ウクライナ情勢において岸田政権が評価される理由
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慶應義塾大学教授・国際政治学者の細谷雄一が4月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日本からのウクライナ支援について解説した。
政府、ウクライナ支援で自衛隊の輸送機を周辺国に派遣で調整
政府はロシアの侵略が続くウクライナの避難民を支援するため、人道援助物資の輸送に自衛隊機を活用する方向で調整に入った。自衛隊機派遣が実現すれば、ウクライナ支援では自衛隊が保有する防弾チョッキなどを運んだのに続いて2例目となる。
飯田)ポーランドなどの周辺国に派遣するということが報じられています。人道的な支援は、日本にとっても大事なことになりますか?
細谷)これは他の国のように、殺傷能力を持った攻撃的な兵器の支援ではなく、防弾チョッキなど、あくまでも人道的な装備の支援です。さらには直接ウクライナに到着するのではなく、民間航空機も飛んでいるポーランドなどへ派遣することで、十分な安全性を確保した上で、日本が直接戦闘に関わることがないような形での支援となります。
飯田)避難民支援などは、国連平和維持活動(PKO)の枠組みなどで、自衛隊による支援の経験もあると言えばありますよね。
細谷)従来であれば「武力行使との一体化」という形で、交戦国であるウクライナへの支援は相当制約が大きかったのですが、安倍政権で行われた安保法制をはじめとして、いろいろな法整備ができました。
湾岸戦争のときには「武力行使との一体化」ということで、医療支援もできなかった日本
細谷)湾岸戦争のときには、日本はイギリスから求められた医療支援の要請も断ったのです。つまり、多くの死者や負傷者が出ているなかでも、「武力行使との一体化」ということで、日本は医療支援さえもできませんでした。
飯田)医療支援さえも。
細谷)それを考えると、30年で日本の安全保障政策もずいぶん進歩したのだと思います。日本が戦闘に関わらず、国際社会に貢献していく形を模索するなかで、今回は人道的にも大変悲惨な状態になっていますから、比較的国民の支持も高いと思います。
安全保障政策や人権に関する問題に対して、大胆で迅速な政策をしている岸田政権
細谷)しかしながら、従来の形からは踏み込んだ支援だと思います。岸田総理はリベラルのイメージが強いと思うのですが、安全保障政策や人権に関する問題に対してはタブー視せずに、大胆で迅速な政策を行っているのではないかと思います。
飯田)防弾チョッキなどを提供することも、いままでであれば相当な批判が出たと思います。それもレギュレーションを変えて臨んだということですよね。
細谷)岸田総理には、リベラルのイメージがあるということと、イデオロギー色が薄いイメージがあると思いますから、これで日本が軍国主義になるとか、周辺国から批判されることもないと思います。そこが岸田政権が迅速で大胆な決断ができるということにつながっているのだろうと思います。
日本がロシアへの経済制裁に加わるとは思っていなかったロシア
飯田)制裁に関しても、先進7ヵ国(G7)に倣う形で強化してきています。この辺りの欧米からの評価はどのようなものですか?
細谷)日本はG7と足並みを揃え、強い態度を示しています。例えば国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア排除に関しても、日本は早くから参加を決めましたが、これはロシアにとっては意外だったと思います。2014年のクリミア半島併合のときには、当時の安倍政権が平和条約交渉に前向きだったので、G7のなかでも「日本の制裁が弱い」という不満がありました。それが今回に関しては、日本も足並みを揃えています。この結束力は、ロシアにとっては嫌な圧力になっていると思います。
抜け穴をつくらないよう、国際社会が幅広く結束することが重要
飯田)ロシアは「ウクライナへ支援物資を輸送する国も攻撃する」と、脅しのような主張を訴えています。我々も狙われるのではないかという懸念もありますが、この辺りはいかがですか?
細谷)重要なのは、国際社会が幅広く結束することだと思います。例えば中国から経済的にオーストラリアが圧力を受けたときも、1つひとつ切り離してやってくるわけですから、なるべく連帯するべきだということです。日米豪印4ヵ国の枠組み「クアッド」をはじめとして連携を強めてきました。そのように、抜け穴をつくらないことが重要だと思います。
飯田)抜け穴をつくらない。
細谷)ロシアからすると、2014年の経験があるので日本は抜け穴、つまり「日本は強い制裁をしてこないだろう」というような想定があったのだと思います。今回、日本が強い態度を取っていることに、ロシアはやや驚いているのではないでしょうか。
飯田)逆に言えば、効いていると見ていいですか?
中国を牽制するためにも、ロシアには厳しい態度を取ることが重要
細谷)そうだと思います。しかしながらドイツや、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する見通しのフィンランドやスウェーデンとは、対応が違うと思います。ヨーロッパが強い態度に出て、アメリカも強硬な態度に出ていますから、日本は突出して厳しい制裁をするというより、「国際社会の足並みを乱さない」というのが日本政府の意向なのでしょう。
飯田)「東アジアで何かあったときにも、国際社会が同じように助けて欲しい」という存在感のアピールでもありますか?
細谷)日本のなかでは、今回の問題が台湾情勢に影響するのではないかということが懸念されています。台湾情勢に関して、武力行使を含めた不安定化についての世論調査では、8割~9割の人が不安を感じています。
飯田)8割~9割の人が。
細谷)この問題が東アジアに連動するかも知れない。したがって中国を牽制(けんせい)するという意味でも、「侵略に対して国際社会が結束し、厳しい態度を取っている」という様子を中国に見せるという意味でも、ロシアには厳しい態度を取ることが重要になると思います。
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