「旧統一教会」「安倍元総理の国葬」よりも議論すべきことがある国会
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ジャーナリストの佐々木俊尚が8月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。8月3日に召集された臨時国会について解説した。
臨時国会、8月3日に召集
7月の参議院選挙後初めてとなる第209臨時国会が8月3日に召集された。会期は8月5日までの3日間。物価高騰対策や新型コロナ対策について議論する予定だが、本格論戦は秋に予定する臨時国会まで持ち越される。また、安倍元総理大臣の国葬に関する議論は閉会中審査で行われる。
「旧統一教会」と「安倍元総理の国葬」よりも議論すべきこと ~エネルギーと食糧危機による物価高騰への対策やペロシ米下院議長の訪台など問題山積
飯田)今回の臨時国会は3日間ということです。
佐々木)立憲民主党の泉代表が「たった3日間では納得できない」と言っていますが、何をやるのかというと、いま問題になっている旧統一教会のことや国葬はどうなのかという話になると思うのです。
飯田)そうでしょうね。
佐々木)それらの議論もいいのですが、いまこの事態でやるべき話は、エネルギー危機と食糧危機についてだと思います。物価が高騰していて、それに対して国民がどう対応するのか。生活防衛だけでは、またデフレマインドに戻ってしまう。
飯田)国民が行う生活防衛だけでは。
佐々木)そうではなく、物価が上がっても、みんながお金を払えるくらいの給付金で対応するなど、もっと大きな財政出動を考えるべきです。そうなれば、物価が上がっても買います。買ってくれると経済が回るようになるので、景気がさらによくなる可能性が出てくる。
飯田)財政出動をすることによって。
佐々木)そこを目指して財政出動政策をどうするのかという話です。また、ペロシ米下院議長の台湾訪問について。これでまた台湾危機が高まってきたら、日本はどう対応すべきなのかという議論をいまのうちにしておかないといけません。問題山積で、やらなければいけない議論は山ほどあると思うのです。
中国が台湾海峡を封鎖すれば東南アジアを経由するシーレーンが使えなくなり、さらに日本への天然ガス、石油が入ってこなくなる
飯田)台湾の話と物価が連動する可能性もあります。中国が台湾海峡を封鎖することになったときは、日本に入ってくる物資量が非常に狭まる。当然ながら物価が上がってしまいます。
佐々木)最終的に東南アジアのシーレーンを経由してやってくる石油タンカーを、どうやって守るのかという議論にも当然なるわけです。そうなると、さらにロシアからの天然ガス、石油が入らないということになる。
飯田)さらに入ってこない。
佐々木)南東のシーレーンは危ない。再生可能エネルギーだけでは回らない。原子力は動いていないということになり、「どうやってエネルギーを守るのか」という問題について、大掛かりに対策しなければいけない事態になってきているのだと思います。
野党に国民が求めるのは、自民党に成り代わる代替政党としての野党 ~自民党を支持する若者の多くの理由は「他党よりもよさそうだから」
佐々木)野党側も政権に対しての攻撃、批判姿勢を保つと支持を高めてもらえるという判断をしているのではないかなと思いますが。
飯田)批判することで。
佐々木)野党が与党を攻撃すると、それをメディアが報じる。そうすると、何となく「自民党が大変な目に遭っている。自民党が危ないのではないか」という空気が世論として出てきて、岸田政権の支持率は下がっていくという現象が起こる。
飯田)野党の政権批判によって。
佐々木)しかし、それが最終的に野党の得になるかというと、決してそうではないと思います。最近、雑誌の「週刊SPA!」が、20代の若者の自民党支持者に「なぜ自民党を支持しているのか」ということを聞いているのです。それを見てみると、最も多かった3割の人が「他の政党よりよさそうだから」と答えています。
飯田)消極的な選択。
佐々木)消極的なのですよ。2位が「安定感がある」で、3位が「印象がいい」。その2つを超えて、圧倒的1位が「他の政党よりよさそうだから」と答えている。要するに選択肢が他にないので、仕方なく自民党を支持しているということです。このマインドは20代の若者に限らず、他の世代でもそうなのではないかという感じもします。
飯田)そうかも知れません。
佐々木)ということは、自民党に成り代わる代替政党としての野党を期待している人が多いと思うのです。野党にはそこを頑張って欲しいと思います。
飯田)野党のあり方として。
「攻撃的なものに対しては距離を置きたい」人が多い ~自民党を攻撃する野党の姿とオーバーラップ
佐々木)政治というのは支持を固める、また広げるということを両方やらなければいけないと思うのです。いまの立憲民主党のやり方は、自民党に対する批判姿勢を強めることで、確かに支持は固めているのだろうと思います。しかし、それ以上の支持は得られないのです。
飯田)批判するだけでは。
佐々木)いいか悪いかは別として、いまの時代の空気、特に20代の若者はそうなのですが、「あまりにも攻撃的なものに対しては距離を置きたい」というマインドが広がっていると思います。もちろん、批判しなければいけないときは批判しなければいけないのは当然ですが。
野党は「自民党に代わって政権を持つことができる」という理念を打ち出すべき ~批判するだけではそれ以上の支持は得られない
佐々木)ツイッターなどを見ていると、怒鳴ったり罵声を飛ばしている人がいるではないですか。ああいうことに対するうんざり感というか、「やめて欲しい」という気持ちが空気感として広がっている。
飯田)SNSでも。
佐々木)そういう空気のなかで野党が(旧統一教会問題など)生活に直結しない問題で自民党を攻撃しているのを見ると、SNSで攻撃している人とオーバーラップして見えてしまう部分があるのではないかと思います。
飯田)野党の自民党批判が。
佐々木)そうではなく、かつて2009年の民主党が持っていたような、「我々は自民党に代わって政権を持てます」という理念をきちんと打ち出せば、ついてくる人はたくさんいるはずだと思います。実際、あのとき民主党は衆院選で大勝して政権を獲得したわけです。あのときに民主党を支持していた人のかなりの数が、いまと同じ「消極的自民党支持者」ではないでしょうか。
幅広い層の支持者が消極的に自民党を支持している ~党内にも右寄りからリベラルまで幅広い議員を抱えているところが強さでもある
佐々木)自民党支持者は、とても幅広いと思うのです。右の方にいけば限りなく参政党に近いくらいの右派の人たちもいるだろうし、ほぼリベラル左派なのだけれど、「いまの立憲民主党、共産党には政権を任せられない」と思っている人たちも、自民党を消極的に支持しているのだと思います。
飯田)幅広い支持者が。
佐々木)支持者だけではなく、党内の議員たちも「この人は極右なのではないか」という右寄りの人からリベラルな人まで、幅広く抱え込んでいるわけです。
自民党にある融通無碍なところがない立憲民主党 ~ピュアなところだけが残ってしまった
佐々木)融通無碍なところが自民党の強さでもあるのです。それが支持者の幅広さにつながっている部分はあるのではないでしょうか。立憲民主党は現状、そこがなさすぎる。民主党時代から比べると、立候補者も含めて純化してしまって、細野豪志さんや長島昭久さん、松井孝治さん辺りがいなくなり、ピュアなところだけ残ってしまった部分がある。
飯田)立憲民主党に。
佐々木)そのピュアなところを支持できる人にとっては、立憲民主党はいい政党なのかも知れませんが、そこから先の広がりがまったく期待できなくなってしまっている。それをどうするのか。泉健太代表は「それではまずい」として、例えば「提案型野党になろう」と言っているのだけれど、それに対してピュアな人たちからは反発があるのです。
飯田)今回の参院選の総括部分でも、提案路線で結果を出せなかったということが出ています。
佐々木)「もう1回枝野さんを代表に」という声も出てきているのですが、そうやって潰し合って、「立憲民主党の先に何があるのか」と言うと、あまりないような気もする。
有権者のなかにある「自民党を代替してくれる新しい政党への期待」 ~「55年体制に回帰するのではないか」という不安もある岸田政権
佐々木)有権者の間には、「自民党を代替してくれる新しい政党への期待」があるのだと思います。さすがに1強だけでずっと続いてしまうと、必ず権力は腐敗しますので、それはよくないと。
飯田)レンジが広くて包摂するがために、逆に言うと、いろいろな利権でがんじがらめになってしまい、政策が変えられないということがかつてもあった。昨日(8月2日)、コロナ感染症の全数把握見直しを専門家有志が会見で提言しました。これも「本当は分科会でやりたかった」となかの人が言っているくらいで、「やりたいけれど政府がやってくれないからこうするしかない」ということでしたが、このような問題がいろいろなところで出ています。
佐々木)それがまさに、55年体制時代の自民党だったわけです。官僚と財界と政治の三すくみ状態で、何もできなくなってしまった。それをひっくり返したのが1990年代~2000年代にかけてあった、いろいろな政変だったのです。最終的に安倍政権が成立し、異様なくらいの強い官邸主導でさまざまなものを変えてきた。
飯田)安倍政権が。
佐々木)ところが安倍さんが退陣して、菅さんを経由して岸田政権になり、安倍さんも亡くなってしまい、何となく「55年体制的な時代に回帰するのではないか」という不安もあります。どうやって再び政治主導でいろいろなものを変えていくか、もう1回仕切り直して考えて欲しいと思います。
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