ウクライナ情勢による供給不安で高騰する「パラジウム」の行方

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東京大学生産技術研究所所長の岡部徹氏が6月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアのウクライナ侵略で存在が注目されるパラジウムについて解説した。

ウクライナ情勢による供給不安で高騰する「パラジウム」の行方

02.06.2022 Newly cast ingots of 99.97 percent pure palladium are stored at a plant owned by Krastsvetmet, one of the world‘s biggest manufacturers of non-ferrous metals, in Krasnoyarsk, Russia. Ilya Naymushin / Sputnik、クレジット:Sputnik/共同通信イメージズ 写真提供:共同通信社

「自動車排ガス浄化触媒」に使用されるパラジウム

プラチナ系の金属でレアメタルの一種とされるパラジウム。主に自動車を製造する際、有害な排ガスを浄化する「自動車排ガス浄化触媒」に使用されている。

飯田)自動車排ガス浄化触媒に使われているパラジウムですが、世界に供給されているパラジウムのうち、全体の約4割がロシア産なのです。残り6割の内訳を見ると、ロシアと同じく4割ほど出しているのが南アフリカです。南アフリカとロシアで約8割を占める、非常に生産国が偏っている物質でもあるわけです。ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、最近の相場は1グラム当たり1万円前後と、金やプラチナよりも高くなってしまっているということです。

パラジウムの供給不安による日本の自動車業界への影響 ~長期契約をしているため、値段は上がっても調達はできている日本企業

岡部)実際、供給元が南アフリカの一部地域とロシアしかないので、日本の自動車会社は南アフリカの白金を採掘して製錬する会社と、長期契約を結んでいます。供給が止まったら、立ち行かなくなりますので。値段は上がっていても、調達という意味では、長期契約で賄えているというのが私の見立てです。

飯田)その辺りは企業もリスクヘッジしているということですね?

岡部)私は実際に南アフリカの製錬所や鉱山など、いろいろなところに行きました。日本だけではありませんが、日本の自動車産業は最大の顧客であり、長期契約を結んでいるのです。すべての会社がそう言っていますから、間違いはないと思います。

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飯田)当面、供給不安はあるかも知れないけれど、リスクヘッジはしているという点。そして、しばらくすると国際的な新しい流通網が形成されるので、供給に与える影響は限定的ではないかという見解もありました。さまざまな国を経由するので、その分、値段は上乗せされてくる可能性はある。

今回のパラジウムの高騰は投機筋によるもの ~今後、どう動くかはわからない

飯田)南アに今回、非常に注目が集まっているということですが、南アフリカだけでも需要の100年分を賄えるだけの埋蔵量があるということです。その間に、新しい排ガスを浄化する技術が出てくる。または、ガソリン車のシェアが少なくなる可能性もあります。「需要と供給のバランス」もありますが、こういう激変期には、いろいろなハレーションが起きるものですよね?

ジャーナリスト・須田慎一郎)そうですね。今回も2月24日にロシアによるウクライナ侵略が始まった際、パラジウムは商品先物市場、主にシカゴの先物市場で売買されているのですが、急激に上がったのです。つまり、今後の実需を反映した価格ではなく、思惑外と言ったらいいでしょうか。先物市場が上がってきた経緯があるので、投機筋による高騰なのだと考えてもらっていいと思います。本当の値段かどうかはわからないところがあります。

日本はパラジウムを含めたレアメタルのリサイクル大国

飯田)パラジウムは現在ある車のエンジンにも使われているのですよね?

岡部)そうですね。

飯田)そうすると、取り出して再利用することはできないものなのでしょうか?

岡部)それは既に行われています。自動車には、組み合わせはいろいろありますが、2グラム~数グラムの白金、パラジウム、ロジウムが使われているので、それをリサイクルして回収するだけで、何万円かの価値が生み出されるのです。

飯田)リサイクルして回収するだけで。

ウクライナ情勢による供給不安で高騰する「パラジウム」の行方

クライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで大破した車両が放置された道路を歩く住民(ウクライナ・ブチャ) EPA=時事 写真提供:時事通信

世界中から自動車の排ガス浄化触媒のスクラップを集めて、パラジウムや白金に戻す技術のある日本

岡部)日本は、白金をスクラップから精錬してリサイクルする技術が長けているので、世界中から自動車の排ガス浄化触媒のスクラップを集め、日本に持ってきて、パラジウムや白金やロジウムに戻しています。

飯田)世界中から集めているのですか?

岡部)取り合いをしているというのが正しいです。

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飯田)日本は非鉄産業が強い。別子銅山は江戸時代からある銅山で、これが住友グループの礎を築くなど、鉄以外の金属の扱いには歴史もあります。白金、あるいはパラジウムの抽出技術も優れています。世界中からスクラップを持ってきて、そこからさまざまにリサイクルしている。こういうことはオイルショックの時代からやってきたことです。

須田)資源がない国ですし、それを請け負う中小企業にも高い技術があります。日本は大企業だけではなく、中小零細企業の技術によって支えられている強みがあります。

これからのパラジウム、レアメタルの展望について ~貴金属やレアメタルは生活を支えるために必要なもの

岡部)自動車に白金、パラジウム、ロジウムを使わない技術や、使う場合でも、使う量を減らす技術は必要です。ただ、これは何十年と研究者が取り組んでいることですが、未だに成功していない。成功する前に、下手をするとガソリン自動車がなくなるかも知れません。

飯田)どちらが先かというような話になってくる。

岡部)ただ、白金属がいらなくなるのかというとそうでもなく、例えば燃料電池ユニットには触媒として白金やパラジウムが必要なのです。

飯田)そうすると、今後の新しい産業なども含めて、この金属たちが非常に有用なことには変わりないのですね。

岡部)変化はしていきますが、貴金属やレアメタルは、豊かな生活を支えるには必ず必要になります。

飯田)お話を伺えば伺うほど、日本の可能性のようなものが見えてきますね。

岡部)地味ではありますが、非鉄産業、レアメタルに関しては、日本はいいポジションを取っているのです。

高い技術を持つ日本

飯田)地味だけれどいいポジションを取っているということです。

須田)素材という点に関して言うと、レアメタルやパラジウムに限らず、日本はいいポジションを取っていて、高い技術を持っているのです。例えば半導体の素材はシリコン一色ですが、シリコンに代わる新たな素材を考えないと、さらなる成長には進んでいかない。その素材の技術というものを日本は持っているのです。

飯田)商品化するまでには時間がかかるかも知れませんが、地道にお金を注ぎ込んで研究しなければならないのですね。

須田)岡部先生も言うように、地味だけれども、というところが日本の生きる道なのではないでしょうか。

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