プーチン大統領が「理解不足」によって犯したウクライナ侵攻の大きな失敗

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が4月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。G7がロシアに対する追加制裁を行う方針を発表したことを受け、ウクライナ情勢の今後について解説した。

プーチン大統領が「理解不足」によって犯したウクライナ侵攻の大きな失敗

モスクワのクレムリンで、ベラルーシ大統領との共同記者会見に臨むロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ) AFP=時事 写真提供:時事通信

G7が首脳声明を発表 ~ロシアからの石炭の輸入禁止、段階的廃止へ

先進7ヵ国(G7)は4月7日、首脳声明を発表し、ウクライナの首都キーウ近郊ブチャなどでロシア軍撤退後、民間人とみられる遺体が多数見つかったことを受け、ロシアに対する追加制裁の方針を打ち出した。石炭輸入の禁止や段階的廃止を含め、ロシア産の化石燃料依存の低減を速やかに進めることを明記した。

飯田)ロシア軍による残虐行為、あるいは大量殺戮という表現もあります。

宮家)ブチャの映像は衝撃でした。あのような惨状は、敗走する軍隊が統率が取れなくなって起こることはあり得るのだけれども、今回はどうやらロシア軍による組織的な行動だということで、許せるものではありません。

飯田)そうですね。

宮家)こういう形でG7が首脳声明を出し、て外相も厳しく批判しています。何より、G7とNATOが一緒に開かれるようになったのも、珍しいことです。NATOはNATO、G7はG7ということで、昔は日本の出番も少なかったのです。

飯田)NATOに日本の外相が呼ばれて出席するというのは、いままでは考えられなかった。

宮家)考えられませんでした。しかし、ロシアの私掠は日本にとっても対岸の火事ではないので、ここはしっかりと発言力や影響力を示さなければならない。重要なことだと思います。

有事には経済合理性は関係ない

飯田)その意味では今回、G7が共同で声明を出し、日本ももちろん加わっていますけれども、歩調を合わせていくのが大事ですか?

宮家)基本的な方向性はそうです。ただ、常に「悪魔は細部に宿る」わけで、細部とは何かと言うと、「具体的にどのくらい制裁をするのか」ということです。今回は石炭の輸入禁止、段階的廃止の話が出ています。石炭でも確かに日本に影響があることは事実です。

飯田)日本でも火力発電などに影響する。

宮家)サハリン1・2の話になれば当然、天然ガスにも影響が出るわけですが、1つの教訓として私たちが理解すべきなのは、「有事には経済合理性は関係ない」ということです。

飯田)有事には経済合理性は関係ない。

宮家)プーチンさんがもし本気で経済のことを考えていたら、侵攻など行わないのがいちばんいいのです。「やるぞ」と言って圧力を掛け、政治的な駆け引きをして、経済的にも不利益にならないようにする方がいい。しかし、今回、侵攻してしまった。その結果、ロシア経済が混乱しているではないですか。

飯田)制裁によって。

宮家)これはまだ序の口です。これからロシア国民は相当耐えなければいけないわけです。NATOは結束してしまったし、ウクライナ軍に対する過小評価など、プーチンさんはいろいろな間違いをしたのだけれど、最も大きな失敗は、経済合理性で物事は動かないということを理解しなかったことです。

飯田)経済合理性では。

宮家)この点は我々も下手をすると忘れるわけです。エネルギーの問題、石炭の問題は確かに重要です。彼らが経済的に物事を考えていたら、そもそも侵攻しなかったかだろうかというと、そこは、やはり侵攻するのです。経済とは関係ないから。

飯田)経済合理性を飛ばして。

宮家)バイデンさんだってそうです。どんどん経済制裁を行い、金融も止めるわけでしょう。そんなことをしたら、世界経済が揺らぎますよね。それでもやるのです。なぜならば、有事には戦略的な合理性の方が優先されるからです。このことを我々は肝に銘じなければならないと思いますね。もちろん平時ならいいのです。しかし、有事には違うロジックになるということを忘れてはいけない。

プーチン大統領が「理解不足」によって犯したウクライナ侵攻の大きな失敗

演説するゼレンスキー大統領=Ukrinform/時事通信フォト

エネルギーは平時にはマーケットで決まるが、有事には政治的に決まる ~限られた国にエネルギー源を依存してはいけない

宮家)もう1つは、エネルギーは平時だとマーケットによって決まるけれど、有事には政治的に決まるのだということです。現在は供給自体が政治的に決まっているではないですか。その意味では、また難しい時代がやってきたなと思います。

飯田)エネルギーに関して、有事には政治的に、平時には市場で決まるというのは、中東の話で宮家さんがよく話していましたが、もはや中東だけの話ではないということですね。

宮家)いつもこうなるのです。平時のときはこのことを忘れてしまうのですよ。しかし、最近は原油価格が1バレル=95ドルくらいまで下がったでしょう。ですから少し一息つけるのでしょうけれどもね。

飯田)都市ガスの会社などは、「ロシアから入ってこなくなったら供給もストップする」というようなことを言っていて、「だからサハリン2の事業でLNGを入れるのだ」と主張していますが。

宮家)短期的にはそれでいいのですが、中長期的に考えたときに、ドイツの場合も同じだけれど、ロシアのような国に重要なエネルギー源を依存していいのかということです。常にロシアがダメになった場合を考え、別の手が打てるようにしておくべきなのです。もちろんコストはかかるから、経済的合理性はないのだけれども、それをやるかやらないかというのが安全保障、危機管理のポイントです。そのことを我々は忘れてはいけません。

ロシア軍の準備不足は明らか ~東部地方を獲れるかどうかもわからない

飯田)ウクライナ情勢について、経済合理性で判断するようなフェーズではないということですが、この先についてはどうご覧になりますか?

宮家)大きな流れとしては、「戦争目的が変わった」という議論があります。ロシアはもともとキーウなど獲る気がなかったと言う人もいますが、それはどうでしょうか。でも当初のロシアの兵力の動きを見ていると、わずか20万人弱の部隊でウクライナを東南と北から攻めているわけです。

飯田)20万人弱の部隊で。

宮家)特にキーウを獲ろうとしている部隊の主力は、ベラルーシから入っています。友好国とは言え、別の国で演習していて、突然そこから入るというのは準備不足ですよね。

飯田)準備不足。

宮家)明らかに準備不足です。という訳で北はもうあきらめて撤退しました。キーウにはもう脅威は少ない。ここからまたやり返すという可能性もゼロではないのですが、プーチンさんはおそらく「名誉ある出口」を探しているのでしょう。「負けてしまいました。すみません」では、あの人は済まないですから。

飯田)国内も許さない。

宮家)「勝った」ということにしなくてはいけない。でも勝ってはいません。そうなるとキーウはあきらめて、これからは東部で獲った部分を増やし、それで「この成果を見ろ!」と主張する。獲った部分を領土にするのかどうかはわかりませんが、勝ったのだと言わなければいけないわけです。

飯田)そうですね。

宮家)しかし実際はどうでしょうか。もしキーウの脅威が減ったのならば、ウクライナの主力も東に行きます。そうするとロシアは簡単に東を獲ることはできません。そんななかで5月9日がやってくる。

飯田)戦勝記念日。

宮家)その日がどのくらい大事かは別として、ロシアが軍事的にそこまで持つかどうか。

情報戦でウクライナに負けているロシア

宮家)いろいろなことを考えると、非常に厳しい状況だと思います。NATO諸国は、確かに直接戦闘には参加していないけれども、それ以外のことは全部やっているのです。しかもいまの戦争は陸海空だけではなく、サイバーと宇宙と電磁があり、そこに情報が入って、7つの戦域があると私は思っています。特に今回、ウクライナは情報戦が強かったわけですけれども、我々の見えないところで、新しい概念の戦闘が行われているのです。

飯田)新しい概念の戦闘が。

宮家)国際法の観点から言えば、それが戦争行為なのかということはわかりませんが、実態として、ミサイルや銃などの在来型の兵器によるものではない「見えない戦闘」が行われているということです。それにロシアが勝てなかった。

飯田)国際法の観点だと戦争行為と言えるかわからないというのは、いわゆるグレーゾーンの部分ということですか? 干戈(かんか)を直接交えないけれどもという。

宮家)情報戦はロシアが得意としていたことですが。

飯田)2014年には、それで成功している。

宮家)クリミアでもやったし、ジョージアでも成果を上げました。ところが今回はNATO側、特にアメリカがロシアのお株を奪い、本格的に情報戦を仕掛けたのです。いまのところ、アメリカはよく研究しているなという気がします。

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