原発処理水の風評被害が起きるのは「マスコミ報道が原因」 自覚しないメディアの欺瞞

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ジャーナリストの佐々木俊尚が8月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。福島第一原発処理水の海洋放出について解説した。

原発処理水の風評被害が起きるのは「マスコミ報道が原因」 自覚しないメディアの欺瞞

東京電力福島第1原発敷地内に立ち並ぶ処理水保管タンク=2020年2月 写真提供:共同通信社

原発処理水、海洋放出施設の建設を福島県などが了承

東京電力福島第一原子力発電所に溜まり続けるトリチウムなどの放射性物質を含む処理水を海に放出する東京電力の計画をめぐって、福島県と地元の大熊町・双葉町は8月2日、東京電力の小早川社長に対し、放出に使われる施設の建設を了解することを伝えた。

飯田)8月2日夕方、福島県の内堀知事と大熊町、双葉町のそれぞれの町長が、県庁で東電の小早川社長と面会したということです。

佐々木)完全に科学的には決着がついている話にも関わらず、未だに風評被害が続いていて問題が終わらないというのは、怒りしかないですね。

韓国の原発も処理水を海洋放出している ~体内に蓄積されないトリチウム

佐々木)基本的にトリチウムは、そもそも海中にたくさん存在していて、他国の原発もすべて海に流しているのです。韓国は「流すな」と言っているけれど、韓国の原発も流しているのです。トリチウムは体内に蓄積されません。蓄積しないからこそ、多核種除去設備(ALPS)でも除去できないのです。

国連科学委員会が「放射線被爆を原因とする健康被害は認められない」と発表

佐々木)これだけ言っているのだけれど、未だに「汚染水で汚れている」と言い続けているメディアや政治家の人たちがいます。つい最近も7月に国連科学委員会の人たちが来日して、500を超える論文を研究した結果、「放射線被爆を原因とする健康被害は認められない。結論は堅固で将来も大きく変わるとは思われない」と発表しています。しかし、それも完全に無視している。

飯田)国連科学委員会の発表も。

佐々木)もちろん、漁協など、地元の漁業従事者は反対しています。しかし、反対している理由は、流した瞬間にまたメディアが「汚染水を流した」と大騒ぎして風評被害が生まれるからなのです。

風評被害が起きるのはマスコミ報道が原因

佐々木)風評被害の原因は処理水を流したからではなく、メディアの報道にあるのです。それにも関わらず、朝日新聞や東京新聞は「風評被害が起きる」とか、「漁業者は反対している」と言うのだけれど、反対している理由は「あなたたちが風評加害するからだろう」という話なのです。

飯田)反対している理由は。

佐々木)メディアが風評加害的な報道をしなければ、漁業者は反対しないのです。その因果関係を無視して、「漁業従事者は反対だ」「汚染水を流すなと言っている」と言うのは、マッチポンプ以外の何ものでもありません。

「東電・国」と「漁業者」という2者の間に「メディア」という存在が「どう関与しているのか」を無視して報じる

飯田)実際に漁業関係の方々などを取材したこともあるのですが、放射性物質に関する知識や、どの核種がどれだけ蓄積されるのかということに対して非常に詳しいのです。

佐々木)福島の人はみんな詳しいですからね。

飯田)その上でモニタリングして検出限界未満であるというもの、安全だというものだけを市場に出している。そこまでやっても風評被害が出てしまうから恐れているのだという話です。

佐々木)そこにメディアが介在しているのだということです。「処理水を流す、漁業従事者が反対」という、「東電・国」と「漁業者」という2者しかいないようにメディアは報じているのだけれども、その間にもう1つ「メディア」という自分たちそのものの存在が、どのように関与しているのかをまったく無視して報じているわけです。

飯田)自分たちの存在の関与を無視している。

佐々木)自分たちがまるで当事者ではないかのように報じてしまっているのだけれど、そこがおかしいわけです。地元の漁業従事者で反対している人として、必ず1人の漁師さんが出てくるのだけれども、どのメディアもその人しか出さないのです。「一般の漁業従事者がどのような思いで反対しているのか」ということを、一切報じないというのはおかしな構図です。

メディアは第三者ではなく当事者性がある

佐々木)メディアは第三者ではありません。私も新聞記者時代は第三者として、「当事者ではない人間として取材して書くことに意味があるのだ」と言われてきました。でも、書いたことによって世の中が変わるとしたら、書いたものに関して当事者性があるわけです。その当事者性を無視して、まるで自分が神様か何かになったかのような、鳥の目線で上から書くということ自体に欺瞞があるわけです。

飯田)当事者性を無視して書くことに。

佐々木)なぜ認識が変わったのかという、「自分がそこに関与したからだ」という自覚をもっとメディアは持たなければいけないのだけれど、その自覚がなさすぎる。まるで自分は関係ないかのように漁業従事者と国・東電という2者関係を報じてしまうところに問題があるのです。

国連科学委員会の発表を報道したのは産経新聞と読売新聞の2紙のみ

飯田)国連科学委員会の会見を日本記者クラブでやっていました。フルオープンの形でウェブ上でも全編公開されているのですが、その報じ方もメディアによってだいぶ温度差がありました。

佐々木)きちんと報じたのは読売新聞と産経新聞の2社だけです。産経新聞は「産経抄」というコラムで報じていますが、報じたのは保守系メディアのみというのが、実に情けない話です。会見で朝日新聞の記者が質問までしているのに、朝日新聞はまったく無視です。もちろん、国連科学委員会の発表自体が昨年(2021年)の3月ということもありますが。

飯田)コロナ禍で来日できなかった。

佐々木)改めて来日して説明したという意味では、「当時の発表から新しい事実の追加はない」という言い訳はできるのかも知れないけれど、これだけ記者会見も行われた大きな話なのに、無視しているのはどうなのか。

甲状腺がんについても「被爆によるがんなどの健康影響が増加する可能性は低い」

飯田)風評についての話もここでされていますし、また甲状腺がんについても、「被爆によるがんなどの健康影響が増加する可能性は低い」と位置付けています。記者からの質問で「甲状腺がんが増えているではないですか」と言われたときには、「高感度で、広範囲にスクリーニングしてしまったがための結果である」と。甲状腺がんはがんとしてあるけれども、健康に影響を及ぼさないものも多いということです。

佐々木)過剰診断だという話です。これも以前から医療専門家から言われ続けていることです。「甲状腺がんが増えているのではなく、過剰診断した結果である」と。実際、他の県で同じように診断すると、福島県との有意差は見られなかった。どの県であろうが、過剰に検査してしまえば同じように見つかるということです。しかも、甲状腺がんは、たいていは大きな病気にはならず、放っておいても大丈夫なものが多いのです。

飯田)特に子どものころにあるものなどは。

佐々木)そういう話もまったく理解せず、未だに「甲状腺がんが増えている」、「汚染水を流すな」と言い続けているのです。11年経って、未だにそれをやめない意固地さというのは、いったい何なのか。1人の個人や活動家がやっているのならともかく、大手メディアがやり続けているというのはどういうことなのか。

飯田)困るのは現場の人たちであって、福島の人たちです。

佐々木)風評被害という言葉ではなく、「風評加害である」と言わなければいけないと言っている人もいます。

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