なぜ巨人の若手投手は勝てるのか……プロ初勝利が続々
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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、開幕から活躍が目立つ、巨人の若手投手陣にまつわるエピソードを紹介する。
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『若い投手陣になったという中でね、その輪に平内が入ってくれれば一番いいと思って、思い切って彼を投げさせましたけど、見事なピッチング。最初の先頭バッターに四球を出さずに、自分のボールで勝負できたというのは非常に価値があったのではないかと思います』
~『日刊スポーツ』2022年4月21日配信記事 より(21日の広島戦終了後、巨人・原辰徳監督のコメント)
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4月21日、広島との首位攻防戦に3連勝。首位を奪還し、2位に浮上した中日と、ゲーム差なしの3位となった広島に3ゲーム差をつけた巨人。これで今季(2022年)は23試合を消化して、16勝7敗の貯金9。この16勝のうち、実に半分以上の10勝が「逆転勝ち」なのです。
これだけ試合をひっくり返せる理由は、打線が総じて好調なこともありますが、投手陣の踏ん張り、特に若手投手たちの活躍が大きく寄与しています。21日の広島戦も、先発の堀田賢慎(2019年ドラフト1位)が4回4失点で降板しましたが、その直後に巨人打線が爆発し逆転。5回から2番手で登板し、2イニングをパーフェクトに抑えた平内龍太(2020年ドラフト1位)がプロ初勝利を挙げました。
これで今季「プロ初勝利」を挙げた巨人の投手は、勝った順に堀田、戸田懐生(2020年育成ドラフト7位)、赤星優志(2021年ドラフト3位)、大勢(2021年ドラフト1位)に次いで5人目。4月の時点で、同じチームからプロ初勝利の投手が5人も出たのは史上初です。
原監督が試合後「思い切って彼(平内)を投げさせましたけれど」とコメントしたように、今季はチームの方針として、FAやトレードでの投手補強は控え、若手投手をどんどん抜擢する方向に舵を切った巨人。昨季(2021年)はシーズン終盤に急失速。3位に終わったのは、ローテーションを詰めた関係で投手陣が疲弊したこともありますが、若手投手の伸び悩みと、層の薄さも露呈しました。
よそから即戦力投手を獲ってくるだけではなく、根本的に若返りが必要と、原監督は今年1月、キャンプイン前に開かれたスタッフ会議に出席した際、こんなコメントを残しています。
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『今年のチームは、やっぱり若い力をいかに発掘し、そしてレギュラーとして戦わせることができるかがテーマ。もちろん昨年(チームを)引っ張った選手たちがいますけれど、力が五分であるならば、実績がない若い選手を思い切って使おう、という意思は伝えてあります』
~『サンケイスポーツ』2022年1月21日配信記事 より
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「力が同じなら、実績がなくても、若い方を思いきって使う」……この言葉が、巨人の若手投手陣を大いに奮起させたのは間違いありません。これまでの巨人は、仮にローテーションの枠が空いても、FA補強や外国人投手の獲得で補うことが多く、そこに実績のない若手が割って入るには、なかなか厳しいものがありました。その方針が180度転換したわけですから、これは張り切らなければ嘘でしょう。
実際、原監督はこの方針を有言実行。今年の春季キャンプでは若手を大抜擢し、1軍メンバー26人中12人が「初のキャンプ1軍スタート」でした。また、オープン戦で結果を出した若手投手を開幕ローテに抜擢。今季の開幕6試合の先発投手は、中日3連戦が菅野智之・山崎伊織(2020年ドラフト2位)・赤星。ヤクルト3連戦が戸郷翔征・メルセデス・堀田。6人中、これが1軍初登板という投手が半数の3人(山崎伊・赤星・堀田)を占めました。
さらに先発陣だけでなく、リリーフ陣にも若手を抜擢。ルーキーながら開幕戦から守護神を託され、21日現在ですでに1勝11セーブ。1度も救援失敗がない大勢の抜擢がなければ、巨人はこの位置にいなかったでしょう。原監督は「賭けに勝った」のです。
とはいえ、まだ1軍での実績がない彼らが、シーズン通じて働けるかどうかは未知数です。彼らのバックアップを担当しているのが、今季からチーフに昇格した桑田真澄1軍投手コーチです。
ただ上からああしろ、こうしろと言うのでは、いまの若手はついて来ません。ちゃんと合理的な理由があって、こういうトレーニングをするんだ、ということを理論立てて説明する能力もコーチには求められています。
桑田コーチは今年の春季キャンプ中、練習後の宿舎で、投手陣を集めほぼ毎日ミーティングを行いました。さらに、1人ひとりに改善すべき点を細かく指摘。選手たちも、ただ漠然と練習をこなすのではなく、自分に足りない点は何か? 課題を克服するためには、どんな練習をしたら効率的なのかを自ずと考えるようになります。
キャンプで桑田コーチは、こんな練習も行いました。
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『今キャンプでは「ライン出し」の重要性を投手陣に植え付けた。「ライン出し」とはホームベースの両端のラインにボールを制球するということ。キャンプ中のブルペンでは、捕手が10球中何球がライン上に制球できたかを数え、投手に伝える光景が日常となっていた』
~『デイリースポーツonline』2022年3月11日配信記事 より
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またコントロールについては、
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『球威は申し分ないものの、制球に改善の余地がある若手たちに対し「ストライクゾーンを9分割ではなく(ホームベース両端の)線で捉えるイメージ」を意識させた。細かな制球ではなく、まずは内外のコースに投げ切ることを求めた』
~『デイリースポーツonline』2022年3月11日配信記事 より
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……それが「ライン出し」です。基本的なことですが「10球中6球しかライン上に来ていなかったぞ」と制球力を数値化することで、クリアすべき目標も明確になります。こういった練習についての意識改革も、若手躍進の1つの理由かも知れません。
また、若手を抜擢することで、こんな効果も生まれています。21日にプロ初勝利を挙げた平内は、新守護神を務めるルーキー・大勢について、後輩の活躍を喜びつつ「悔しさはすごくあった」と正直な気持ちを吐露。プロ野球選手であれば当然です。周りの選手がこれだけ次々にプロ初勝利を挙げていけば、未勝利の投手も「よし、次は俺も!」となるでしょう。チーム内に競争を起こすことが、活性化と若返りには不可欠なのです。
21日のゲームは、堀田→平内とドラフト1位のリレー。間に畠を挟んで、最後は鍬原拓也(2017年ドラフト1位)が締めました。SNS上で、巨人ファンから「やっぱり、チームづくりはこうあるべき」と歓迎する声が多く上がっていたのも見逃せません。これまでのようにすぐ外部戦力の獲得に走るのではなく、「すでに獲得した若手を育てながら勝つ」方針へのシフトは、巨人というチーム自体を大きく変えていきそうです。