「ウクライナ侵攻が起きたから」ではない フィンランドが「NATO加盟申請」決意に至る背景

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慶應義塾大学総合政策学部准教授の鶴岡路人が5月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。フィンランド・マリン首相の来日について解説した。

2022年5月11日、握手を交わす両首脳 ~出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202205/11finland.html)

岸田総理とフィンランド首相が会談、ロシアへの非難対応継続で一致

岸田総理は5月11日、日本を訪れているフィンランドのマリン首相と首脳会談を行い、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を強く非難するとともに、毅然とした対応を続ける方針で一致した。また経済をめぐっては、先端技術や再生可能エネルギーの分野で協力を強化していくことを確認した。

なぜこの時期での来日なのか ~フィンランドのNATO加盟申請は秒読み

飯田)北大西洋条約機構(NATO)に入るかどうかが話題になっているフィンランドですが、マリン首相がこのタイミングで日本を訪問しました。どういう狙いがあると思われますか?

鶴岡)フィンランドのNATO加盟申請は秒読み状態で、きょう(12日)にもフィンランド大統領が立場を表明すると言われていますし、来週、そのフィンランドのニーニスト大統領がスウェーデンを訪問予定です。ここでフィンランドとスウェーデンが、何かを一緒に発表するというようなことも言われています。

飯田)スウェーデンと一緒に。

鶴岡)そうしたなかでのフィンランド首相の来日となりましたが、タイミングとしては、それらのことが重なってしまったというのが実態だと思います。ただ、ウクライナ侵攻への対応が忙しいなかで日本まで来るというのは、それなりに日本との関係も重視しているし、アジアへの関与も重要なのだという意思表示だと思います。しかし、フィンランド首相の来日がここまで日本で注目されるということは、いままでなかったと思います。

73年間NATOに入らなかったフィンランドが加盟申請するということは「何かが変わった」ということ

飯田)フィンランドはロシアと国境を接しています。しかもその国境は1300キロメートルもある。地政学的なことも考えると、国民性として、もともと関心が強かったということはあるのですか?

鶴岡)ロシアと国境を接していますから、ロシアも怖いし、冷戦時代にはソ連の圧力を受けてきたわけです。フィンランドの話をするときに、1939年~1940年の冬戦争や国民の防衛意識が高いというような話題になります。すべて事実なのですが、それをもって今回のNATO加盟を説明するのはなかなか難しいのです。

飯田)なるほど。

鶴岡)NATO設立から73年になりますけれども、フィンランドは73年間、NATOに入っていなかったわけです。でも冬戦争の経験は昔からあります。ですから「今回、何かが変わった」というところが重要なのです。

対ドイツ戦勝記念日の式典に出席したロシアのプーチン大統領(中央)=2022年5月9日、モスクワ(タス=共同) 写真提供:共同通信社

90年代以降、NATOとの関係を強化してきたフィンランド ~「ウクライナ侵攻が起こったから入ります」ではない

飯田)やはり連想するのは、2月24日からのウクライナに対するロシアの侵略ですけれども、ここが引き金になっているのですか?

鶴岡)最終的なあと押しをしたのが、2月24日以降の侵略なのだと思います。我々はよくフィンランドを「中立」と言いますけれども、厳密には「軍事的非同盟」という言い方をしています。

飯田)軍事的非同盟。

鶴岡)フィンランドもスウェーデンも、最近は中立という言葉をあまり使いません。彼らは政策として非同盟で、NATOに入らないというだけだったわけです。政治的には自由や民主主義、人権などに関して、冷戦自体から完全に西側と共有していたわけです。そして冷戦後の1995年にはEUにも入ると。

飯田)そうですね。

鶴岡)ですから、EUやNATO諸国からすれば、フィンランドとスウェーデンは昔から「我々の一部」なのです。NATOとの関係でも90年代以降、ずっと関係を強化してきて、2000年代にはアフガニスタンで国際治安支援部隊(ISAF)という作戦にも大規模に参加しています。ですからNATOとは、一緒に作戦もやってきているという関係があるのが1つです。それがないと、いきなり「ウクライナ侵攻が起こったから入ります」とはなりません。

2021年にロシアがアメリカ・NATOに提案した新たな条約案の「NATOの不拡大の約束」に反応したスウェーデンとフィンランド ~自分たちの選択の自由が奪われる

鶴岡)もう1つ重要なのが、昨年(2021年)12月にロシアが、NATO向けとアメリカ向けに新しい条約の提案を行いました。

飯田)ウクライナ緊張を受けて、という感じでしたね。

鶴岡)あの条約案の最も重要な点が、「NATOの不拡大の約束」です。当然、ロシアはウクライナを中心とする旧ソ連諸国が念頭にあったわけですけれども、あの条約案にいちばん反応してしまったのが、スウェーデンとフィンランドなのです。ですから、あれによって「自分たちの選択の自由が奪われる」と、懸念が一気に高まったわけです。フィンランドとスウェーデンにとって、「いまは入りたいわけではないけれども、入りたいときには入れる」ということが重要だったわけです。

フィンランド・ニーニスト大統領「12月のロシアの条約案が転換点だった」

飯田)ロシア側が出してきた提案は、それほどフィンランドやスウェーデンにはインパクトがあったわけですか?

鶴岡)出てきたときの反発もあったのですが、フィンランドのニーニスト大統領がインタビューで「12月のロシアの条約案が転換点だった」という言い方をしています。それほどまでに行動の自由を制約されることへの反発は大きかったのだと思います。

フィンランドとスウェーデンが「NATO加盟申請まですることはないだろう」と高をくくっていたロシア

飯田)北欧のスカンジナビア半島にあるノルウェー、スウェーデン、そしてフィンランドですが、EUとの間合いにもそれぞれグラデーションがあります。NATOには入っているけれどEUには入っていない国があり、フィンランドのようにEUに入っていて、ユーロを使っている国もある。また、スウェーデンはEUには入っているけれど、自分の通貨を使っている。グラデーションはありますが、その辺りは戦略的だったのですか?

鶴岡)戦略的と言えば戦略的なのですけれども、フィンランドとスウェーデンがNATOに入らなかったことに関して、入らないのを希望していたかというと、そこは微妙なのです。入りたくないから入らなかったというよりは、やはり旧ソ連の隣にあって「入ることが許されなかった」ということです。

飯田)しかし、いまのような反応になることを、ロシアは予想していたのですか?

鶴岡)完全にオウンゴールです。舐めていたのだと思います。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟議論は昔からあるわけですが、「加盟申請までは踏み込まないだろう」と高をくくっていたのだと思います。

2022年4月27日、議会関係者との会合で演説するプーチン大統領=ロシア・サンクトペテルブルク(タス=共同) 写真提供:共同通信社

ウクライナのNATO加盟を阻止するために侵略し、最終的にNATO加盟国に包囲されてしまうロシア

鶴岡)「ウクライナのNATO加盟を阻止する」ということを1つの理由として侵攻を始めたら、フィンランドとスウェーデンがNATOに入ってしまうと。しかも冷戦後だけではなく、第二次大戦以降、北欧で重要だったのは「NATOに入っていない国がある」ということなのです。

飯田)NATOに入っていない国がある。

鶴岡)しかも、バルト海に面しているフィンランドとスウェーデンという非NATO加盟国があること。これが全部NATO加盟国になるということは、ロシアにしてみると、最終的にNATO加盟国に包囲されている状況ができるということなのです。ですからバルト海のロシア軍艦艇などは、四方八方からNATO加盟国に監視されるという状況になります。

飯田)その上、南の黒海から出ていこうとすると、そこにはNATO加盟国のトルコがある。

鶴岡)今回の情勢を通じて、完全に包囲が実現してしまった。ロシアが望んでいた状況とはまったく違うことになってしまった。

飯田)むしろ正反対ですよね。

フィンランドとスウェーデンが一緒に行動する理由

鶴岡)「フィンランドとスウェーデンはなぜ一緒に行動しようとしているのですか?」とよく聞かれますが、どちらかだけがNATOに入ると、この地域で1つだけ非NATO加盟国が生まれてしまうのです。そうすると、何らかの挑発などをすべて受ける対象になってしまう。

飯田)なるほど。

鶴岡)それをわかっているので、両国とも「一緒に動きましょう」と考えています。これまではスウェーデンが先行していた部分があるのですが、今回は明確にフィンランド主導で、フィンランドは「自分たちが先に動けば、スウェーデンも加盟に踏み切ってくれるだろう」という読みがあったのだと思います。そして、その読みが実現しつつあるということだと思います。

外交・安全保障、軍事という点では大きな権限を持つフィンランド・ニーニスト大統領 ~スウェーデン首相と共同記者会見の予定

飯田)今回、フィンランドの首相が来日していますけれども、大統領の役割は象徴的なものではなく、大きいのですか?

鶴岡)外交・安全保障、軍事という点では、大統領は相当大きな役割や権限を持っています。ですからNATOの首脳会合にも、大統領が出席するのではないかという話もあります。日本ではマリン首相への注目度はマスコミでも高いですけれども、ニーニスト大統領にも注目しなければいけないですね。

飯田)来週スウェーデンを訪問するというような予定を聞くと、肝の部分を握っているのではないかというところですね。

鶴岡)これは国家元首として、国賓としてスウェーデンを訪問するのですね。スウェーデン国王の招きで訪問するということは昔から決まっていたのです。

飯田)そうなのですね。

鶴岡)たまたまタイミングが重なったので、スウェーデン首相との共同記者会見も予定されているということです。やはり何かの発表があると思います。

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