ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月16日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。ロシアの国営テレビの職員が放送中にスタジオで反戦を訴えたというニュースについて解説した。
ロシア国営テレビ職員が放送中に反戦訴える
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐり、プーチン政権の意向に沿った報道を続けているロシア国営テレビで、ニュース番組の生放送中に職員の女性が手書きの文字で書かれた紙を持ち、スタジオで反戦を訴えた。女性が「戦争をやめて」と繰り返し叫んでいたところ、放送は別の映像に切り替わった。
飯田)この方は、編集担当者として働くマリーナ・オフシャンニコワさんです。その後、警察に拘束されて取り調べを受け、まず罰金が申し渡されたということです。
佐々木)長く拘束されなくてよかったかなと思います。これだけ世界中に放映されてしまったので、さすがにロシア政府も、あまり残虐なことはできなかったのでしょう。不思議なのは、手前で話しているアナウンサーはびくともしないのですよね。わかっていたのかも知れません。
飯田)マリーナさんは、事前に自撮りで動画収録した声明もインターネット上に上げています。お父さまがウクライナ人で、お母さまがロシア人だそうです。
経済制裁の直接の被害が国民に向かう ~その結果、国民のなかに「反西側の意識」が高まる
佐々木)ロシアを経済制裁すればするほど、苦しむのは国民になるのです。これは難しいところです。
飯田)経済制裁の直接の被害が。
佐々木)しばらく前に、モスクワ在住の日本人の方がツイートしていたのですが、外資系企業がいまロシアから撤退しているではないですか。その影響で解雇される人が続出している。当然ですよね。
飯田)撤退したために。
佐々木)外資系企業に勤めているロシア人は、西側の情報をよく知っていて、リベラルな考え方なのだけれど、その人たちが真っ先に酷い目にあっている状況があるのです。
飯田)そうですね。
佐々木)そんなリベラルな考え方の人でも、いざ自分が解雇されると、解雇された怒りが自分を解雇した企業の方に向かってしまう。そして徐々に「欧米が憎い」という気持ちになってしまう。
飯田)解雇されたということで。
佐々木)今回、軍事的な対応がNATOもアメリカもできないので、仕方なく徹底的に経済制裁するしかないのだけれど、やればやるほど、今度はロシア国民が苦しむ。そうすると国民の反西欧、反西側の気持ちが高まってしまう。
飯田)自分たちを苦しめるということで。
佐々木)戦争というのは「軍と軍が戦って、一般市民には影響を与えない」というのが基本原則なのです。しかし今回、プーチン大統領は完全にそれを破っていて、住宅街にもミサイルを撃ち込んでいるのだけれど、本来、戦争は軍と軍がやるものなのです。
飯田)本来の戦争は。
佐々木)市民には影響が出ないようにするのだけれども、経済制裁は武力戦争の代わりのことをやるので、対軍隊ではなく、対国民になってしまうのです。この問題は難しいですよね。
飯田)「近代の戦争は総力戦だ」と言われるなかで、経済制裁によってある程度エスカレーションをコントロールしようとしたことが裏目に出て、逆に相手側を団結させてしまう場合もある。
佐々木)かつての日本の「鬼畜米英マインド」のようなものを高めてしまうという問題があります。
ウクライナに「降伏するべきだ」という言説も
飯田)プーチン大統領も戦闘の長期化を織り込みつつあるということです。出口の見えないプレッシャーを諸国民の誰もが感じているかも知れませんが、そこで「停戦してしまえ」「降伏してしまえ」という言説も、日本のなかではありますけれど。
佐々木)突如としてそういうことを言い出し、みんなが「エッ」という感じになりました。
飯田)そういう感じでした。
佐々木)いろいろなことが言われていますが、日本が戦争に負けたのはアメリカとの戦争の1度だけです。アメリカの進駐軍は、決して日本に対して残虐的なことはしませんでした。しかも、無条件降伏と言いながら、1つだけ条件が入っていたわけです。それは昭和天皇を訴追しないということ。国体を護持するということです。それが受け入れられたから、日本は無条件降伏をしたのです。もし、あそこで昭和天皇を訴追するようなことになっていれば、本土決戦になっていた可能性もあります。
飯田)武器を置いた軍部どころか、国民でさえも「そうなれば」と、再び武器を取った可能性もあります。
佐々木)その場合、日本列島に住んでいる人たちが大変な血生臭い惨禍に陥っていた可能性があるわけです。そうなっていたら、日本が戦後、アメリカに対して抱く印象はまったく違っていたと思うのです。
飯田)いま思っているような平和的なイメージではないですよね。領土的野心がアメリカにはなかったから、ああいう形になった。
佐々木)そうなのです。だから、我々はチョコレートやガムをもらったという平和的なイメージが多い。
ウクライナの状況は太平洋戦争での「日本の全面降伏」とは異なる
佐々木)戦争で侵略されるとなると、ロシアが典型でシリア、チェチェンと同じようなことになる可能性があるわけだから、そこで「降伏しろ」という言説が出て来るのはまったく理解できません。ウクライナを戦前、また終戦後の日本になぞらえているからそういう発想になるのです。
飯田)ウクライナの状況はそれとは違う。
佐々木)昭和10年代の日中戦争で、日本が中国を侵略していたころ、当時の蒋介石政権だった中国に「降伏しろ。そうしたら人は死なない」とあなたたちは言えるのですか、という話です。
日本がアメリカの核の傘に入っていた時代とは状況が違う
佐々木)日本は長い間、アメリカの核の傘に守られて、あまり戦争のことなど考えなくてもよかったわけです。
飯田)冷戦の正面はヨーロッパでしたからね。
佐々木)アメリカが超大国になったころの90年代以降は、ソ連がロシアになって、弱い国になって行き、経済的にはもはや韓国規模です。だから「北の脅威がなくなっていた時期」があるのです。これが「自衛隊は別になくてもいいのではないか」という話になって行ったのです。
飯田)そういう危機感が必要なかった。
佐々木)しかし2000年代に入り、気が付いたら中国が習近平体制になって独裁者になり、北朝鮮は金正恩体制になって核開発を行うようになった。
飯田)ミサイルを撃つという兆候も見えて来ました。
佐々木)そして、かつて若きリベラルな指導者だったプーチン大統領が、恐ろしい独裁者になって暴走するようになった。日本と地理的に近い国は、アメリカを除くと中国、ロシア、北朝鮮、韓国ですから。韓国はあまり当てにならない。そうすると、独裁者のいる3つの国と我々は直面しているという状況です。
飯田)そうですね。
佐々木)20世紀のころのように、アメリカの核の傘に入っていた時代とは、まったく違う状況になっている。現在のウクライナ侵攻を目の当たりにして、それを我々は見せつけられているわけです。
飯田)維新の志士たちが弱肉強食の国際社会に放り出されたときの危機感と、似たような感覚を持たなければいけないかも知れない。
佐々木)似ていますよね。泰平の眠りから目が覚めてみたら、「世界はこんな猛獣だらけのジャングルだったのか」と驚くような。そういう状況なので、いい加減ここで考え方をスパッと切り替えないと、いつまでも前世紀にしがみついていてはダメだと思います。
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