外国からの情報と下からの情報の違いに「疑心暗鬼」になっているプーチン大統領

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国際政治学者で慶應義塾大学教授の神保謙氏が4月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアによる侵攻から1ヵ月が過ぎたウクライナ情勢について解説した。

外国からの情報と下からの情報の違いに「疑心暗鬼」になっているプーチン大統領

2021年12月21日、ロシア国防省幹部の会合で話すプーチン大統領(タス=共同) 写真提供:共同通信社

アメリカのバイデン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が電話会談

アメリカのバイデン大統領は3月30日、ウクライナのゼレンスキー大統領と約1時間にわたって電話会談した。声明によると、バイデン氏はこのなかでウクライナ政府に5億ドル(約610億円)の財政援助を直接実施する意向を表明している。

飯田)これに先立つ形で停戦に対する協議があり、今回のアメリカとウクライナの首脳会談が行われたという流れになりました。一連の情勢をどうご覧になりますか?

神保)バイデン大統領とゼレンスキー大統領の会談では、主にウクライナ政府への財政支援について話されています。ウクライナは1ヵ月を超える戦争で戦費がかかり、その上、生産機能も停止して産業が破壊され、数百万人の国民が国外に出て行ってしまいました。その経済損失は莫大です。

飯田)そうですね。

神保)スビリデンコ第1副首相兼経済相が3月28日、これまでのウクライナの経済損失を約70兆円と試算しています。試算の方法はいろいろあると思いますが、とにかく莫大な損失です。本来ならロシアが、のちに戦後賠償を出すべきだと思いますが、そこに辿り着く前にウクライナが財政破綻してしまってはいけないので、政府機能を国際社会が支援しなければいけません。その支援の一環だったのだと思います。

ウクライナに対する新たな安全保障の枠組みとドンバス地域の2州の地位について

飯田)ウクライナ側は、現金はもちろんのことですが、一貫して装備品や兵器の提供を求めているのですよね?

神保)財政だけではなく、さまざまな装備に対する支援が求められています。多くの避難民が隣国のポーランドで受け入れられていますが、地域全体での支援が非常に重要で、いまは避難民を受け入れた国への財政圧力が強くあります。人口の数%という割合で避難民が入っているので、これを地域で支えていくのはとても大切なことだと思います。

飯田)欧州連合(EU)全体として、あるいは西側全体としてどう見ていくかというところになりますが、その枠組みはこれからつくられるということですか?

神保)そうです。最も大きな課題は停戦交渉だと思います。3月29日にトルコのイスタンブールで第4回目の停戦交渉があり、進展があったと言われています。どういうところに着地可能なのかは依然として不透明ですが、焦点となるのは、ウクライナに対する新たな安全保障の枠組みと、ロシア側は東部ドンバス地域の2州をドネツク人民共和国・ルガンスク人民共和国として独立承認していますが、その地位をどうするのか。この2点に関しては、最後まで調整が必要とされると思います。

飯田)安全保障の枠組みとドンバス地域について。

ウクライナが求める安全保障の枠組み ~場合によっては「台湾関係法」のようなことも

神保)この安全保障の枠組みが難しい。ロシアはウクライナに北大西洋条約機構(NATO)に加盟して欲しくない。そのため中立化、非武装化を求めてきた経緯があるのですが、ウクライナが求めているのは、「ブダペスト覚書」以上の安全保障です。

飯田)「ブダペスト覚書」以上の安全保障。

神保)1994年のブダペスト覚書にも、「安全を保障する」と書いてあったのですが、これが全然保たれなかった。ウクライナはNATOには加盟しませんが、代わりにブダペスト覚書以上の安全保障を求めています。具体的にたくさんの国が挙げられていて、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ポーランド、トルコ、イスラエル、カナダが集団で安全を担保するという枠組みのようです。

飯田)担保とはどういうことですか?

神保)仮にウクライナが攻められた場合、これらの国々が武力介入するのだとしたら、NATO条約第5条とほとんど同じです。NATOに加盟しないまでも、NATOのようになってしまうということなので、ロシア側にとってはのめない話だと思います。

飯田)この国々の並びを見ると、NATO主要国がほぼすべて入っているように見えますね。

神保)さらにプラスアルファという感じもします。ですから、ここで何らかのウルトラCが必要だと思うのですが、場合によっては台湾関係法のように、いま挙げた国々の国内法および国内約束として、ウクライナの安全を支援する枠組みをつくる。その他の介入に関しては、曖昧にするというのが1つの方法だと思います。

NATO加盟はない、外国駐留軍を常駐させないが、ウクライナ軍への支援はする ~ウクライナとの安全保障協力については曖昧にする

飯田)各国のなかで、国内法としてウクライナとの関係を定義するということですか?

神保)ウクライナが「何をしないか」ということは明らかです。1つは、ゼレンスキー大統領も明言していますが、NATOへの加盟をしないということです。もう1つは、外国の駐留軍をウクライナ国内に常駐させないということです。

飯田)外国の駐留軍を常駐させない。

神保)そういうことでロシアに対する安心供与を明示しつつ、ウクライナ国軍の強さは防衛上、非常に大事なので、それはいま挙げたような国々が支援する。ウクライナとの安全保障協力をするかどうかについては曖昧にする。こういう枠組みがあり得るかも知れません。

飯田)なるほど。

神保)まだ交渉の最中なので、予断を持って申し上げるのはよくないのかも知れませんが、ロシアの落ち着きどころを探すためには、こういうことも考えておくべきだと思います。

外国からの情報と下からの情報の違いに「疑心暗鬼」になっているプーチン大統領

政治 ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで国会演説を行った=2022年3月23日午後、国会内 写真提供:産経新聞社

西側による将来の関与に関しては「曖昧にする」ことがポイント

飯田)「守るかどうかはかわからないけれど、守る枠組みはある」という戦略的曖昧性ですね。台湾関係法に絡めると、その信頼性や抑止的な効果について、ウクライナ情勢が弾ける前はアメリカ国内で議論されていました。特に軍の関係者などからは「これならやらないかも知れないと思って、中国が出てくるかも知れない」と、「もっと明確にコミットメントすべきだ」という意見もありましたが、そこはどうなのですか?

神保)それはあると思います。ただ、今回の場合、予めバイデン大統領は「ウクライナにはアメリカの地上軍を派遣しない」というところから議論がスタートしたので、その「しない」というラインの下側において、ロシアに対する「青信号」が出てしまったということです。

飯田)青信号が。

神保)これからの枠組みは、「そこも曖昧にしないといけない」ということだと思います。西側のウクライナの安全にコミットする諸国は、「情勢の変化によっては何をするかわからない」ということを明示しておく。ロシアにとってみると条約上の義務ではないから、そこはクリアされるのですが、将来の関与に関しては曖昧にするのがポイントですね。

「プーチン大統領に誤った情報が上がっている」とアメリカ政府が言う理由

飯田)相手がいる交渉事なので、ロシアがどう出てくるかですが、3月31日のこの番組のなかで防衛研究所の千々和泰明さんに話を伺ったとき、「最終的に、権威主義的な体制だとプーチン氏が決断することが大事になる」とおっしゃっていました。そこへの情報が上がっているかどうかが疑問ですよね。きょうの新聞各紙にも出ていますけれど、誤った情報が上がっているのではないかと、アメリカのホワイトハウスが分析しています。

神保)今回、ロシアに戦略的な誤算があったのは間違いなく、明らかにウクライナ国軍や国民の抵抗を過小評価していました。失敗の原因について、多くの人は権威主義国家の指導者への権力集中における、悪いモデルだと捉えています。

「プーチン大統領は海外からの情報をたくさん持っている」という説

神保)情報が集まらなくなり、判断を間違えるというサイクルに陥っていると見られ、「情報が上がらないからプーチン大統領が判断を誤っている」という説があります。側近を寄せ付けないような情報空間、あるいは戦争の前には1人ひとりに発言させて、発言者を貶めるような発言をするという緊迫した空間のなかで、「誰がプーチン大統領に都合の悪い情報を上げるのだろうか」という説があります。

飯田)そうですね。

神保)2つ目の説は、「プーチン大統領はたくさん情報を持っている」というものです。しかし、海外から得られる情報と、国内から上がってくる情報があまりに違っていて、疑心暗鬼になっているという説です。

飯田)疑心暗鬼に。

神保)「もしかしたら、この側近は自分を貶めようとしているのではないか」と考えてしまう。アメリカはそういう報道の仕方をしています。「この情報をクレムリンのなかに入れることによって、プーチン体制における信頼を崩していこう」という情報戦の一環として捉えることもできます。

飯田)プーチン氏は諜報機関出身なだけあって、情報を集めるチャンネルはかなり持っているのかも知れませんね。

神保)「プーチン大統領が情報を持っていない」という見方は危険だと思います。むしろ情報をたくさん持っていて、「プーチン大統領がどれほど信頼を置いて国内の体制を見ているか」というところに楔を入れたいのではないかと思います。

飯田)アメリカはこういう情報戦を行うのですね。

神保)「クレムリン内部にも、いろいろな人がいるかも知れない」とプーチンさんに思わせるのです。そうすると側近を信用できなくなりますからね。

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