ロシアに「降伏するかゲリラ戦で抵抗するか」究極の選択を迫られるウクライナ大統領

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月1日放送)に東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠が出演。ウクライナ軍が「ロシアによる首都キエフの占領工作は失敗」との声明を発表したというニュースについて解説した。

キエフで、現在の状況を説明するウクライナのゼレンスキー大統領(ウクライナ・キエフ) AFP PHOTO /UKRAINIAN PRESIDENCY PRESS OFFICE  写真提供:時事通信社

キエフで、現在の状況を説明するウクライナのゼレンスキー大統領(ウクライナ・キエフ) AFP PHOTO /UKRAINIAN PRESIDENCY PRESS OFFICE  写真提供:時事通信社

ウクライナ軍が「ロシアによる首都キエフの占領工作は失敗」との声明を発表

ウクライナ軍は2月28日、首都キエフの状況について「依然としてウクライナの支配下にあり、ロシア軍の占領工作はすべて失敗した」との声明を発表した。一方でロシアのタス通信は、ロシア国防省が「ウクライナ全土の制空権を掌握した」と訴えている。

「頑張れば頑張るほど、ロシア側の無差別攻撃が激しくなる」というジレンマに直面するウクライナ

飯田)タス通信は国営ですから、ロシアの大本営発表的なところもあると思いますが、全体の情勢をここまでどうご覧になりますか?

小泉)戦争が始まってからもう6日目に入ります。当初の想定では、ロシア軍は圧倒的なので、ウクライナの首都キエフや北部のハリコフなどは、すぐに落ちるだろうと見られていました。

飯田)そうですね。

小泉)しかし、ロシア軍に対してウクライナ軍が善戦していて、まだどちらも落ちていないという状況です。ロシア軍はかなり攻めあぐねている感じです。

飯田)ウクライナ軍の善戦に。

小泉)また、そのためにロシア軍は昨日(2月28日)ぐらいからハリコフに対して、無差別ロケット弾攻撃や無誘導爆弾による無差別爆撃を始めています。これが続くと、シリアやチェチェンでもそうでしたが、大量の民間人の犠牲者が出るわけです。「頑張れば頑張るほど、ロシア側の無差別攻撃が激しくなって行く」というジレンマに直面している状況だと思います。

このままでは「降伏するかゲリラ戦で抵抗するか」という究極の二者択一を迫らざるを得ないゼレンスキー大統領

飯田)それに対してウクライナはどうするのかというところですが、ゼレンスキー大統領は「私はここにいるのだ。ここにいて最後まで戦うのだ」というビデオメッセージも残しています。一説にはアメリカなどが避難するよう促したそうですが。

小泉)ゼレンスキーさんは元コメディアンなので、「人からどう見られるか」という戦略がうまい人だと思います。ロシア軍が20キロぐらい先まで迫っているので、普通なら大統領は脱出すると思うのですが、あくまでも首都に踏み止まって戦うと。しかも閣僚がみんなで自撮りをして踏み止まっていることを知らせ、「みんな頑張ろう」と呼び掛けています。有事のリーダーとしてはうまく振る舞っていると思うものの、軍事力ではロシアの方が圧倒的に優勢ですから、このままだと、どこかで組織的な抵抗ができなくなる壊滅点を迎えてしまうわけです。

飯田)どこかで。

小泉)そのときには、「降伏するかゲリラ戦で抵抗するか」という究極の二者択一を迫らざるを得ない。

飯田)究極の選択を。

小泉)唯一希望があるとすれば、その前に停戦で合意することなのですが、交渉は行われたものの、具体的な見通しは立っていないわけです。いずれにしても、非常に難しい状況にあることは間違いないと思います。

交渉がまとまらなければ、ロシアは凄まじい無差別攻撃に出る可能性も

飯田)先程、北東部の都市ハリコフで無差別攻撃が行われたという話がありましたが、まさにロシアとウクライナがベラルーシの国境付近で交渉している最中に行われていると。ロシアはこういうことをよくやるのですか?

小泉)これまでにロシアとウクライナの間で結ばれた停戦合意は、2014年の第1次ミンスク合意や、2015年の第2次ミンスク合意があるのですが、どちらもウクライナ軍の主力部隊がロシア軍に包囲されたなかで結ばれているのです。

飯田)包囲されたなかで。

小泉)ロシアにしてみれば政治的に有利なこと、つまり相手からすると、普通ならのみたくないような話をのませるときには、同時に圧力を掛ける。これはロシアに限った話ではないと思いますが、「我々の条件をのまないと破滅的な結果になりますよ」という形をつくってから交渉するわけですよね。

飯田)そういう状況に追い込んでから。

小泉)今回も同じように、「このままではキエフとハリコフが大変なことになりますよ」というメッセージだと思いますが、現実に停戦交渉がすんなりまとまらないだろうと考えると、これが交渉の材料ではなく、本当に更地にしてしまうような凄まじい無差別攻撃になって行く可能性があると思います。現実にシリアでもチェチェンでもやったわけです。そういう意味でも、これを単なる交渉戦術だとは見られないと思います。

ロシアに「降伏するかゲリラ戦で抵抗するか」究極の選択を迫られるウクライナ大統領

モスクワで、取材に応じるロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ) AFP=時事 写真提供:時事通信

都市への無差別攻撃が始まれば桁違いの死者が出る

飯田)アメリカ国防総省の高官などの分析では、ロシア軍は戦力の3分の2ぐらいを投入しているという話になっていますが、全力を投入した場合、瞬く間にハリコフが灰燼に帰す可能性もありますか?

小泉)3分の2ぐらいの戦力を投入しているというのは、おそらく地上部隊の話だと思います。これまでロシア軍は地上部隊を前進させて、都市を獲ろうとして来たわけですけれども、ロシア側の準備のまずさやウクライナ側の善戦があって、必ずしもうまく行っていません。

飯田)地上部隊の話。

小泉)一方でミサイル攻撃やロケット砲攻撃は比較的、前線の敵部隊に対して集中しています。一部は都市にも行われていましたが、過去の戦争ほど凄まじい人的損害は出していませんでした。

飯田)いまのところは。

小泉)ところが、「もうダメだ。シリアやチェチェンのように、都市に対しても無差別に攻撃する」とロシアが判断した場合には、桁外れの死者が出ると思います。まずこれが非常に不気味です。

飯田)都市への無差別攻撃が起これば。

小泉)ここへ来て戦闘爆撃機が都市の上空へ飛んで来るようになっていますので、ロシアがこれまで投入を控えていたような戦力、あるいは使用を控えていたような方法を使い始めているのではないか、という危機感を強めています。

飯田)ハリコフでは多連装弾などが見つかりました。かなり殺傷能力が高く、あまりコントロールが効かないものを使った攻撃が始まるということですか?

小泉)これまでは平原地帯で軍隊と軍隊がぶつかっていたわけですが、軍隊の守りを簡単に突破できそうもないということになると、「無防備な都市を無誘導兵器で無差別に攻撃してやろう」ということになりかねない。現実にそうなりつつあるわけです。

国際社会がロシアの侵攻阻止に失敗した時点でウクライナの選択肢は限られてしまった

飯田)そのダメージを、ゼレンスキー大統領を始め、ウクライナ政府はのむのかという話になって来る。

小泉)究極の選択ですよね。ここで「ロシアに降伏します」と言えば、当面、人死には避けられるわけですが、おそらく相当、長期にわたってウクライナはロシアの政治的な強い影響下に置かれる。もっと言ってしまえば、支配下に置かれてしまうだろうと思います。

飯田)支配下に。

小泉)他方、それを避けるためには、ゲリラ戦でこの先も抵抗するか、あるいは都市に立てこもって戦うことになりますが、これは人的被害を伴うわけです。これまでとは比べものにならないような死者が出るでしょうし、戦争は長期にわたると思います。

飯田)長期戦に。

小泉)どちらを選ぶか。正解はないと思います。どちらも受け入れ難いものであることは間違いありません。そもそも国際社会がロシアの侵攻抑止に失敗してしまった時点で、ウクライナが取れる選択肢はあまりないのです。

飯田)ウクライナが自発的に選ぶ選択肢が。

小泉)すべて丸く収まるという選択肢は、侵攻が始まってしまった時点でありません。最悪の状況のなかで、まだ受け入れられる最悪というようなものを探すしかないのです。そのなかで、民主的に選ばれたゼレンスキー大統領は「あくまでも抵抗だ」と言っているわけです。

飯田)ゼレンスキー大統領は。

小泉)それに賛同するか反対するかについては、私は部外者なので言えません。「それを尊重するしかないですね」というのが、いまの私の考えです。

ロシアに対して日本が厳しい経済制裁を科すことは日本の安全保障にとっても大事

飯田)西側諸国としては、力による現状変更を認めるわけにもいかない。

小泉)そうですね。

飯田)ゼレンスキー氏、あるいはウクライナを、西側諸国や日本がどう支援するかという話になると思いますが。

小泉)ロシアとの関係もあり、これまで日本が「ウクライナを支えましょう」という立場を鮮明にすることはなかったと思います。昨日(2月28日)、岸田首相もおっしゃったように、これは明確に国際秩序に挑戦している。つまりロシアは、これまで日本が安定して発展し、平和な国であることができた国際秩序というものを真っ向から壊しに来ているわけです。しかもその国は国連常任理事国で、さらに核兵器を持っているため軍事的に手出しができない。ここで日本として「ロシアの振る舞いはダメですよ」とはっきり言うのは、日本の国益にもなると思います。

飯田)はっきりさせることが。

小泉)また、台湾有事のようなアジアでの有事があった場合に、同じようなことが起こるという可能性もあり、日本にとっては安全保障上の喫緊の課題でもあるわけです。

飯田)台湾有事が起きた場合。

小泉)ですから、ロシアの行動にきちんと代償を払わせることは大事だと思います。今回、日本は厳しい経済制裁をロシアに対して発動しています。厳しい経済制裁を発動すると、ロシアのカントリーリスクは上がるわけです。実際にBPやシェルなどの石油企業がロシアから撤退し始めています。すぐにロシアを止めることはできませんが、こういうことを通じてロシアに「このようなことを繰り返しても何にもならない」と突き付けて行くことが重要だと思います。

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