戦勝記念日を機にロシアは戦線を拡大するのか、縮小するのか

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元航空自衛官で評論家の潮匡人が5月9日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。プーチン大統領が、戦勝記念日を前に国民に向けて発表したメッセージについて解説した。

戦勝記念日を機にロシアは戦線を拡大するのか、縮小するのか

2022年4月27日、議会関係者との会合で演説するプーチン大統領=ロシア・サンクトペテルブルク(タス=共同) 写真提供:共同通信社

プーチン大統領、戦勝記念日を前に国民に向けてメッセージを発表

第二次世界大戦で当時のソ連がナチス・ドイツに勝利したことを祝う5月9日の対ドイツ戦勝記念日を前に、ロシアのプーチン大統領は5月8日、旧ソ連諸国の首脳や国民に向け、「人々に戦争の災禍をもたらしたナチズムの復活を許さないことが共通の義務だ」とするメッセージを送った。ロシア大統領府が発表した。

飯田)現地時間5月9日午後、プーチン大統領の演説も予定されています。どうご覧になりますか?

潮)広く言われているのは、戦争宣言を行い、兵力と戦力を増強して投入し、戦線を拡大させるのではないかということですが、その可能性はあると思います。ロシアの大統領報道官などがそれを明確に否定していることも事実ですが、今年(2022年)の2月24日まで、その人物を含めてロシア政府の高官、大統領が何と言ってきたのかを思い出せば、「いまこう言っているから本日中にこうはならない」という推測の根拠にはなり得ないと思います。

ロシアは戦線を拡大するのか、縮小するのか

潮)一方で、ある一定の勝利宣言を行い、戦線を縮小させていくという見立ても十分あり得ます。どちらに振れていくのかということは、なかなか難しいところだと思います。

飯田)どちらに振れるのかは。

潮)ただ、実際に戦争宣言を行った場合にどうなるのかを考えたとき、そもそも戦争自体が国際法上で違法化されて久しいのです。国連による集団安全保障体制を担う常任理事国でもあるロシアが、自ら堂々と大統領が戦争宣言するような形で踏みにじり、2月24日以降の行為を正当化させることについて、日本を含めた先進7ヵ国(G7)に限らず、世界が黙認、放置するということは許されません。少なくともそうさせないために、経済制裁も含めた努力を引き続き行わなければなりません。「ウクライナがこのまま、いいようにされていいのか」という当たり前のところ、原点を忘れるべきではないと思います。

「早期に終結する」というロシアの見通しは計算違いに ~今後の見通しは不明

飯田)戦況の部分ですが、ロシアの計算違いというところが報道されています。

潮)2月24日以降を考えても、開戦当初は1週間、あるいは10日で首都が陥落するのではないかという見立てもあったのですが、それとは大きく異なる結果を我々は目にしているわけです。聞いたところによると、プーチン大統領が北朝鮮やその他の彼らの友好国に対して、「早期に終結するという見通しを述べていた」という報道もあるので、ロシアにしてみれば計算違いの結果になっている。そこは疑いのないところだと思います。

飯田)計算違いであったと。

潮)しかし一方で、特別軍事作戦と称している東部での戦線については、少なくとも2014年~2015年以降と比較すると、ロシアが支配権を拡大させていることは間違いないので、「どちらがどうだ」ということを現時点で白黒つけるのはまだ早いと思います。

戦勝記念日を機にロシアは戦線を拡大するのか、縮小するのか

2022年4月4日、ウクライナの首都キーウ近郊ブチャで、報道陣に話をするゼレンスキー大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

情報や武器の提供など、実戦以外の部分で最大限に前線に貢献するアメリカ

飯田)「ウクライナ側が一部押し返している」という報道もあります。それもあってゼレンスキー大統領が「戦車などの兵器が欲しい」ということを言っているようですが、その辺りは集まり出しているのでしょうか?

潮)報道されているように、さまざまな兵器、ロシア軍の戦車に対して有効な比較的新しいタイプの兵器や、ドローンの大量投入が続いています。またロシア軍の旗艦が撃沈された背景には、アメリカが情報提供したのではないかという、アメリカの有力紙による報道もあります。アメリカ軍が部隊としてウクライナ国内で戦っているわけではありませんが、それ以外にできる最大限に近い支援を続けてきたということが、ウクライナ側の前線に貢献しているのだろうと思います。

ロシアの行為は国際法上の重大な違法行為であることは疑いがない

飯田)情報提供に関して、2月24日に侵略が始まる前から、アメリカ側は情報をオープンにしています。アメリカの姿勢がこれまでとは変わっているということですか?

潮)本来であれば虎の子の機密情報を、惜しげもなく晒してきたというのは、自らの情報収集力を誇示したというよりは、ロシア側に対する「お前たちの手の内はもうわかっているのだから、まさかとは思うがやめておけ」というメッセージだったのだと思います。しかし、経済制裁と同じように、それが効いていないということがこの状況をもたらしていると思うので、アメリカとしては今後、情報についての出し方にはこだわっていくのだろうと思います。

飯田)そう考えると経済制裁や情報の部分について、「最終的な抑止になるのかどうか」ということは、また別の議論が必要なところなのですか?

潮)そう思います。

ロシアの行為は国際法違反 ~ウクライナの応戦は国連憲章第51条の明文で許されている「自衛権の行使」

飯田)そのようななかで、これだけの方が亡くなっている。ゼレンスキー大統領が現地8日夜に公開した動画によると、ロシア軍の空爆を受けた東部ルガンスク州の学校で、民間人ら約60人が死亡したと発表しました。ロイター通信などが伝えていますが、民間人が標的になるような行為があからさまに行われていますね。

潮)もちろん国際法上の重大な違反行為であることは疑いがないわけですが、このようなニュースを見たり聞いたりするにつれ、日本でしか言われていない「どっちもどっち論」が、いかに間違っているのかということを思い出すべきだと思います。

飯田)日本国内では、そのようなことを言う人がいます。

潮)もちろん人間の数だけ、あるいは国家の数だけ正義があるのだということは、その通りだと思います。あらゆる問題が究極的には、100%の善も100%の悪もないということになるのだろうと思います。しかし、我々が目にしている数ヵ月間にわたるウクライナでの出来事について、日本も当事国である側面があると思います。

飯田)日本も。

潮)地球の裏側で起きている対岸の火事を眺めながら、「どっちもどっちだ」という構えでいるということは間違っていると思います。国際法上の議論をあえてすると、ロシアの行為は明確に第2条に反していますし、ウクライナの応戦は国連憲章第51条の明文で許されている「自衛権の行使」であるということを忘れて、「どっちもどっちだ」と言うのはおかしいのではないでしょうか。

戦勝記念日を機にロシアは戦線を拡大するのか、縮小するのか

クライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで大破した車両が放置された道路を歩く住民(ウクライナ・ブチャ) EPA=時事 写真提供:時事通信

自衛権の行使を無効化することは、「力こそ正義」ということになってしまう

飯田)第51条の自衛権の行使まで、「どっちもどっち」で無効化されるということになると、19世紀にまで世界が戻るのかという話になります。

潮)「国際政治はそんな綺麗事ではないのだ」と言うのであれば、それは「力こそ正義だ」ということです。私はそのような側面を全否定する気もありませんが、もしそういう立場に立つなら、あるいはそう言っていいのであれば、それ以外のこと、そういう趣旨のことをとある大学の入学式でおっしゃった方もいましたが、であれば、その大学を含めた学問という行為、研究活動も不要だということです。

飯田)力こそ正義だと言うのであれば。

潮)力こそが正義なのであれば、どちらが正義なのかを考えることも含めて、人間として生きていくことの意義すら失われてしまうのではないかと危惧します。「ウクライナは明日の日本だ」という立場、見地から見れば、我が国が国連憲章で許された自衛権の行使を行うのもダメだと、「どっちもどっちだ」と言われるということにもなりかねません。

国境を越えて武力行使をするということ自体が許されることではない

飯田)どっちもどっち論で、力が正義の世界だということになると、それに備えるには憲法を変えなくてはいけないのではないかと、そのような理論になりますよね?

潮)我が国の憲法でそのようなことを全否定するにも関わらず、憲法はいわば尊重されるような勢力の方が、最近そのような意見をおっしゃっているのはおかしいと思うのです。ただ、日本国憲法は、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求している」ということを忘れてはいけません。その観点に立てば、なおさらどっちもどっちではなく、護憲派の方こそ私と同じような立場で、この問題に関しては主張していただきたいと思います。

飯田)「ウクライナだっていままでいろいろやってきたではないか」と、あるいは北大西洋条約機構(NATO)が東方に拡大していったなど、いろいろな経緯はあります。しかし経緯はともかく、国境を越えて武力行使をするということ自体がダメだろうという、根本の部分ですよね。

潮)直前まで「ただの演習です」と言っていたものが、文字通りある日突然、侵攻したわけです。だからこそ、ロシア軍が必ずしも予定通りの戦果を収められなかったことは当たり前で、つい最近まで、その辺にいた人たちが列車に乗せられて「演習だ、お前たちも参加しろ」と言われて行ってみたと。「隊長、演習ですよね」と言いながら、「国境を越えていいのですか?」というような形です。

飯田)演習ではないのですかと。

潮)「あいつらはへなちょこだから」と言われて行ってみたら、全然違うではないかという状態になっている。それは、どちらにより正義があるのかということが、戦局に大きく影響を与えているからだろうと思います。

かつてソ連による満州侵攻を体験した日本

飯田)かつてソ連の時代に突如、満州に侵攻してきて、たくさんの人たちがシベリアまで連れて行かれ、労働させられて亡くなった経緯もあります。我々にとって、まったく人ごとではない出来事なのですよね。

潮)そうなのです。国連憲章のいわゆる旧敵国条項に、我が国が含まれていることについて異論はないわけで、仮にそれを盾にして、ロシアがウクライナでいまやっているようなことを日本にしてきた場合、「どっちもどっち論者」はどうやって反論するのかを聞きたいです。

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