ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月10日放送)に多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授・事務局長の井形彬が出演。経団連が経済安全保障の強化に向けた法案の提言を公表したというニュースについて解説した。
経団連が経済安全保障の強化に向けた法案の提言を公表
政府が2月中に閣議決定を目指す経済安全保障推進法案について、経団連は2月9日、日本企業が国際競争で不利な環境に置かれることがないよう、企業活動に過度な制約を課すべきではないなどと主張する提言書を公表した。
飯田)一方で、きょう(2月10日)の読売新聞の一面トップには、
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『【独自】経済安保法案、罰則は懲役最大2年…供給網確保・インフラ審査・技術開発・特許保全』
~『読売新聞オンライン』2022年2月10日配信記事 より
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飯田)……という記事も出ています。経済安保法案の骨格のようなものが見えて来ました。
規制だけでなく、日本企業にとってビジネスチャンスになる側面もある
井形)今回の法案について、「制約や規制が多い」という報道が多いのが少し残念だなと思います。というのも、この法案は4本の柱から成っていて、規制の側面ももちろんありますが、「企業を支援しよう」という側面もたくさんあるのです。
飯田)企業を支援する側面も。
井形)重要な技術に関して、官民共同で研究して行きましょうと、「そのために補助金を付けます」というような内容もあります。また、基幹インフラなどと呼ばれている、人々の生活にとって重要な電気や水道、ガスなどがあります。インフラを担う民間企業に対して、新しいソフトウェア、ハードウェアを導入するときは、例えば「海外のもので情報漏洩の可能性があるものを入れてはいけません」ということを、政府が指導できるようになるという内容も入っています。
飯田)なるほど。
井形)この法案をまず聞くと、「規制ではないか」と思うかも知れませんが、「海外のものが信頼できないのであれば、国産のものなら信頼できるよね」ということになると、日本企業にとってはビジスチャンスになるのです。ぜひ、「規制」と言うばかりではなく、パッケージとして、いろいろな支援の側面、チャンスの側面があるのだということを意識していただければと思います。
アメリカ、EUでも行われているサプライチェーンの調査
飯田)これに関しては、自民党のなかで甘利さんが以前から取り組んで来ました。以前、ご本人にインタビューしたことがあるのですが、経済安全保障は企業にとってみたら、ここで「ダメだ」と言われてしまうと、利益が出ていてもいきなり取引を切られることがあると。そのリスクもきちんと認識しながら、「そうではない方向に持って行くためには補助金を付けますよ」というような、ある意味、飴と鞭のような形で誘導して行こうとしているのだと話されていました。それを聞いて「なるほど」と思ったのですけれども、現実にそういうリスクは出て来ているのですか?
井形)間違いなく出て来ていると思います。その証拠として、このような方向に動いているのは日本だけではないのです。アメリカのバイデン政権は8~9の省庁に対して、今月(2月)中までに「あなたたちが所管している産業のサプライチェーンを1年間かけて調査しなさい」というようなことを、去年(2021年)の2月に言ったのです。
飯田)ちょうど1年前に。
井形)2月中に包括的な報告書が上がって来るはずです。
飯田)期限ですからね。
井形)そのうち、農務省から見ると、「農業サプライチェーンはこうなっているので、食糧安全保障を考えたときに、こことここの脆弱性を減らしましょう」と。一部、特定の国に依存しすぎている場合は国内でつくりましょう、違う国から輸入して多様化しましょう、という話が出て来ると思います。EUでも同じような議論が進んでいるところです。
早く対応すれば企業側にとって「我々の製品は信頼できる」というアピールにもなる
飯田)そうすると、アメリカやEUは日本のソフトウェアについて、あるいは日本で完成品を組み立てた部品がどこから来たか、ということまで見ているのですか?
井形)見始めています。
飯田)既に。
井形)日本企業のなかでも、そういうところに着目し始めている大手があるということを、実際に聞いています。早く対応すればするほど、自分たちの企業は経済安保対策をきちんとしている企業なのだと、だから我々の製品は信頼できるのですよ、というアピールポイントにもなると思います。
サプライチェーンの把握は経済安全保障だけではなく、人権リスクの把握にもなる
飯田)遡って見て行くようなことを各国政府がやるというのは、お墨付きを与えることとほぼ同義になると思うのですが、日本政府もその方向に行くわけですか?
井形)そちらの方向に行こうとしています。また、サプライチェーンを把握するということは、経済安全保障だけの理由ではなく、人権リスクの把握にもなるのです。
飯田)人権リスクの。
井形)「海外の工場で強制労働や児童労働が行われていませんか」というところもチェックする必要があります。いまはアメリカやヨーロッパや日本など、いわゆる信頼できる、情報漏洩の可能性がないような国だけで、いろいろなハードウェアやソフトウェアを組み立てて行くという、新しいサプライチェーンを構築しようとしています。しかし、「日本の製品を使うと情報漏洩はないけれど、一部で強制労働に関わっているのではないか」というようなことになると、セキュア(安全)なサプライチェーンから日本が外れてしまうというリスクも考えられます。
飯田)その場合のビジネスにおける損失は、膨大なものになる。
井形)膨大ですね。経済安全保障推進法案は、これだけではまだまだ足りないのですけれども、まずはこれを通すということを与党には頑張って欲しいですし、野党はこれがダメだと言うのであれば、「ここが足りないのだ」と、「もっとここをしっかりやった方がいい」という形で議論して欲しいですね。
人間関係まで徹底して調べる「セキュリティクリアランス」も
飯田)肝としての情報漏洩リスクがどうか、というところについて、製品面の問題もありますが、他方、インテリジェンスの世界の人たちと話すと、「日本に情報を渡すと結局、洩れてしまうのだよ」と言われることがあります。人間のクリアランスのようなことも、本来は議論しなければならないのですか?
井形)間違いないです。ここ3~4年ほど、「セキュリティクリアランス」と言うのですけれども、民間人でもどこで生まれてどういう学校を出て、どういう会社で働いて、どういう人と友達関係にあるのかというところまで、全部調べる傾向にあります。アメリカやイギリス、カナダなどのファイブアイズと呼ばれている国々のなかでは、もっと突っ込んだ調査もします。
飯田)ファイブアイズの国では。
井形)アルコールを飲みすぎていないか、女性関係がルーズではないか、ドラッグを使っていたことはないかなどを調べます。場合によっては、住んでいる場所に行き、ご近所をまわって「この方はどんな人ですか?」と聞き込み調査をするくらい徹底しています。アメリカではポリグラフ、嘘発見器を付けて「あなたはこの書類を提出しましたけれど、ここに書いたことは本当ですか?」というようなチェックまで行っています。
今回の法案には入らなかった「セキュリティクリアランス」
飯田)でも、それを日本でやろうとすると、国会でかなり紛糾しますよね。
井形)経済安全保障を日本でしっかりとやるためにはセキュリティクリアランスが必要であり、民間でもある程度は必要だ、ということは認識されていて、提言書には出ているのですが、今回入らなかった部分はまさにそこです。
飯田)国会で紛糾してしまう。
井形)まずは通りやすいものからやろうと。来年(2023年)、あるいは再来年の国会では、民間に対するセキュリティクリアランスの話が出て来るのではないかと思います。
飯田)それで間に合うかどうかですよね。本来であれば、もっと前からやっておかなければならないことですか?
井形)間違いありません。
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