ウクライナ情勢を見て中国が台湾侵攻する可能性は低い

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ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月10日放送)にキヤノングローバル戦略研究所・主任研究員の伊藤弘太郎が出演。中国の習近平主席の、フランス・マクロン大統領、ドイツ・ショルツ首相とのオンライン会談について解説した。

ウクライナ情勢を見て中国が台湾侵攻する可能性は低い

習近平氏、辛亥革命110周年記念大会で重要演説(北京=新華社記者/申宏)=2021(令和3)年10月10日 新華社/共同通信イメージズ 写真提供:共同通信社

中国の習近平主席、ウクライナ危機調停に意欲

中国の習近平国家主席は3月8日、フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相とオンライン形式で会談し、ウクライナ情勢について「沈痛な思いだ」と述べた上で、戦争を調停するために中国が国際社会と「積極的に動く」と表明した。しかし一方で、習主席は欧米各国などによるロシアへの制裁には反対する考えを示している。

飯田)ロシアを支持したというような報道もされていますが、中国はウクライナ情勢をどのように見ているのでしょうか?

伊藤)どちらかに態度を決めにくい問題ですよね。中国の経済的な力の源泉はどこから来ているのかというと、世界各国との交易やサプライチェーンなどです。経済安全保障などの議論もありますが、そうは言っても中国が世界にものを供給し、物流の拠点になっているので、中国としても、なかなかここは難しいところです。あくまで単独で動くというよりは国際社会と協力して動き、いまのところは様子見ということで、曖昧な感じにしているところはあります。

ウクライナ情勢を見て中国が台湾侵攻をする可能性は低い

飯田)いまウクライナに対してロシアが行っている「力による現状変更」は、潜在的に東アジアにおける中国の態度に似ていると感じる人は多いと思うのですが。

伊藤)そこは単純に比較できないのではないかと思います。中国の周りには、日本や韓国というアメリカの二大同盟国がありますし、この二大同盟国がそれぞれ最新の兵器を持っていて、戦力にもなっています。それが中国への抑止になっているのも事実なのです。文在寅政権でだいぶ弱まってしまったところはありますが、尹錫悦政権になって、そこが復元されて行く動きが働くと思うので、中国としてはやりにくい、踏み込みにくいところになると思います。

飯田)なるほど。ウクライナ情勢があるから「こちらも」と言って、台湾を獲るのではないかという話がありますが、それほど軽率に動けるような状況でもないのでしょうか?

伊藤)そうですね。見えない部分がより増えたのではないでしょうか。圧倒的な戦力があってもウクライナは善戦しています。台湾について、ウクライナと比較したときにどうだという話はしにくいと思いますが、台湾のバックにはアメリカと日本がいますし、韓国がどうなるかもわからない。オーストラリアも積極的に出て来ている。明らかにウクライナの置かれた状況とは異なるので、中国としては難しいですよね。

新政権になり、より踏み込んだ形で同盟国とのネットワークが強まる韓国

飯田)韓国政権が変わったというところで、その並びに韓国が再び出て来る。日本やオーストラリア、あるいはクアッドの枠組みなどにおいて、東アジア外交のバランスが少し変わって来るのでしょうか?

伊藤)文在寅政権は北に傾倒しているとか、中国に跪いているなどと日本では言われがちですが、表に見えないところでは、オーストラリアとの関係を発展させることもしています。2021年は特にそうでした。知らないところで共同訓練にも参加しています。

飯田)韓国軍とオーストラリア軍ということですか?

伊藤)日本やアメリカなどともです。他の国との共同訓練にも韓国はそれなりに関与していて、最低ラインは守っているのです。

飯田)そうなのですね。

伊藤)オーストラリアは韓国と日本とインド太平洋を結びつけるような、アメリカができないことをやっています。韓国が次期政権になれば、クアッドへの態度も明確にする可能性がありますし、より踏み込んだ形で太平洋諸国、アメリカの同盟国とのネットワークを強めるのではないかと思います。

ウクライナ情勢を見て中国が台湾侵攻する可能性は低い

Yoon Suk‑yeol of the main opposition People Power Party poses with bouquets after he was elected President over Lee Jae‑myung of the ruling Democratic Party at the National Assembly in Seoul, South Korea, 10 March 2022. EPA/YONHAP SOUTH KOREA OUT EPA=時事 写真提供:時事通信社

日韓の「パートナーシップ宣言2.0」を外交政策として掲げている尹氏 ~日韓関係を再構築する

飯田)日韓はかつて、「政治の部分では角を突き合わせていても、軍同士では仲がいいのだ」ということが言われていました。一方で、軍同士でも日本の哨戒機に対するレーダー照射事件があったり、旭日旗禁止法案を提出したりと、韓国軍との付き合いをどうするのか、ということも言われていました。現場ではどうなのでしょうか?

伊藤)あれが信頼失墜の原因ですね。特にレーダー照射事件です。本当におかしな話で、1998年に小渕さんと金大中さんがパートナーシップ宣言を結びました。

飯田)ありましたね。

伊藤)翌年から日本海で救難共同訓練を韓国海軍とやっています。そのときに向こうから初めて登場した船が、広開土大王(クァンゲトデワン)という、当時の韓国最新の自慢の艦だったのです。何を訓練しているのかと言うと、漁船などで火事があったときにお互い救助しようという、非軍事的色彩が強い訓練でした。そのときにP3C哨戒機なども飛ばしています。明らかにレーダー照射事件のときの状況と似ていることを、この20年間、訓練として積み重ねて来ているのです。

飯田)この20年間。

伊藤)ですので、やはりあの事件当時の韓国側の言い分はおかしいと思うのです。しかし、尹錫悦さんは「パートナーシップ宣言2.0」を外交政策として掲げているので、新政権が発足したのちに、「金大中さんの精神を生かして日韓関係を再構築して行く」と言っています。

飯田)日韓関係を再構築して行く。

伊藤)もう1度、「この20年の日本と韓国の間の安全保障協力は何だったのか。それによって何が得られたのか。過去の文在寅政権で何がダメになって、どのような不足をもたらしているのか」ということを、日本側から議論を提起して、韓国側を説得し、新しい形に持って行くことが望ましいと思います。

飯田)場合によっては、「あの件は一体どのような経緯があったのか」という報告書を出してもらうような。

伊藤)個人的に期待しているのは、「実は当時はこうだった」という感じで、誰かが罰せられるということです。

飯田)それによって、ある意味の落とし前をつけるということですね。

伊藤)ただ、それはないのではないかとも思うのですが。

朝鮮半島有事や台湾有事の際には最前線となる「烏山基地」

飯田)アメリカからすると、台湾を見据えながら東アジアで安全保障関係をやって来ている。韓国には陸軍主体ではありますが、在韓米軍がいます。ここのアセットには当然、大きいものがあるわけですよね?

伊藤)そうですね。なかなか目立たないのですが、空軍があります。

飯田)烏山空軍基地という大きな基地があります。

伊藤)F16戦闘機や、U2偵察機などがあり、F16はF35に代替され始めています。特に烏山基地は、物流や航空統制の拠点になっています。2021年、台湾にアメリカの代表団が非公式に訪問しましたよね。アメリカのかなり大きい輸送機で飛んで行きましたが、あれは烏山基地から飛んでいます。

飯田)朝鮮半島有事の際には当然、最前線ということになりますが、台湾、あるいは南シナ海で何かあった場合、烏山基地が補給の最前線になるのでしょうか?

伊藤)補給もそうですが、何よりもまず中国の攻撃対象になりやすいです。

飯田)近いという意味で。

伊藤)同時に、北朝鮮が何かして来たときには対応しなくてはいけないので、尹錫悦さんの外交ブレーンなどは「まずそこが第一だ」と言っています。北朝鮮の挑発をいかに抑止するのか。台湾有事が起きた際は、まず自分たちがそこで踏ん張って、北朝鮮が何かしでかさないようにすると。

飯田)アメリカの戦力を台湾正面に投入できるようにするには、後詰めをきちんとしておかなければいけない。

伊藤)在韓米軍の戦力としては、陸軍のアパッチなどをローテーション配備から常駐にしました。あれはまさに、北の挑発を防ぐための1つのアメリカの答えです。

飯田)日本としてもどう対応するにせよ、そこで北朝鮮もということになると、日本も二正面を強いられるかも知れませんね。

伊藤)当然、考えなければなりません。

ウクライナ情勢を見て中国が台湾侵攻する可能性は低い

ロ軍、非軍事施設も標的  ウクライナの首都キエフで炎に包まれるテレビ塔(ロイター=共同)2022年3月1日 写真提供:共同通信社

韓国新政権発足やウクライナ危機によって中露の軍事協力がどう変わるのか

飯田)そこにウクライナ情勢が加わると、ロシアとの関係はどうなるのかということになります。

伊藤)難しい問題ですね。そこまでの連立方程式を誰が解くのかという。

飯田)三正面になるのかどうかですよね。

伊藤)極東ロシア軍については考えなければいけないと思いますが、ロシアが極東も含めて相当、戦力をウクライナ正面に持って行っているので。

飯田)そうですね。

伊藤)軍事的脅威としては心配しなくてもいいのかなと、個人的には思います。むしろ私が注目しているのは、中露の軍事協力が進化しているので、今回のウクライナ危機によって、どのように中露の距離感が変わるのかということです。2021年には日本海の津軽海峡を1周しましたよね。

飯田)中露艦艇10隻が通過しました。

伊藤)あのような戦略的コミュニケーションを含めた軍事協力が今後、韓国の新政権発足やウクライナ危機によって、同じように行われるのか、もしくはなくなるのか、中国だけがやるのか。そこは見て行く必要があると思います。

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