の完全な非核化に向けて日米韓3ヵ国で緊密に連携する方針で一致した。
飯田)北朝鮮は1月だけで7回もミサイルを発射しています。北朝鮮のミサイルも含めて林外務大臣は、「日本の防衛を全うするために、防衛力の抜本的な強化を進めて行くことが必要だ」と会談でおっしゃったということですが、日本の守りについての課題はどのようなところでしょうか?
日本は自立した防衛に向かうべき
兼原)日本は戦争に負けてから、かなりアメリカにお世話になって来ましたので、そろそろ自分の国は自分で守るということをするべきです。
飯田)自分の国は自分で守る。
兼原)特にミサイルに関しては、ミサイル防衛だけをすればいいというものではありません。「撃たれたら、撃ち返すぞ」というような、反撃する力を構えて抑止しなければいけません。このままでは北朝鮮にやられる一方です。
飯田)撃ち返すぞと。
兼原)韓国の防衛費はもうすぐ日本を抜くと言われています。中国の防衛費は日本の5倍です。日本はそろそろ、自分の足で立った防衛を行うべきです。
民生技術を積極的に活用するべき
飯田)いまは使っていませんが、日本の技術で使えるものは多いのですか?
兼原)日本にはノーベル賞クラスの科学者がいて、民生分野での技術者は、世界で最高級の人たちがたくさんいるのです。しかし、彼らの持つ技術を安全保障には使っていません。
飯田)優秀な技術者はいるのだけれど。
兼原)戦争に負けてしまい、「二度とやりません」というところから始まっているので仕方ありませんし、冷戦中はソ連に邪魔されていたこともあります。しかし、日本の最高級の科学力を、自分の国の安全保障に振り向けるようにするべきです。これが遮断されているのは日本だけです。他の国では産官学は合体しています。
安全保障のために技術開発の投資を何兆円分もするアメリカ
飯田)経済安全保障という言葉も流行り言葉のように使われていますが、企業に蓄積されている技術なども大きいのですか?
兼原)すばらしいものがあります。アメリカはベンチャーにお金を何兆円分も投資しています。政府はマーケットとは別に、儲からなくても安全保障のために技術開発へお金を出すのです。そして、そのお金がマーケットに返って行くのです。日本はそれをやらないので、技術が途中で死んでしまいます。生まれて来ないのです。
自衛隊の装備やその運用はできているのか
兼原)日本の5兆円という軍事費は英独仏クラスです。自衛隊の総軍25万人という規模は、G7ではアメリカの次に大きい規模です。横に中国がいて、ロシアも北朝鮮もあるので、それほど減らしていないのです。
飯田)アメリカに次いで大きい。
兼原)日本は、装備は少し入って来ているのですが、サイバー、宇宙や電磁波などの最先端のところが弱い。また、装備を増やした場合、訓練をして人間がその装備に追いつかないといけません。NATO軍はアフガニスタンなどで戦っていますが、私たちはずっと平和なので、「本当に動けるのか」という心配があるのです。
飯田)いざというときに。
兼原)本番がアジアの方に来てしまっているので、装備だけでなく、訓練や人員なども充実させなければなりません。そして、「政府全体が動けるのか」という問題もあります。
飯田)政府が動けるのか。
兼原)自衛隊が動いても、政府の腰が砕けてしまうことが怖いです。いまの法律では自衛隊が使えないのです。始まった瞬間に自衛隊が止まってしまうようなことが起きるのです。日本は約75年間平和だったので、真剣に考える機会がありませんでした。
「警察官職務執行法」では中国の戦闘員と戦うことはできない
飯田)兼原さんは産経新聞にも書かれていますが、法整備の部分、例えば中国を相手に尖閣諸島を守るというところでも、喫緊にやらなくてはならない課題が山積みでしょうか?
兼原)尖閣諸島に来るのは海警だと言うけれど、彼らは海の便利兵のようなところがあって、ものすごくたくさんいるのです。軍艦と同じ76ミリ砲を積んでいますし、半分は戦闘員のように突っ込んで来ることがあり得るのです。何百隻という漁船に乗って民兵が来ることもあります。そのときに日本は警職法という、お巡りさんが泥棒を捕まえる法律を自衛官に適用するのです。
飯田)警察官職務執行法。
兼原)その法律には、正当防衛と緊急避難以外で人を撃ってはいけないと書いてあるのです。しかし、向こうは戦闘員です。いきなりこちらの頭を撃って来ます。「本当にそれでいいのか」ということを誰も考えていません。
敵が戦闘員の場合、通常の海上警備行動の他に領海警備行動をつくるべき
兼原)それを外してあげなければ、こちらが先に皆殺しにされてしまいます。警職法というのは、私人を捕まえて裁判所に連れて行く法律ですから。防衛する以前の、「戦闘をどうするのか」というところが完全に抜けているのです。
飯田)その部分をカバーするような、新たな仕組みをつくらなければいけないということですか?
兼原)敵の軍隊や準軍隊は、こちらの主権と領海を侵して来るのですから、通常の海上警備行動の他に、敵が戦闘員の場合における領海警備行動をしっかりつくらなければなりません。密漁者を捕まえるのではないのです。そこは違う法律の形態にしないとダメだと思います。
中国を「その気にさせない」抑止力が必要
飯田)尖閣諸島も含めて、台湾海峡も緊迫していますが。
兼原)ウクライナが騒がしいと、習近平さんは元気になると思います。いまは権力を握り続けることに関心があるのでわかりませんが、侵攻する気になったときに、「簡単にできてしまう状況」であれば、本当にやってしまいます。やる気になっても、「片腕くらい切り落とせる」という程度の抑止力がなければなりません。「やるかやらないかは習近平さん次第」ということではいけません。
飯田)そうですね。
兼原)武力の構築にはお金と時間がかかります。中国はすごい勢いで軍拡していますので、差が開きすぎてしまうと、「習近平さん次第」ということになってしまいます。
飯田)中国の軍拡について行かないと。
兼原)そうしなければ、アメリカも「気が付いたら始まってしまった」というようなことになってしまいます。アメリカは遠いからいいのですが、私たちにとっては目と鼻の先です。先に蹂躙されるのは日本ですから、「始めさせない」ということがポイントです。アメリカは始まっても勝てると思っているでしょうが、私たちは始まったら困るのです。
飯田)始めさせないための抑止力を用意しなければならないのですね。
兼原)備えが必要ですね。「簡単には勝てない」と思わせなければなりません。
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