「ロシアという名のソ連」のような状況 ~ウクライナ危機
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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月11日放送)に外交評論家・内閣官房参与の宮家邦彦が出演。ロシアとウクライナの外相会談について解説した。
ロシアとウクライナの外相が会談 ~止める気のないロシア
ロシアのラブロフ外相とウクライナのクレバ外相は3月10日、トルコのチャブシオール外相も交え、トルコ南部アンタルヤで約1時間半にわたって会談した。ウクライナでの即時停戦では進展がなく、ロシアは軍事作戦の続行を表明。今後の会談や交渉をめぐっても、見解の違いが浮き彫りとなった。なおロシアが2月24日にウクライナへの本格侵攻を開始して以来、両国の外相が対面で会談するのは初めて。
飯田)ウクライナ側のクレバ氏も「進展はなかった」と指摘しています。
宮家)そもそも、停戦交渉というのは、両方が停戦したくならないと先に進まないものなのです。今回の会談を見ていると、ウクライナ側は間違いなく停戦を考えているし、ある程度は譲歩してでも停戦したいと思っている。非戦闘員の死傷者数が著しいですから、戦闘は止めなくてはいけないと思っています。しかし、ロシアは全然、攻撃を止める気がないと思います。侵攻が必ずしも成功しているわけではないので、ロシア側はこれからもっと力を使って来るでしょう。
ロシアという名のソ連のよう
宮家)最近の情勢を見ていると、ロシアという名前のソ連のようですよね。
飯田)ロシアという名のソ連。
宮家)ソ連が共産主義の名においてロシアのナショナリズムをやっていたと考えれば、実は今も昔もロシアは変わっていないわけです。昔、グロムイコさんという人がいましたよね。
飯田)外務大臣ですね。
宮家)「ミスター・ニエット(ノー)」と言われた人ですが、いまのラブロフさんもいい勝負です。暖簾に腕押しというか、まったく動かないではないですか。
キエフを獲って傀儡政権をつくると言わんばかりの動き
宮家)非常に残念ですが、この状況では誰が仲介しようとしても、当分は成功しないでしょう。ロシア側には攻撃を止める気がないのですから。ロシアは力でねじ伏せられると思っているのではないでしょうか。
飯田)なるほど。
宮家)しかも、今や問題は単にウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に入らなければいいという問題ではありません。ロシアが戦争の目的を変えたか、変えていないのかはわかりませんが、いまの動きはキエフを獲って傀儡政権をつくると言わんばかりです。ただ、キエフ包囲網は必ずしもうまくいっていません。攻撃態勢の立て直しや、武器弾薬の補給のために時間稼ぎをしているのかも知れませんが、ロシア側の本質的な目的は変わっていないような気がします。
飯田)時間稼ぎのツールとして、人道回廊などがある。
宮家)そうです。あの人たちがやることは、残念ながら「まとも」ではないですね。
世界中が注目するウクライナ情勢
飯田)米ホワイトハウスのサキ報道官などが指摘していましたが、生物兵器や化学兵器を使うのではないかという報道もあります。一方で、ロシア側は「アメリカの支援によってウクライナ国内で生物化学兵器の開発が行われている」と言っています。これはフェイクだと批判されていますが、そういう情報が出て来ています。
宮家)詐欺師に「詐欺だ」と言われても、それは詐欺ではないですね。
飯田)逆にシリアなどでは、そういうことを言い募って自分たちが使い、「反体制側が使った」と宣伝したということですが。
宮家)シリアの場合は情報も限られていますし、場所も遠いので巷の関心は薄かったかも知れませんが、ウクライナはヨーロッパの一部ですから、世界中が見ています。私はプーチンさんの判断ミスだと思いますね。でもいまさら「間違えました」と言うわけはない。残念ながら、「力ずくでやる」というモードに入っていると思えてなりません。
ロシアが戦術核を使うことはない ~得意の脅し
飯田)その力ずくのツールとして、戦術核を使うのではないかとも言われています。
宮家)それはお得意の脅しだと思います。
飯田)これは脅し。
宮家)生物化学兵器については、そういう兆候があるかも知れません。ただ、これも米露の情報戦ですから、アメリカはそういう情報を流すことによって、ロシアを牽制して抑止しようとしている。もっとも、抑止は必ずしも成功してはいないですけどね。
原発への攻撃はインフラを制圧することが目的だった
飯田)心配なのが、原子力発電所をめぐっての話です。チェルノブイリはベラルーシから電力を引っ張って、電源を回復したという報道もあります。また、ザポリージャ原発では4日に砲撃があったという情報もあります。
宮家)私はロシアの肩を持つ気はないのですが、ウクライナの主要な電力源の3分の1~4分の1が原子力発電ですから、彼らはおそらく電力施設を獲りに行ったのだと思います。
飯田)「壊そう」という考えではなく。
宮家)壊すのであれば、もっと派手にやるでしょう。かなり衝撃的な映像ではありましたが、基本的には小銃や照明弾などを使いましたよね。
飯田)照明弾でしたね。
宮家)壊しに行ったというよりは、むしろ電力等、基礎インフラを制圧したかったのでしょう。しかし、国際社会もしくはメディアはそれをうまく情報戦で使いました。だから、ロシア側が正しいということではないですが、そういう状況だろうと思います。
飯田)双方ともに情報戦をやっているなかで出て来る情報ですので、1つ呼吸を置いてから分析しなければなりませんね。
9.11の状況がデジャブとして蘇る中国の動き
飯田)今回、仲介役をトルコがやりましたが、プレイヤーとして注目されたのは中国です。その辺りはどう見ていますか?
宮家)トルコができないことを、果たして中国ができるのかな、とは思います。いい意味でも悪い意味でも、ロシアの決意は固い。中国が出て来て、きちんと仲介し、状況を安定させてくれるのであればいいのですが、単なるポーズに近いのではないかという気がします。
飯田)ポーズ。
宮家)産経新聞にも書かせてもらいましたが、フランス語で「デジャブ」という言葉があります。「既視感」という意味ですね。私は2001年に起きた9.11直後のことを思い出すのです。当時はアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領が、「中国の動きが少しおかしいのではないか」と懸念を深め、対中政策を変えようとしていた時期でした。
飯田)中国との関係を。
宮家)しかし、そこで9.11事件が起きて、「これからはテロとの戦いだ」となってしまったのです。中国は賢いから「アメリカさん、うちにもウイグルと言うテロ集団がいるのですよ。あなたは中東でテロと戦いなさい。うちも協力しますから。その代わり、うちも国内でテロを制圧しますよ」という形で、うまくアメリカと握ってしまったのです。結果として、その後の20年間で中国はアメリカに追い付いてしまったわけです。
飯田)なるほど。
宮家)それをまた今回、うまくやるのではないか。すなわち現在、ようやくアメリカの関心がインド太平洋地域に戻って来た。ロシアは「いいチャンスだ」と思ってバイデン大統領をテストする。そして、ウクライナが泥沼化したら、中国はいい子ぶって、「私たちはロシアとは違うのですよ。中国とは話し合いができますよ」と、このようにアメリカに話を持って行くのではないかと思います。「必要があれば仲介する」と言って、「良い子」を演じている。これは既視感、デジャブだと思いました。
飯田)なるほど。しかしロシアがやろうとしていることは、力による現状変更ですし、内政干渉ですよね。
宮家)そうです。インド太平洋地域や東アジア、我々の周辺でも似たようなことが起こり得るわけです。そうならないよう厳しく対応することによって、中国に「こんなことをしたら大変なことになる」という教訓を与えなければいけないのでしょうね。
飯田)日本では、「ウクライナとロシアの間ですぐにでも妥協すべきだ」と主張する人もいますが。
宮家)グローバルで考えたときに、こういう状況で中途半端に妥協することが、どれだけ日本に対してブーメランで返って来るかを考えると、簡単に妥協すればいいというものでもないかも知れません。難しい判断だと思います。
アメリカの東アジアに対してのコミットは緩めさせてはいけない
飯田)日本の国益を考えると、アメリカの東アジアに対するコミットを緩めさせてはいけないということですよね。
宮家)その通りです。それがなくなると、ヨーロッパで起きたことが今度はインド太平洋地域で起きる。すると連鎖反応が起きて、力による現状変更が当たり前の世の中になって来ます。ますます世界は不安定になり、日本にとって最も不利益な状態になります。それは避けなければいけないし、韓国にもそのことをよく理解してもらえれば、共通の基盤ができるような気がします。中国の抑止は日米韓でやらなければいけないと思います。
飯田)新しい大統領として当選が決まった尹氏は、その辺りをもう意識していると。
宮家)元検事総長ですから、国際情勢についてどれだけご存知かは知りませんが、周りにいる人たちは極めて優秀な方々が多い。そういう意味では、しっかりとした外交政策チームができることだけは間違いないと思います。ただ、韓国国内がそれを許容するかどうかは、また別の問題としてあるだろうと思います。
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