日本経済を立て直すには「労働市場改革」と「高圧経済」の2つしかない

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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦、第一生命経済研究所・首席エコノミストの永濱利廣が6月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。スイス国立銀行が発表した政策金利の引き上げについて解説した。

日本経済を立て直すには「労働市場改革」と「高圧経済」の2つしかない

26000円を割った日経平均株価を示す株価ボード=2022年6月17日午前、東京都中央区 写真提供:産経新聞社

スイス利上げ、ダウ急落

スイスの中央銀行にあたるスイス国立銀行は6月16日、政策金利を0.5%引き上げてマイナス0.25%とすると発表した。利上げは2007年9月以来、約15年ぶりとなる。物価高に対処するため追加の利上げも検討するとのこと。ダウ平均は終値で2万ドル台となり、3万ドルを下回った。これは2021年1月以来、約1年5ヵ月ぶりの水準である。

飯田)日銀は16~17日に金融政策決定会合を行うということです。この値動きは、スイスがきっかけなのですか?

永濱)スイスも1つのきっかけですし、イングランド銀行もそうです。これまでも利上げをしましたけれど、また利上げをして、ある意味、世界同時利上げとなり、世界経済の景気後退懸念が強まったというところです。

飯田)先に米連邦準備制度理事会(FRB)が0.75%の利上げを行いましたが、このときは市場は動かなかったわけですよね。

永濱)パウエル議長が上手い発言をしたということです。0.75%の利上げは織り込まれていて、市場では「7月にも0.75%の利上げがあるのではないか」と思われていたのが、パウエル議長が「必ずしも0.75%とは限らない」と。「0.5%の可能性もある」という発言をしたので、若干、警戒が緩んだということです。

世界的には利上げ加速で、景気後退の可能性が高まっている

永濱)それまでに、かなり米連邦公開市場委員会(FOMC)では警戒していて、売られ過ぎた部分が少し戻ったぐらいの感じがあると思います。根底的にはFOMCのドットチャートという、今後の政策金利の見通しを見ても、年内で3%以上上げるということです。中立金利が2.5%ですから、ある程度、景気悪化を容認してでも物価を抑えるということです。そういうスタンスが見えてきたので、世界的には利上げ加速となり、景気後退の可能性が高まってきたという見方ではないでしょうか。

飯田)中立金利、景気に上げも下げも作用しない絶妙なバランスの金利がどのくらいなのかというところで、想定されるのが2%程度と。

永濱)アメリカではFOMCのメンバーが2.5%と言っています。

景気がよくなりすぎているアメリカ ~金利を下げて景気を悪くすればアーリーリタイアした人が戻ってくる可能性も

飯田)それを超えてくるということは、景気にある程度ブレーキが掛かってでも、アメリカはどちらかというとインフレを抑えなければならない方向へいく。

永濱)むしろ、アメリカは景気がよくなりすぎているのです。50代以降の低賃金の労働者が、アーリーリタイアして働かなくなってしまい、労働市場がひっ迫しています。物価も上がり、賃金も上がってしまっている。

飯田)そういうことなのですか。

永濱)日本とは真逆です。それなら、逆に金利を上げて少し景気を悪くした方が、アーリーリタイアした人が戻ってくる可能性もあるわけです。ある意味、合理的な判断だとは思います。

アメリカの労働市場がひっ迫している理由

飯田)労働市場のひっ迫に関して、実はそういう側面があるのですね。でもアーリーリタイアして、どうやって暮らすのですか? 稼ぐだけ稼いだということですか?

永濱)金融資産がかなりあります。アメリカは定額給付金だけで、現在のドル円に換算して50万円くらい出ていますし、失業保険給付も手厚いです。低賃金で働くくらいなら、失業した方が儲かる状況でした。アメリカ人は家計の金融資産のうち、4割くらいを株で持っています。アメリカの株はピークから3割近く下がったと言われていますが、それでもコロナ禍以前に比べれば、まだかなり高い水準です。さらに低賃金の労働者は、もともと生活水準が低いのです。そうなると働かなくなってしまうのでしょうね。

日本経済を立て直すには「労働市場改革」と「高圧経済」の2つしかない

米連邦準備制度理事会(FRB)本部(アメリカ・ワシントン)=2021年1月27日 EPA=時事 写真提供:時事通信

7月に中東各国を訪問するバイデン大統領 ~石油の増産要請へ

飯田)その辺りは日本人と感覚が違うところがありますか?

宮家)違いますね。でも、アメリカのガソリン価格は、いまは1ガロン5ドルくらいでしょう。これはすごいですよ。5ドルのままではたまらないですよね。やはり冷やさなければいけないということでしょうか。

飯田)エネルギーに関しては、バイデン大統領が7月にも中東各国を訪問する予定です。増産をお願いしに行くという話のようですけれど、一筋縄ではいかないですか?

宮家)サウジとの関係は一筋縄ではいかないですよね。ジャーナリストが殺されて、トランプさんの時代はよかったけれども、バイデン政権になって関係が悪化した。リベラルの人たちですから、「人権の問題を」という話なのです。しかし、背に腹は代えられない。ロシア以外に増産能力を持っているのはサウジだけですので、サウジに頭を下げなければならない。「それはやりたくない、でも行かなければならない……」と議論してきて、やっと行動に移すということです。

飯田)行かない代わりに、国内でシェールを増産することはできないのですか?

宮家)それは環境の問題があるから、できないのです。自分で自分の首を絞めている部分がないわけではないけれど。

総合で2.5%上がっている消費者物価 ~エネルギーを除けば0.8%しか上がっていない

飯田)エネルギー価格が世界的に上昇していますが、日本でもかなり影響が出てきています。

永濱)日本はエネルギー自給率が11%くらいしかありませんから、化石燃料の値上がりの分は、産油国からの増税と一緒です。所得の海外流出になってしまいますから、なかなか難しいところかも知れません。原発を動かさない限りは相当厳しいと思います。

飯田)昨日(16日)、財務省から貿易統計の速報値が出ましたけれども、かなり高水準の貿易赤字で、その大半はエネルギーです。エネルギーのバランスを変えないと、本来的には変わらないわけですよね。

永濱)おっしゃる通りです。いま消費者物価も総合で2.5%上がっていますが、エネルギーを除いたら0.8%しか上がっていないのです。いかにエネルギーの値段が上がっているかということです。特に電気料金は1年前の3割近く上がっているわけですから、厳しいですね。

輸入物価上昇の6割以上は輸入品そのものの値上げ

飯田)日本の消費者物価の上昇に関して言うと、「為替の影響が大きい」というようなことを言われますが、エネルギーの方が相当大きいですか?

永濱)そうですね。輸入物価は契約通貨ベースと円ベースで見ることができます。それを見ると、為替の要因は大きくはなってきていますが、3割~4割くらいで、6割以上は輸入品そのものの値上がりです。

日銀が金融政策を動かさないのは来年以降の世界経済の景気悪化を警戒してのことか ~再び円高になる可能性も

飯田)日銀の金融政策決定会合が行われます。この流れに「日本まで」というのはあり得る話でしょうか?

永濱)いや、これまでの黒田総裁の発言から、ここで金融政策を動かすとなると、「ではいままで言ってきたことは何なのか」となります。そもそも日銀は、為替政策については法律的にも財務省の管轄であって、「我々はインフレを目標としているのだ」とおっしゃっていましたから、さすがに動かないのではないかなと思います。

飯田)先ほどご指摘があったインフレで考えると、内需が高まってインフレ率が上昇するというよりも、エネルギーの部分が大きい。

永濱)いまはまだ経済はそこまで悪くなっていませんが、これだけ世界的に金利を上げているということは、特に来年(2023年)以降、世界経済が悪くなる可能性があるわけです。

飯田)来年以降。

永濱)世界経済が景気後退に近い状況になれば、また円高になる可能性もあるわけです。その辺りも若干警戒して「現状維持」という対応をしているのかなと思います。

日本経済を立て直すには「労働市場改革」と「高圧経済」の2つしかない

OPECのロゴと石油ポンプの模型=2020年4月(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

日本経済を立て直すには「労働市場改革」と「高圧経済」の2つしかない

飯田)永濱さんの最新著書『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)では、いまは外需に頼ることができるかも知れないけれど、円高になり、世界経済がシュリンクしてくると、日本経済を立て直さないことにはどうしようもなくなると書かれています。

永濱)そうですね。この本のなかにも書きましたが、何をしたらいいかと言うと、「労働市場改革」と「高圧経済」の2つしかないのです。これでとりあえず経済を正常な状態に戻す。それをやらない限り、難しいのではないかと思います。

景気が悪いときには積極的に財政出動して、経済を一刻も早く正常化させることが必要

飯田)高圧経済というと、コロナ禍前ですけれども、いま財務長官を務めているイエレンさんが唱えてきたことです。政府が積極的にお金を出す形で経済を回していくという、あの考え方でいいですか?

永濱)そうですね。実際にアメリカは、一時的には財政赤字が増えましたけれど、いまはむしろ景気が過熱しすぎて財政黒字になっています。となると、将来的な財政の改善を考えた場合でも、景気が悪いときは思いっきり財政を出して、経済を一刻も早く正常化させる、健康な状況に戻すということが必要なのです。

労働市場を流動化するために転職した労働者に所得税優遇措置を行う

飯田)労働の部分は、かつてから問題を指摘されています。

宮家)もっと労働市場が流動化しなければならないと思うのだけれど、日本では難しい。アメリカのようにドライに首を切るわけにはいきません。それで代謝が進んでいくという社会でもないし、それが日本のいい部分でもあるのです。しかし、そこを守ろうとすると、どうしても流動性が固まってしまうという気はします。

飯田)一方で入れば手厚く対応するというところで、大学を卒業して就職する。私は氷河期世代なので、周りに就職できない人たちがたくさんいました。就職氷河期に当たってしまっただけで、人生が変わってしまう。「自分たちには何の違いもなかったよな」と。

宮家)たった1年でね。

飯田)そこを考えると、労働市場もこのままではよくない。永濱さんはどうお考えになりますか?

永濱)岸田政権は「人への投資」というところで、いろいろスキルを上げてもらい、転職しやすいようにという話をしています。

飯田)そうですね。

永濱)私は労働市場を流動化させたいのであれば、企業に賃上げ優遇税制をするのではなく、転職した労働者に所得税優遇措置を行った方が、労働市場は流動化すると思います。

飯田)転職した労働者に。

永濱)会社の上層部の方などに話を聞くと、賃金は解雇規制が厳しいからなかなか上げられないけれど、そうは言っても、「従業員がみんな辞めてしまうならば、さすがに給料を上げるよ」と言う方が多いのです。それくらい、思い切ったことをしなければいけないのではないかなという気がします。

飯田)いまは人を雇うとなると、社会保険料等で企業にも負担が大きいから、おいそれと雇えないわけです。その辺りで、1つコマを倒すだけでもいろいろ変わってくるかも知れない。

永濱)そう思います。

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