プーチン大統領を戦争行動に駆り立てる「ネオ・ユーラシア主義」
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ジャーナリストの須田慎一郎が4月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。プーチン大統領を動かす「ネオ・ユーラシア主義」について解説した。
ロシアの民族主義者の間で出回る「ネオ・ユーラシア主義」
ウクライナの首都キーウ(キエフ)のクリチコ市長は4月16日、市内にミサイル攻撃があり、1人が死亡、数人が負傷したことを明らかにした。
飯田)戦況が泥沼化してくると気になるのが、核や化学兵器の使用というところです。千葉県鎌ケ谷市の“鎌ケ谷ジイジ”さん、58歳の方からいただきました。「日に日にソビエト連邦に戻っていっているように思います。どうしたら暴走を止められるのか。このままいけばロシアは、国際社会からさらなる孤立化を強めてしまうのではないでしょうか。自暴自棄になって核兵器に向かう前に何とかしなければ」というご意見です。自暴自棄で使うのか、あるいは戦況を逆転させるために使うのか。
須田)「旧ソビエト連邦」という言い方をされましたけれども、プーチン大統領の目指しているところはソ連ではなく、「ロシア帝国」なのです。
飯田)もっと戻りますか。
須田)ここ近年、ロシアの民族主義者たちの間で「ネオ・ユーラシア主義」という思想が根強く出回っているのです。これは、ヨーロッパからアジアにまたがる広大なユーラシアの地域は、ロシアの勢力圏なのだという主張です。ここを統一的に支配することが民族、国にとって、歴史的な背景も含めて必要なのだということです。なぜ「ネオ」と付いているのかと言うと、もともとのロシア帝国のバックボーンだったという考え方なのです。
「ネオ・ユーラシア主義」に共感するプーチン大統領 ~これは正義の戦争である
須田)プーチン大統領の歴史的な背景は、ネオ・ユーラシア主義的なところに強く共感しています。「これは正義の戦争だ」という意識を持っているのです。その正義の前に、「戦術核や化学兵器の使用は些末なことに過ぎない」と考えてもおかしくないと、私は思います。
飯田)そうすると、ウクライナのやっていることが誤りなのであって、なぜ西欧におびき寄せられるのか、「その誤った考え方を我々が正すのだ」ということになる。
須田)「ロシアの生存権を守る」という大義に基づいてという考え方なのでしょう。誤った歴史観や意識が背景にあるがゆえに恐ろしいのです。
飯田)19世紀までの帝国主義的なものを正当化するネオ・ユーラシア主義だと、21世紀の「国境線を力によって現状変更してはいけない」、「戦争は国際法的に違法だ」ということが吹き飛んでしまうわけですか?
須田)吹き飛びますし、もう1つは費用対効果です。これをやることによって、どれだけの損害を受けるのかということです。普通の指導者であれば、メリットがデメリットを下回ってしまう場合、行動を躊躇し、中止します。しかし、その辺りが誤った価値観に基づいて覆されてしまうという状況になっているのです。
プーチン大統領を誰も止められない ~ロシアへのエネルギー依存度が高く、実効性のある経済制裁に踏み込めない西側諸国
飯田)民主主義国家であれば、そういう判断をするときに、別の見解が出て止めることができますが、プーチン体制においては止める人がいない。
須田)それが権威主義国家です。権威主義国家というのはわかりにくい表現なので、私はむしろ「専制主義国家」と呼んだ方がいいと思いますが、そういう国々は、民主主義の機能がワークしないわけです。だから突っ走ってしまう。そこが恐ろしいところです。
飯田)これに対して国際社会はどうするのか。まずは経済制裁を行うしかないというところですか?
須田)ただ経済制裁についても、ロシアに対するエネルギー依存度は、ヨーロッパにしても日本にしても極めて高いため、すぐさま実効性のある経済制裁にはなかなか踏み切れないのです。
飯田)エネルギー依存度が高いので。
須田)例えば日本でも「サハリン2」からの撤退を望む声が一部では出ているのですが、政府は撤退するつもりはない。それを遮断してしまうと、電力料金やガス料金が上がります。国民に負担を強いるだけの合意形成がなされていない、あるいは選挙も近いということもあって、決定的な経済制裁に踏み切れない国内事情を抱えています。その辺りをプーチン大統領も見極めているのではないかと思います。
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