ジャーナリストの佐々木俊尚が4月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。4月9日に日本で開催されるフィリピンとの「外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)」について解説した。
日本とフィリピンの「2プラス2」、4月9日に初開催
政府はフィリピンとの外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を、4月9日に都内で初めて開くと発表した。林芳正外務大臣と岸信夫防衛大臣が出席し、東シナ海や南シナ海で覇権主義的な行動を強める中国への対処を念頭に防衛協力などを協議し、結束を確認する。
飯田)東南アジアで2プラス2の枠組みを設けるのは、インドネシアに続いて2ヵ国目だそうです。
佐々木)「自由で開かれたインド太平洋」という、安倍政権のときから始まった日本の外交戦略の一環として考えるべきでしょうか。フィリピンは難しいところで、昔はクラーク空軍基地などの米軍基地がありました。しかし、1991年にピナトゥボ火山が大噴火して、基地に被害が起きるということで閉鎖となり、フィリピンに返還されたのです。冷戦も終わり、何も起こらないだろうと思われていました。
飯田)その後、米軍は撤退しました。
舵取りが難しくなったフィリピン
佐々木)あのときはまさか中国が台頭して、南シナ海に押し寄せてくるとは誰も思っていなかったのだけれど、その後、そういう状況が起きたので、フィリピンもここへ来て舵取りが難しくなっているのです。
飯田)舵取りが。
佐々木)東南アジアにとって、中国は大きな貿易相手国なので、敵対するわけにはいかないのだけれど、経済関係が緊密だからといって戦争が起きないわけではないというのは、まさに今回のロシアによるウクライナ侵攻が示しています。
飯田)ガスの取引でヨーロッパとの間では、相当な額が取引されているはずでしたからね。
アメリカ、日本と仲よくして守るしかないフィリピン
佐々木)「緊密だからまさか戦争になるわけがないだろう」とみんな思っていたら、そんなことはなかった。だから、よく中国に対しても「経済的に結びつけば日中間の紛争は起きないのだ」と言っている人がいましたが、そんなことはあり得ない。経済は経済、戦争は戦争だということです。フィリピンも、ここでアメリカや日本と仲よくしておいて、何とか守るしかないという方向に舵を切り始めているのではないでしょうか。
飯田)アメリカ、日本寄りに。
中国にとってのロシアの存在 ~ないよりはあった方がいい
佐々木)今回のウクライナ侵攻で、「中国がどう出るか」ということがかなり注目されていますが、いまのところ、よくわかりません。安保理の会合ではロシアに同調しているような感じはします。最初はロシアに武器を供与するという話もありました。しかし、それもいまは進んでいないので、様子を見ているのだと思います。
飯田)中国は。
佐々木)これだけロシアが国際社会のなかで孤立しているのを見て、あまりそこに引き摺り込まれたくないという考えはあるのでしょう。先日、中国の某大手テック企業の人と会う機会があって、その人に「どうなのですか、中国は。ロシアと仲よくするのですか?」と聞いてみたら、「引き摺り込まれて国際的に孤立する仲間にはなりたくない。ただ、中国には『唇滅びて歯寒し』ということわざがあるのですよ」と言うのです。
飯田)唇滅びて歯寒し。
佐々木)歯にとって、唇は盾のようなものです。ロシアがいなくなり、中国だけがヨーロッパやアメリカと対立しなければいけなくなると厳しいので、ロシアがいてくれた方が少しは助かるという。そういう微妙な気持ちなのだということです。
飯田)ないよりはあった方がいい。
佐々木)そうなのです。
中国がロシアを飲み込む?
佐々木)ロシアは経済的には極めて弱い。GDPの規模は韓国ほどもないと言われていて、輸出品も天然ガス、石油、小麦くらいしかなく、かなり脆弱な国です。軍事力だけが異様に強いのだけれど、その軍事力すら、軍力としてはどうなのか。持っているのは核だけという感じになってきているのです。
飯田)そうですね。
佐々木)一方で、中国は経済的にも極めて強い。GDPもアメリカを抜く勢いなのだから、そのうちロシアは中国の属国になりかねないという見方もあります。先日、政治学者で立命館大学教授の上久保誠人さんが、『ダイヤモンド・オンライン』に寄稿していました。
『中国がロシアを飲み込み「モンゴル帝国」再出現?日本の難しい舵取り』
~『ダイヤモンド・オンライン』2022年4月5日配信記事 より
佐々木)モンゴル帝国の再出現ではないかと書かれていたのですが、「タタールのくびき」ですよね。ユーラシア大陸が中国中心に再構築されて、ロシアはそこにぶら下がるだけの国になる可能性があるという。
飯田)ロシアからすると、それはまた嫌でしょうね。ある意味の「タタールのくびき」。キプチャク・ハン国は圧政を強いたから、ロシアにとっての黒歴史的なところはありますものね。
佐々木)そうは言っても、プーチン政権が続く限りは西側の制裁は終わらない。しかも、プーチン大統領が引くとは思えないので、制裁が長く続けられる。そうするとロシア経済が低迷化し、崩壊していく。
ロシアが中国経済的な枠組みに取り込まれる可能性も
佐々木)例えば今回のブチャ虐殺で、ヨーロッパがロシアから天然ガスを輸入しないという方向に舵を切りつつある。そうなると、輸出先は中国しかなくなってきます。また、VISAやMastercardが使えなくなっているということで、銀聯(UnionPay)カードという、中国のクレジットカードがロシアで使えるようになるのではないかという話もあり、ロシアが中国経済的な枠組みのなかに取り込まれていく可能性はあるのです。
中国がユーラシアの盟主になるか ~「中国対西側」というのが最大の主戦場になる
飯田)そうすると、一帯一路を中心として、中東諸国がどこまで飲み込まれるかというような話になる。
佐々木)明らかに「ロシア・中国対西側」ではなく、中国が盟主になるということです。ユーラシアの一帯一路を軸にして、そうなる可能性は大きくなっているのだと思います。
飯田)昔の地政学に戻って、ランドパワー、シーパワーの話になってくるかも知れませんね。
佐々木)新冷戦という言い方もよくされているのだけれど、中国の現状がかつての米ソ対立と違うのは、ソ連は経済的にもダメになって、ある意味、自壊した帝国だったわけです。でも、中国の経済がダメになる可能性は、現時点でほとんどないですからね。
飯田)結びつきは強いですよね。サプライチェーンが。
佐々木)半導体だって、例えば台湾に侵攻して、台湾が制圧されれば、世界の半導体シェアの多くを中国が握る。もちろん、半導体の素材は日本が供給している部分も大きいので、必ずしも中国だけが供給できるというわけではないのですが、世界経済に対する影響力は極めて強い。
飯田)そうですね。
佐々木)ロシアによる今回のウクライナ侵攻は大変な事態なのだけれども、これは後世から見ると、「前哨戦だった」という話になるかも知れない。実は「中国対西側」というのが最大の主戦場になる可能性は極めて高いですし、この事態がどういう結末を迎えるのか、まったくわかりません。
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