復帰即3安打! キャプテン・坂本勇人はなぜチームの危機に打てるのか?

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、6月9日、西武との交流戦で戦列に復帰。いきなり3安打を放って連敗ストップに貢献した巨人・坂本勇人選手にまつわるエピソードを紹介する。

復帰即3安打! キャプテン・坂本勇人はなぜチームの危機に打てるのか?

【プロ野球交流戦西武対巨人】3回 先制の適時打を放った巨人・坂本勇人はベンチに向かってガッツポーズ=2022年6月9日 ベルーナドーム(西武ドーム) 写真提供:産経新聞社

「さすがはキャプテン!」 「やっぱり、ハヤトがいないと!」……そんな巨人ファンの声が多数聞こえてきた6月9日の西武-巨人戦。前日8日までチームは3連敗中で、首位・ヤクルトとのゲーム差は「5」に拡大。さらに、この日先発予定のエース・菅野智之が体調不良で急きょ登板を回避し、チームは危機的状況を迎えていたのです。

そんなとき、救世主のごとく1軍に戻って来たのが、主将・坂本勇人でした。坂本は4月30日、阪神戦の守備中にヒザを負傷。診断の結果は、「右ヒザの内側側副じん帯損傷」という重いものでした。

これまで、シーズン中に何度も故障やケガに見舞われながらも、その都度短期間で復帰。14年連続で100試合以上に出場を続けてきた坂本でしたが、今回は復帰まで時間を要し、プロ入り後初めて1ヵ月以上にわたる戦線離脱を経験しました。

その間、毎日1軍の試合をチェックしながら、ジャイアンツ球場でリハビリに励んだ坂本。自分が離脱した直後、5月1日~10日までの8試合で巨人は1勝7敗と泥沼状態でした。「一刻も早く戻って、チームの力になりたい」……坂本の回復力の速さにはいつも驚かされますが、こういうチームへの思いも大きな原動力になっているのでしょう。

40日ぶりの1軍復帰初戦となった9日の西武戦。この日「5番・遊撃」で先発した坂本は、まず2回の第1打席で、西武のドラフト1位ルーキー・隅田知一郎からライト前にヒット。

さらに3回、2死一・二塁のチャンスで、レフト前に先制タイムリーを放ちます。このとき、いつもクールな坂本にしては珍しく、両手を頭上で叩き、喜びをあらわにするシーンもありました。

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『1軍復帰戦で先制打を打てて良かった。なんとか結果が出て良かった。それだけです、本当に』

~『スポニチアネックス』2022年6月10日配信記事 より(坂本のコメント)

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5回の第3打席ではセンター前にヒットを放ち、復帰していきなり3打席連続安打。猛打賞はこれが通算174度目で、右・左・中と広角に打ち分けたのはさすが坂本。心配されたショートの守備も軽快にこなし、こちらもブランクを感じさせない動きを見せてくれました。

チームを鼓舞する主将の働きで、巨人は4-3で逃げ切り、連敗を3で止めました。復帰初戦で、あらためて存在感を示してみせた坂本。「そういえば、春先にも同じようなことがあったよな」と思った方も多いでしょう。

オープン戦中、左内腹斜筋筋損傷のため戦列を離れ、レギュラーの座をつかんだプロ2年目の2008年以降、初めて開幕戦を欠場しました。これは復帰まで長くかかるのかと思いきや、欠場したのは開幕2試合だけ。3月27日、中日との開幕第3戦で、早くも東京ドームに帰って来ました。

この日、「2番・遊撃」で先発出場した坂本は、初回にいきなり先制の二塁打、続く3打席もすべてヒットを放ち、「復帰即4打席連続安打」の離れ業をやってのけたのです(ただし、試合は逆転負け)。

なぜ2度も「復帰即猛打賞」などということができたのか? 打席での並外れた集中力はもちろんですが、先ほども触れた「キャプテンシー」が人一倍強いからでもあります。

今年(2022年)で主将を務めて8年目になる坂本。実は昨シーズン(2021年)終盤、原辰徳監督から今季も主将を続けるかどうか打診されたそうです。坂本の答えは「もう1年やります」でした。

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「監督も『今年でもういいよ』という感じだったのですごく考えたんですけど、このままで終わってもあれかなと思った」

~『週刊ベースボールONLINE』2022年4月15日配信記事 より

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坂本が「このままで終わっても……」と思ったのは、昨シーズン終盤、チームが信じられないような大失速を見せて3位に沈んだだけでなく、シーズンを負け越しで終えるという屈辱を味わったからです。その悔しさ、不完全燃焼の思いが「もう1年やります」という言葉につながったのでしょう。

就任8年目、自ら望んで「キャプテンをやりたい」と申し出たのは今回が初めてでした。V奪回を図るには、キャプテンとして何をすればいいのか? チームを優勝に導けなかった前年の反省をふまえ、坂本は今季、こんなことを実践しています。

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『主将は「負けているときは、もっとしゃべりながらやらなきゃいけないなと思った」と振り返り、ときには言葉でナインを鼓舞していく決意を胸に刻んだ。さらに、今季はチーム全体のムードづくりを重要視。自ら先頭に立って盛り上げ、チームを開幕ダッシュに導いている』

~『週刊ベースボールONLINE』2022年4月15日配信記事 より

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9日の試合、第2打席でタイムリーを放ったあと、塁上で両手を叩いて喜んでみせたのも「チームを盛り上げよう」という意識の表れです。そういえば、開幕3戦目に復帰したときも、初回でタイムリー二塁打を放ったときにガッツポーズを繰り返すシーンがありました。「チームを明るく」が今季のキャプテン・ハヤトのモットーなのです。

この姿勢は戦線離脱中も同じ。自主トレを共にした増田陸ほか、1軍で活躍する後輩選手たちの相談に乗り、アドバイスを送り、激励しました。

そして、チームの危機には、誰よりも力を発揮するのが坂本主将のキャプテンたるゆえん。4月12日、沖縄で行われたDeNA戦で、主砲・岡本和真が体調不良のため欠場すると、坂本が986日ぶりに代役で4番に座りました。初回、敵失を誘う遊ゴロで先制点につなげたほか、3回、4回と2打席連続でヒットを放ち勝利に貢献。チームを首位に浮上させる活躍を見せた坂本。原監督が頼りにするのもよくわかります。

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『連敗を3で止めた原監督は坂本について「存在感を見せてくれて、いいスタートを切ってくれた」と笑顔。「チームが落ち着くか?」との問いには「それはそうでしょうね」と大きく目を見開いた』

~『スポニチアネックス』2022年6月10日配信記事 より

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ちなみに今季、坂本がマルチヒット(2安打以上)を放った9試合の勝敗は7勝2敗(9日現在)。勝敗に直結する一打をそれだけ多く放っている証しであり、キャプテンが打てばチームも盛り上がります。9日のゲーム、坂本がヒットを放った瞬間、総立ちになったジャイアンツベンチ。満身創痍でも、チームを引っ張ろうという気概と責任感が、キャプテン・坂本を支えているのです。

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