生涯グランドスラム達成! 王者・国枝慎吾を支える最強のサポートメンバー

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回はウィンブルドンを初めて制し、「生涯ゴールデンスラム」の大偉業を達成した車いすテニスプレーヤー・国枝慎吾選手にまつわるエピソードを紹介する。

生涯グランドスラム達成! 王者・国枝慎吾を支える最強のサポートメンバー

ウィンブルドンテニス・車いす部門男子シングルス決勝/国枝慎吾 AFP=時事 写真提供:時事通信

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『今、夢がかなった。妻やチームに感謝したい』

~『時事通信』2022年7月10日配信記事 より(国枝慎吾のコメント)

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「世界のクニエダ」が、代名詞でもあるフレーズ「俺は最強だ!」を完全なる形で示してみせました。7月10日に行われた、テニスのウィンブルドン選手権車いすの部、男子シングルス決勝。第1シードの国枝慎吾が3時間超えの大激戦の末、悲願のウィンブルドン初優勝を果たしたのです。

国枝はこれで、車いすテニスの男子選手では初となる「生涯グランドスラム」(=4大大会を全制覇)を達成。パラリンピックの金メダルも合わせて、これも史上初となる「生涯ゴールデンスラム」も達成したのです。

また、この前日にもダブルスで優勝を果たした国枝。今回のウィンブルドン2勝によって、「4大大会・単複通算50冠」という大台にも到達しました。国枝は日本のスポーツ史だけでなく、世界のテニス史に燦然と輝く大偉業を果たしたのです。

そんな国枝がここ最近、ビッグタイトル優勝の際、決まって口にする言葉があります。それは最愛の妻、そしてチームスタッフへの感謝です。冒頭で紹介した「妻やチームに感謝したい」というコメントは、1ヵ月前、4年ぶりに全仏を制した際の優勝スピーチでも、昨年(2021年)の東京パラリンピックで金メダルを獲得した直後にも飛び出した言葉でした。

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『観客が素晴らしい雰囲気をつくってくれて、勇気をくれた。妻やコーチ、トレーナーに感謝したい』

~『時事通信』2022年6月4日配信記事より(全仏2022での国枝優勝コメント)

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『昨日のあの瞬間が僕の人生の中で一番幸せな日だったし、昨日の一日を実現してくれた妻やコーチ、トレーナー、関わってくれた全ての方々に感謝したい』

~『スポーツ報知』2021年9月5日配信記事 より(東京パラリンピック・金メダル後の国枝コメント)

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妻、コーチ、トレーナー……この「チーム国枝」の存在なくして偉業達成は語れません。支える人というとコーチに焦点が当たりがちですが、精神面をケアする3人のサポートメンバーの献身的な努力を知ると、国枝の偉業の重みが、また違った形で伝わってきます。

まずは、国枝慎吾が試合前に鏡を前にして言い聞かせるという「俺は最強だ!」の言葉を授けてくれた人物。オーストラリア出身のメンタルトレーナー、アン・クインさんの存在です。

2006年にクイントレーナーと出会った当時の国枝は、まだ世界ランクがひと桁にも届きませんでした。それが「俺は最強だ!」と鏡の前で叫ぶようになると、そこから1年も経たずに世界ランク1位へと上り詰めたのです。

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「メルボルンで初めて会ったとき、世界一になれると思うかと慎吾に訊ねたら、『なりたい』と答えたので、これからはなりたいではなく世界一だと言い切るようにしなさいと言いました。あれから16年、共に力を合わせ、彼が並外れたチャンピオンに成長するのを見てきました。光栄なことです」

~『Number Web』2022年1月27日配信記事 より(アン・クイン コーチのコメント)

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もっとも、そんな王者・国枝も、リオパラリンピック前にヒジの手術をし、一時は引退の危機に直面したこともありました。そこから復活した背景には、リオ後の2016年10月ごろから身体面のケアを担当するようになった北嶋一紀トレーナーの存在も見逃せません。

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『リオ大会前に肘の手術をした国枝選手。大会後の二〇一六年十月ごろから、柏市内の整形外科に勤務する北嶋さんが国枝選手のトレーナーとなった。施術をして抱いた印象は「関節の動きが悪い」。国枝選手は関節の手当てを集中的に受け、痛みが和らぎ、手首の可動域が広がるのを感じたという』

~『東京新聞 TOKYO Web』2021年9月6日配信記事 より

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さらに、北嶋トレーナーがほぐしてくれるのは体だけではなく、メンタル部分も……。国枝は過去のインタビューで、「北嶋トレーナーは癒し系キャラで、体も心も癒されています」と明かしたこともありました。

そして、誰よりも欠かせないのは妻・国枝愛さんの存在です。愛さんは夫の食生活をサポートするため、結婚を機にアスリートフードマイスター3級の資格を取得。夫の競技生活を支えています。そのメニューは、愛さんのSNSで実際に見ることができます。

チェックしてみると、見るからに美味しそうな栄養充実の献立の数々はもちろんのこと、その食事を通して夫婦間でどんなことを話題にしたのか、といったことまで垣間見えることも。海外を転戦・連戦する厳しい日程でも実力を発揮できる背景には、充実の食事とリラックスタイムがあることがわかります。

そして、もっとも間近で見守っているからこそ、夫・国枝慎吾の置かれている状況の過酷さ・大変さを理解し、ときには言葉でもサポート。以前、愛さんはこんな力強いメッセージを発信したこともありました。

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『障害があっても無くても、アスリートとしてやっている事は同じです。「障害を乗り越えて頑張っている」とか「障害があるのにすごい」とか、そういうありふれた言葉で片付けて欲しくないのです。“パラ”アスリートではなく、もっと”アスリート”としての側面に注目して見て欲しいと思っています』

~『ATHLETE FOOD MAGAZINE』2019年11月5日配信記事 より

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今回のウィンブルドン制覇の直後、国枝慎吾と愛さんのそれぞれのSNSには、北嶋トレーナー、クイントレーナーらとともに笑顔で優勝カップを掲げる写真が掲載され、改めてそのサポート体制の大切さを教えてくれます。

東京パラリンピック後は燃え尽き症候群のような状態になり、今年(2022年)の全豪オープンを最後に引退するかも知れない、と考えたこともあったという国枝。しかし、その全豪で優勝する過程において技術改善の可能性に気付き、そこから全仏、そして今回のウィンブルドン制覇と、グランドスラム連勝につなげるなど、38歳のいまも進化が止まりません。

今回のウィンブルドン優勝スピーチでは、ファンにとって嬉しいこんな言葉も飛び出しました。

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『来年も戻ってきたいので、また見に来てほしい』

~『スポーツ報知』2022年7月11日配信記事 より

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引退の危機は通り過ぎ、未来を見据える国枝。次に目指す大偉業は、今秋の全米オープンを制して「年間グランドスラム」達成です。

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