ウクライナ侵攻が続く間「脱炭素」は棚上げせざるを得ない

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ジャーナリストの佐々木俊尚が5月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。政府が閣議決定した物価高の緊急対策に充てる補正予算案について解説した。

ウクライナ侵攻が続く間「脱炭素」は棚上げせざるを得ない

ドイツ西部ダッテルンの石炭火力発電所 EPA=時事 写真提供:時事通信

政府、補正予算案を閣議決定へ ~物価高対策など総額約2兆7000億円

政府は5月17日、ロシアのウクライナ侵略などに伴う物価高の緊急対策に充てる歳出総額2兆7009億円の令和4年度補正予算案を閣議決定した。予備費の内訳は災害などに備える通常の予備費4000億円と、新型コロナウイルス対策予備費の使い道を「原油価格・物価高騰対策」に広げた1兆1200億円となっている。

飯田)4月末に先行して支出した、予備費の埋め戻しに使うところが多いようですが。

佐々木)実質2兆7000億円と言いながら、使えるのは1兆2000億円くらいしかないという。予備費の埋め戻しということですが、フリーハンドで使えるお金を手元に置いておきたいという、政府の思惑なのではないでしょうか。

飯田)フリーハンドで。

佐々木)新聞各社が「放漫財政につながる」というようなことを書いていますが、これだけ事態が変わる状況であれば、予備費をフル活用するということはあってもいいのかなと。埋め戻して、予備費をもう1回使えるようにしておきたいという気持ちはわからなくもない。

ウクライナ侵攻が続く間は「脱炭素」のことを言っている状況ではない

佐々木)今回の補正予算について、もう1つのポイントはガソリン補助金です。約1兆2000億円の計上。いまは160円台なので、これをキープしておきたい。放っておくと200円を超えてしまいますから。

飯田)そうですね。

佐々木)5月17日の日経新聞でも、ガソリンについて書かれています。

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『ガソリンの目標価格を段階的に上げる措置は凍結され、脱炭素に逆行する施策がなし崩し的に続く』

~『日経新聞』2022年5月17日配信記事 より

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佐々木)ガソリンの値上げを抑制して、ガソリンを使えるようにすることは「脱炭素への逆行だ」というのは、おっしゃる通りです。ただ、ウクライナ侵攻が始まったことによって、当面の間はゲームチェンジですよね。

飯田)当面の間は。

佐々木)現状、これだけエネルギーが危機に陥り、食糧危機も起きそうな雲行きのなかで、「脱炭素について言っている状況ではない」という感じが、少なくともこの数ヵ月に関してはあります。

世界的にエネルギーの需給がひっ迫してくる

飯田)いま足元で、WTIの原油が1バレルあたり110ドル90セントです。

佐々木)すごい金額ですよね。

飯田)そうですよね。これに慣れてしまって、あまり話題になりませんけれども、100ドルを超えたところで驚きました。

佐々木)この状況が変わる要素はないでしょう。しかも今回、ドイツをはじめフィンランドも発表しましたが、ロシアからの天然ガス、原油は輸入しないという方針になりそうです。余った分がインド、中国に流れ込んでいると言われているので、ロシアのエネルギー貿易自体はそれほど減っていないということですが、どちらにしろ、世界的にエネルギー需給がひっ迫してくるのは間違いありません。

ウクライナ侵攻が続く間「脱炭素」は棚上げせざるを得ない

2022年4月8日、ミサイル攻撃を受けたウクライナ東部ドネツク州クラマトルスクの駅(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

小麦だけでなく蕎麦粉も値上がりしている ~多くがロシアから輸入している蕎麦粉

佐々木)食料に関しても、ウクライナの小麦が黒海封鎖で輸出できなくなっていて、全世界的に値上がりしています。

飯田)ロシアの侵攻で。

佐々木)先日、ABEMAで放送している「ABEMA Prime(アベマプライム)」で、日暮里の蕎麦屋さんがZoom出演してくれたのですが、いまは300円くらいで出している立ち食い蕎麦が、このままいけば1000円になるかも知れないと言っていました。蕎麦粉が全然手に入らない。入ったとしても値段が高いと。蕎麦粉は日本でつくっているイメージがありますが、いちばん生産量が多いのはロシアなのです。

飯田)そうなのですね。

佐々木)ロシアからほとんど蕎麦粉を輸入している。

飯田)特に「立ち食い蕎麦」のような、安価で出すところは……。

佐々木)蕎麦粉も手に入らない。

飯田)小麦であればうどんを連想しますけれども、それだけではなく、蕎麦も。

佐々木)そうなのです。ありとあらゆるものが値上がりしている。

スタグフレーションを押し留めるには財政出動で対応するしかない

佐々木)放っておくと日本の場合、デフレで物価が上がらないという問題が言われていましたが、ここへきて物価が上がっている。物価が上がって喜ばしいかと言うと、そんなことはなく、単にエネルギーと原材料が上がっているだけで、企業は儲からないわけです。

飯田)コストが高くなっているだけで。

佐々木)それでは給料が上がらない。景気が悪いまま物価だけが上がっていく状況で、日本がスタグフレーションに陥りつつあるのではないかと指摘する経済学者も少なくありません。

飯田)オイルショック以来の出来事ですよね。

佐々木)何とか押し留めるためには、ある程度、財政出動で対応するしかないというのが現状ではないでしょうか。とは言っても、これだけエネルギーと食糧が危機に陥っているなかで、どこまで財政出動で支え切れるのかというのは難しいところです。

原発を再稼働せざるを得ない状況ではないか

飯田)エネルギーの話で言えば、原子力発電所をどうするかという問題もあります。

佐々木)最終的にそこへ行かざるを得ないですよね。原発が再稼働できていないのは、地震が起きたときの対応を厳密に求められているからですが、一時的に少し緩めてもいいのではないかと思うのです。

飯田)一時的に。

佐々木)とりあえず再稼働を早めに行い、そのあとで議論をもう1回行う。もちろん、原発をなくすこと自体は反対ではないのだけれども、これだけのエネルギー危機の状況では、ある程度、棚上げする方法もあるのではないかと思います。脱炭素の話と同じですが、あらゆることに対して、ウクライナ侵攻が引き起こす問題が優先されると考えた方がいいのではないかと思います。

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