ウクライナ情勢 複雑で難しい「その背景」

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月14日放送)に元内閣官房参与で前駐スイス大使の本田悦朗が出演。緊迫するウクライナ情勢について解説した。

ウクライナ情勢 複雑で難しい「その背景」

ロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ)=2021年10月13日 AFP=時事 写真提供:時事通信

ウクライナ情勢で米露首相が電話会談

緊張が続くウクライナ情勢をめぐり、アメリカのバイデン大統領とロシアのプーチン大統領は2月12日、およそ1時間の電話会談を行った。会談後、アメリカ政府高官は記者団に対し、両首脳は対話を継続して行く方針を確認したものの、「議論は平行線をたどった」と明らかにした。

飯田)ウクライナ情勢が緊迫しているなかで、アメリカも含めて各国、自国民に「退避せよ」という呼びかけが進んでいます。

国際的な観点と歴史的な背景の両面で考える

本田)各国の大使館職員にも退避命令が出され、もちろん一般国民にも退避命令が出ていますけれども、かなり緊迫しています。この問題を考えるときには、「力による現状変更を許さない」という国際法の観点から人権、民主主義を守るという筋を通すような話と、「なぜそんな問題が起こったのか」という歴史的な背景の両方を考える必要があると思います。

飯田)その両面を考える。

本田)私もソ連時代のモスクワに住んでいましたが、ウクライナという国は、ロシアの兄貴分なのです。先にキエフ公国ができて、そのあとにモスクワ大公国ができたのです。歴史的には、キエフの方が兄貴分なのです。

ウクライナの東側はロシアと一体化している

本田)しかし、力は遥かにモスクワの方が強いので、そこは複雑な感じになるのですが、文化が似ていて、言葉も似ています。ウクライナも東半分と西半分ではかなり文化が違いまして、キエフを含む西半分、ヨーロッパに近い方は、かなり西側に近いです。東半分は、完全にロシアと一体化しています。

飯田)ロシアと。

本田)今回、ロシアが侵攻するかも知れないと言われているのは、キエフまで入って来るかわかりませんが、主に東側です。2014年にクリミア半島をロシアが占拠しましたが、そのときも単に占拠したわけではなく、まず住民投票を行って住民の考えを聞き、8割~9割の賛成を得たところで、ロシアの実効支配が入った。もともとクリミアはロシアのものだったのです。というのは、ソ連崩壊まではソ連でしたから、どこの国に属していようとソ連はソ連ということで、フルシチョフがプレゼントしてしまったのです。

飯田)ウクライナがもともと自分の出身だったのですよね。

本田)ソ連が分割したあとで、しまったと。あれはプレゼントしたけれど、戻って来ないかも知れないという状況になったのですが、住んでいる人はほとんどロシア人なのです。言葉もロシア語ですし。だから、住民投票でミンスク合意があって、停戦協定が結ばれたのです。

NATOが勢力を拡大すれば平和が構築できるという単純なものではない

本田)今回も東半分は、モスクワと同じ経済圏に入っていますので、ロシアの産業連関が密接に結びついているのです。住んでいる人も多くがロシア人ですし、そこはうまい方法を考え出す必要があると。少なくとも、NATO勢力がロシアの国境を接するところまで来ると、なかなか平和構築が難しくなるかも知れない。

飯田)難しくなる。

本田)ウクライナの人には大変申し訳ないけれども、ある程度の緩衝地帯は必要なのです。それがベラルーシであり、ウクライナであり、グルジアなのです。あの縦の線は、平和を維持するための1つの装置ではないでしょうか。ただ、もちろん民主的にやって欲しいですけれども。そういうところがあって、直ちにNATOが勢力を拡大して行けば、それで平和が構築できるという考えは単純すぎると思います。

飯田)ロシアとしては軍勢を見せつけて、プレッシャーを掛けられるだけ掛け、獲れるものを獲って行こうという思惑があるわけですか?

本田)そうでしょうね。訓練をやっていますが、相当実戦に近い、激しい訓練をしていますので、デモンストレーション効果は期待しているでしょう。

ウクライナ情勢 複雑で難しい「その背景」

ロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席(ブラジル・ブラジリア) EPA=時事 写真提供:時事通信

ロシアのエネルギーを止めると西側も被害を受ける可能性が

飯田)一方、アメリカサイドは早々に経済制裁で行くのだという話を出していますが、これがどこまで効くかですね。

本田)経済制裁は本当に侵攻したら、絶対に行うでしょう。いくら歴史的な事情があっても、国際法を踏みにじるものであることは間違いないですし、国境というのは、1回決めたものは大事にしなければいけないということで、経済制裁はやって行くでしょう。

飯田)侵攻したら。

本田)ヨーロッパは特にエネルギー、天然ガスをロシアに依存しています。ドイツは55%以上の天然ガスが、パイプラインでロシアから来ています。いま、ノルドストリーム2がバルト海を通って来ていますけれども、もうすぐ操業が始まります。

飯田)そうですね。

本田)EU全体としても、4割近くがロシアのエネルギーを使っていますので、仮にエネルギーやドル払いの決済を止めた場合、かえって西側が被害を受ける可能性があります。かなりの返り血を浴びることになると思います。既に経済は密接に結びついているのです。

似て非なる中国とロシア ~日本はまず、中国との問題を解決するべき

飯田)そんななかで、日本を含めて何ができるのでしょうか?

本田)日本にとって、気になるのは中国です。日本の国益に資するという意味では、中国とロシアを結託させないことが大事です。私も住んでみてわかりましたが、中国とロシアは似て非なるものです。

飯田)似て非なるもの。

本田)中国は無神論者です。だから、徹底的にやってしまうのです。ロシアは一応、ソ連時代は無神論の建前でしたけれども、敬虔なキリスト教徒がたくさんいます。実は多くがキリスト教徒です。オーソドキシーですからね。プーチン大統領も敬虔なキリスト教徒なのです。

飯田)正教会と結びついていますよね。

本田)正教会です。ですから、その辺りのところが人間に対する態度の違いに反映される。ロシアも権威主義的な国ではありますけれども、中国のようなあからさまな独裁体制は取っていません。一応、民主的な手続きは踏んでいます。ただ、権威主義ではありますけれども。

飯田)一応、民主的な手続きは踏んでいる。

本田)日本にとって、二正面作戦を取るのは難しいので、まずは中国に集中する。北方領土問題は必ず解決しなければいけませんけれども、台湾問題、北方領土問題、尖閣問題を同時に解決するのは無理です。いま、我々にとって大事なのは中国との問題だということです。

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