防衛研究所地域研究部主任研究官の山添博史氏が5月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ情勢の今後について解説した。
いまなお予断を許さない東部の情勢 ~ロシア軍の目覚ましい動きは見られない
ロシア軍によるウクライナ侵略が続くなか、ゼレンスキー大統領が、ロシア軍に制圧されていた北東部ハルキウ州の一部地域を奪還したと明らかにした。ウクライナ軍はハルキウ州で4つの集落を奪還したとし、国境付近のロシア西部ベルゴロドまでロシア軍部隊が撤退したとの情報があると発表した。
飯田)ウクライナ軍が押し返したということなのでしょうか?
山添)ハルキウ州ではウクライナ軍が盛り返していますけれども、その東ではロシア軍が進んでいるところもあり、いまなお予断を許さない東部情勢だと思います。
飯田)そうすると、ロシアとしては、より東部方面へシフトするような形になるのですか?
山添)継続してやっていくのだと思いますし、遅れながらも、追加の資源投入もしているのだと思います。それが本当にうまくいくのかどうか。もう1ヵ月以上、東部に集中して攻撃しているはずなのですが、目覚ましいような動きには感じられません。
飯田)「東部集中」という言葉が出てきたのも、首都キーウ周辺の部隊が退き、それが東部に投入されると考えられていたからです。しかし、実際にそういうことは行われているのですか?
山添)あまりよくわからないのです。キーウ周辺にいた部隊はかなりの損害を受けていますし、士気も落ちています。指揮統制すら回復しているかさえわからない状況です。3月の時点で6名のロシア軍将官が戦死したという報道がありましたが、この1ヵ月でも複数の将官の戦死が伝えられていますので、戦い方がうまくなったとはとても言えません。
将官が殺される状況を改善できないロシア軍 ~兵士たちの士気に悪影響
飯田)「将」と名が付くような人たちまで亡くなることは、普通ではあり得ないという指摘もありますが、いかがですか?
山添)前線に出て行かなければならない、かつ、その動きが掴まれているということですので、それを改善できていない現状に大きな問題があり、その状況が続いているということです。「上官が殺されるのだから、下にいる自分たちが無事であるはずがない」ということで、兵士たちの士気にも悪影響を与えていると思います。
飯田)その辺りが、よく指摘される「ロシア軍の士気の低さ」につながっているわけですか?
山添)負のサイクルが止まっていない感じですね。
次の機会を狙っているプーチン大統領 ~その際には動員を高める可能性も
慶應義塾大学准教授・鶴岡路人)5月9日の戦勝記念日で行われた、プーチン大統領のスピーチが気になるのですが、新しいものがほとんどなく、兵士の動員という話にも踏み込めていません。動員した場合、市民から反発を受けるリスクがあることを恐れているのでしょうか?
山添)それもあると思いますし、タイミングを見計らって、別の方法で動員を高めていくという可能性もあります。いずれにしても、戦勝記念日を上手く使えるのであれば、うまく使う機会ではあったのですが、戦況次第ということだと思います。このタイミングでいろいろと打ち出す意義がなかったので、戦勝記念日はただの戦勝記念日として、上げも下げもしないメッセージを出した。いまの特別軍事作戦のまま、次の機会を狙っているのではないでしょうか。
動員を高めることは大きな政治的リスクでもある
飯田)次の機会というのは、いつごろ、どのような形になりそうですか?
山添)やはり動員を強化したり、物資がないと長期的には勝てないので、行わざるを得ないときに手を打ってくるのだと思います。
飯田)動員方法として、若い人たちを根こそぎ招集するようなこともあり得るのですか?
山添)それをやってしまうと、国民の反発を買うリスクになります。根こそぎ集めたとしても、訓練しなければなりませんし、兵器も足りません。
飯田)そうですね。
山添)一般国民の意識のなかで「戦争の恐怖が自分たちのものになる」という、そのリスクが大きくあるのです。まだ国民の大多数にとっては他人事なのです。いまは貧しい東部地域のイルクーツクやブリヤートなどの兵隊は送られているけれども、「自分たちは正義の戦いを支援しているのだ」と高揚しているだけで、自分たちの家族は死なないのです。
飯田)その他の国民は。
山添)自分たちの家族が死んでいくという状況になった場合、黙っていられるかどうかは別の話なので、非常に大きな政治的リスクです。
ロシアの一般国民に「死んでも戦う覚悟」は一切ない ~そこに一斉動員がかかるとどうなるか
飯田)いまは国民の約8割がプーチン氏を支持しているということですが、ある意味のガラス細工的な、いつ壊れてもおかしくないようなところもあるのですか?
山添)この約8割の人たちは、自分たちが正義で、外敵が攻めてきているから戦うことを応援している。「自分たちは正義側なのだ」と思っているだけで、「死んでも戦う覚悟」など一切ないのです。そういう人々が、そのまま支持を続けられるかどうかは、大規模動員になればまったく違う話になると思います。
飯田)いまは、お話にあったイルクーツクやブリヤートというような、ある意味、大都市ではない地域からの人たちが多い。例えばモスクワなどでは、そこまで人々の動員がかかっていないということですか?
山添)もちろん均等にかかってはいるのですけれども、ごく一部ではあるのです。特にウクライナで捕虜になっている兵士の場合、若くて貧しい地域の人が多いというレポートを聞いたものですから、例としてあげました。やはり大都市、大多数ではないというのがいまの状況です。
ロシアが戦力を盛り返す速度とウクライナが戦力を盛り返す速度がどうなるか ~回復速度の争いになる
飯田)今後の見通しについて、長期化は避けられないのでしょうか?
山添)ウクライナは戦力を盛り返して、ロシアを追い出す方向に注力するという方針です。彼らがこのまま勝っていくのであれば、「数ヵ月で終わる」とウクライナ側は見込んでいると思います。
飯田)数ヵ月で終わると。
山添)ロシア側は負けを認めるのはできるだけ遅らせたいので、どこかのタイミングで「ここだけは守れる」という場所に居座る可能性があります。それぐらいであれば、弱いロシアでも粘ってウクライナを苦しめ続けられる、または怖い兵器を出してくることもあり得ます。そう考えると、長期化は見込まなければいけないと思います。
飯田)長期化になると。
山添)そのときに、ロシアが戦力を盛り返す速度と、ウクライナが戦力を盛り返す速度がどうなるかだと思います。ロシアについては、時間をかけてもいよいよ経済制裁に抗えないとなれば、ロシア側は終わらざるを得ない。これからは回復速度の争いになるのではないかと思います。
この記事の画像(全1枚)
番組情報
忙しい現代人の朝に最適な情報をお送りするニュース情報番組。多彩なコメンテーターと朝から熱いディスカッション!ニュースに対するあなたのご意見(リスナーズオピニオン)をお待ちしています。