ロシア軍が戦闘に入る確率は高い ~プーチン大統領がウクライナ東部地域の独立を承認

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ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」(2月22日放送)に東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏が出演。ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の一部地域の独立承認に署名したというニュースについて解説した。

2022年2月7日、モスクワでの記者会見に臨むロシアのプーチン大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部の2つの地域の独立承認に署名

ロシアのプーチン大統領は2月21日、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の一部地域の独立承認について、大統領令に署名した。

新行)ロシアの安全保障に詳しい、東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠さんに、緊迫するウクライナ情勢についてお話を伺います。ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の一部地域の独立承認について、大統領令に署名したというニュースが入って来ました。どう分析されますか?

小泉)実は、これらを承認することについて、1月から下院のなかでは言われていました。そして、2月15日に下院でドネツクとルガンスクを国家承認するという同意が出されまして、圧倒的多数で採択されているのです。

この独立承認によってウクライナとの交渉の余地がなくなる ~エスカレーションする可能性が

小泉)それを実行するかどうかは、プーチン大統領に一任されているという状態が1週間くらい続いていて、いつやるのだろうかという状況でした。ただ、それをやってしまうと、これまで言われていたロシアの戦略がかなり狂って来ると思うのです。

新行)ロシアの戦略が狂う。

小泉)というのは、ドネツク、ルガンスクは独立国家ではないのだけれども、ウクライナ政府が完全にコントロールできるわけでもないという状態なのです。これが、ロシアがウクライナに内政干渉するときに、都合のいいつくりだったわけです。しかし、完全に独立させてしまって、ロシア軍が進駐するという大統領令が出たのですが、ロシア軍が進駐して来ることになると、ウクライナとの交渉の余地がなくなってしまうわけです。

新行)交渉の余地がなくなる。

小泉)このままだと、単に「ウクライナが完全に離れて行ってしまう」ということになると思います。それだけでは済まず、これ以上何か進むようなエスカレーションがあるのではないかということが気になります。

ドネツク、ルガンスク含めウクライナ東部の人たちがみんな親ロシアではない

新行)スタジオにはジャーナリストの有本香さんもいらっしゃいます。

ジャーナリスト・有本香)この報道で、「親ロシア派が事実上支配しているドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国」と、あるいは「東部の親ロシア派地域」というような言い方をされます。しかし、実際にウクライナの方々に聞いてみると、もちろん武装勢力を支配している人たちがいるのは事実なのですけれども、ドネツクやルガンスクも含め、「東部のウクライナ人が親露である」というのも誤解だと、ウクライナの人たちは言っています。

小泉)そうですね。

有本)この辺りを考えますと、ロシア側が「ここを独立承認しました」と言って、さらに軍隊を進めることは果たしてできるのだろうかと。ウクライナ人の結束や反発も予想されますし、ヨーロッパ諸国も黙っていられないということになると思います。今後どうなって行くのか、具体的に見通しをお聞かせいただけますか?

小泉)確かに東部には、ロシア語を話すロシア系住民は多いのです。ただ、そのロシア系住民はアイデンティティとしてロシア人である、ロシア民族であるという意識は当然、持っているのですが、では親ロシア政府であるかどうかと言うと、まったく別の問題です。

有本)親ロシア政府であるかどうかは。

小泉)ロシア語を話すロシア系民族だからと言って、プーチン大統領が好きかどうかは、必ずしもイコールではありません。好きな人もいるのかも知れませんけれども。

2014年にも親ロシア派の蜂起を煽ろうとしたが拡大しなかった ~国境に多くの兵を集めて古典的な戦争をやる耐性を整える理由

小泉)2014年にロシアが最初に介入したときには、ドネツク、ルガンスクのもっと広い地域で騒ぎを起こそうとしたのです。ハリコフやオデッサというところでも、親ロシア派の蜂起を煽ろうとしたのです。

有本)大きな都市ですね。

小泉)しかし、思ったよりも広がらなかったのです。先ほど申し上げた通り、ロシア人であるから親露だという図式は成り立たないためです。そのことはロシアも8年前にわかっているはずですので、今回ものすごい数のロシア軍を国境に集めて来て、いわゆるハイブリッド戦争ではなく、真正面から古典的な戦争をやる体制を整えているのは、その理由からだと思います。

2022年1月29日、領土防衛隊の訓練に参加する人々=ウクライナ・キエフ近郊(共同) 写真提供:共同通信社

第2次ミンスク合意のように、ウクライナが飲めないような合意を強要する ~そのために軍事力を使う

小泉)つまり、現地人に大きなことを起こさせるのは難しいだろうと認識しているのです。ではロシア軍が攻めて行けば、ご指摘の通り、決して歓迎されないところに入って行くわけです。

有本)歓迎されないところに。

小泉)ではできないのかと言うと、これも「何を目的に軍事力を使うのか」というところにかかって来ると思うのです。攻めて行って、その土地を占領、併合してしまうという、世界史の教科書に出て来るようなことをやるのだとすると、確かに難しいかも知れない。

有本)武力で併合すると。

小泉)ただ、ロシアがこれまでウクライナに対して軍事力を使った場面では、軍隊を使い、何かウクライナにとって受け入れがたい状況をつくり出すのですよね。クリミアを占拠されるとか、ウクライナ軍の主力が包囲されるとか。それを人質にして、「このような合意を飲みなさい」ということをやって来たのです。第2次ミンスク合意は、まさにそうやって結んだのです。

有本)まさに政治のためということですね。

小泉)今回も、仮にロシアがこれ以上大規模に軍隊を使うとしたら、第3次ミンスク合意のように、さらにロシアにとって有利で、ウクライナにとって普通だったら飲めないような合意を強要するために軍事力を使う……そういうシナリオが考えられるのではないでしょうか。

ロシア軍が戦闘に入る確率は高くなっている

有本)そこはプーチン大統領の胸先三寸というところではあるのでしょうけれども。小泉さんとしては、特に北京オリンピックも終わりましたので、このあと、すぐに行動を起こす可能性は高いとお考えでしょうか?

小泉)そうですね。どのくらいの確率ということは具体的に申し上げられませんが、これまでに比べると可能性が高まっていることは間違いありません。そもそも、ドネツク、ルガンスクの国家承認についても、やってしまったらお終いだからやらないのではないか、という意見も専門家のなかにはあったのです。

21日にロシア軍とウクライナ軍の初めての直接交戦があったことをロシアが発表 ~大規模な戦闘につながる可能性も

小泉)ここまで踏み込んでしまいましたし、しかも、もうドネツクやルガンスク周辺では、たくさん戦闘も起きているのです。昨日(21日)はロシア軍がウクライナ軍の装甲車を破壊したという発表がありました。これが事実であるとすれば、初めてのロシア軍とウクライナ軍の直接交戦になります。ウクライナは否定していますけれども。

有本)初めての直接交戦に。

小泉)ですので、もはやロシアは直接ウクライナと戦闘に入っていることを隠そうともしない、あるいは、そういうことにしたいとも言えますので、大規模な戦闘がまだ続くのではないかと思います。

欧米の仲介も難しい

有本)フランスのマクロン大統領の仲介など、ヨーロッパ諸国などもいろいろな働きかけをしていますけれども、アメリカとロシアの会談に関しては、もうあまり望みを持っても仕方ないということなのでしょうか?

小泉)難しいでしょうね。前段階として、本当は24日にラブロフ外務大臣とブリンケン国務長官の会談があるはずなのですけれども、アメリカ側から「ロシアが軍事力行使をしない限りにおいて」という留保条件を付けられていますので、今回のロシア軍による攻撃はそれに相当するとアメリカは見るのではないでしょうか。

有本)なるほど。

小泉)プーチン大統領は21日、安全保障会議をモスクワで開きましたが、そのなかでマクロン大統領の悪口のようなことを言っています。完全にドイツ・フランスによる仲介努力をあざ笑うような言い方で、これを見ていると、厳しいなという感じがしました。

ラブロフ外相がプーチン大統領を説得するかのような映像を公開した狙い

有本)少し前に遡るのですけれども、ラブロフ外相がプーチン大統領を説得するかのような映像をあえて公開していました。あれはどういう狙いなのでしょうか?

小泉)あのような会合はよくやっているはずなのですけれども、わざわざペスコフ大統領報道官がカメラも入れてやっています。完全にシナリオを決めた芝居ですよね。

有本)芝居。

小泉)14日~15日にかけての段階で、一連の緊張緩和のシグナルをロシアは出していたのですけれども、同時に、ウクライナに対する圧力は強めているのです。まさにドネツク、ルガンスク独立の動議が出るのも、あれ以来ですし、サイバー攻撃が始まったり、いろいろな事件が起きたのが大体あの辺りなのですよ。

有本)あの映像が公開されてから。

小泉)西側に対しては緊張緩和ムードを出して、「あくまでこれは軍事的対立ではない」というシグナルを出しながら、ウクライナに対しては圧力を「グッ」と強めて行ったのが、あのくらいのフェーズに見えるのです。

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