筑波大学教授の東野篤子が8月22日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。開催に向けて調整が始められた日中首脳会談について解説した。
日本と中国、首脳会談の開催に向け調整を開始
日本と中国の両政府は、岸田総理大臣と習近平国家主席による首脳会談の開催に向けて調整を始めた。林外務大臣が8月19日の日本経済新聞のインタビューのなかで会談の実現に向けて「具体的に検討する」と表明した。
飯田)岸田総理と習近平主席の対話となると、去年(2021年)の10月の電話協議が最後です。対面でということになると、2019年12月から行われていないことになります。2022年は節目だということもあるのでしょうか。これに関してはいかがですか?
対話が困難な相手で、厳しい認識をぶつけ合う場になったとしても対話は続けなくてはならない
東野)節目ということもあると思いますが、絶対的に会談の数が少なかったですよね。ウクライナ情勢の話になりますが、ロシアと中国も同じような状態にあります。あまり対話の枠組みから断絶が続いてしまうと、先方が考えていることがわからなくなり、予測不可能で「思わぬ事態を招いてしまう」ということが、今回の大きな教訓だったと思います。
飯田)ウクライナ侵攻の。
東野)そうであるとすれば、どんなに対話が困難な相手で、何回か厳しい認識をぶつけ合う場があったとしても、「対話を続けなくてはならない」ということが間違いなく言えると思います。
飯田)自分たちの意図を確実に伝えることが重要だと。
東野)どこまでが譲れないのか、どこであれば交渉の余地があるのかというのは、やはり話し合いが続いていかないとわからない部分が大きい。その枠組みは絶対に守らなければいけないと思います。
厳しい認識をぶつけ合いつつも、定期的に話し合うことが大事
飯田)その意味で言えば、仲のいいところで話すだけでなく、仲が悪いからこそ話さないといけない。
東野)そういう部分が抜けていたというのは、日本に限らず、ヨーロッパ諸国でもそうなのです。関係がうまくいかないからということで、ヨーロッパも中国との首脳会議を何度も延期して中途半端な形で行ったり、切り上げたりしたことがありました。
飯田)ヨーロッパも。
東野)でも、現状を武力で変更しようとするような野望を持つ国々に対する扱い方としては、それが果たして適切なのかという疑問が湧いてくるわけです。厳しい認識をぶつけ合いつつも、定期的に会うことがとても大事だと思います。
2021年にはヨーロッパの対中認識が悪化 ~戦狼外交に対し
飯田)対中国に関して、日本は今年(2022年)、国交正常化から50年ということもありますが、世界各国の中国を見る目を考えると、年々厳しくなっている感じですか?
東野)ヨーロッパの文脈で話しますと、2019年~2020年というのは、中国に対する認識が悪化していき、2021年には最悪の状態になっていました。
飯田)2021年に最悪の状態に。
東野)新型コロナをめぐる情報の隠蔽や、中国が積極的に偽情報をまき散らしてしまう。あるいはヨーロッパ各地の大使館が攻撃的なことをツイッターやインターネットに書くという、いわゆる戦狼外交があり、ヨーロッパの対中認識も悪化していました。
ウクライナ戦争から再び「中国への対策が必要」だとNATO諸国が脅威認識を持つ
東野)ウクライナ戦争が始まり、「やはりロシアが怖い」ということで、中国に関する脅威認識が一時的に飛んだ時期もありました。ところが中国の動きをしっかり監視しないと、思わぬ形で中国がロシアを支援してしまい、その結果、戦争の行方も左右されかねないという意識になった。
飯田)中国がロシアを支援して。
東野)NATO首脳会議があり、NATOの戦略概念が改定されました。そこでは「中国はとても重大な挑戦なのだ」と書いてあります。挑戦という言い方は、脅威よりは一段下とは言え、具体的に「中国はこういうことをしかねないから、対策が必要なのだ」と細かく書いてあります。NATO諸国が中国についても脅威認識を持ち始めたことが明らかになってきたのです。
ヨーロッパにとっての中国の存在 ~具体的な対策を取っていく
飯田)NATOは発足の経緯からしても、戦略の正面は基本的にはヨーロッパだけれども、「東アジアやインド太平洋地域についてもきちんとコミットしていく」ということが、明確な姿勢として表れてきているのですか?
東野)そうですね。その念頭には中国があったわけです。もしかしたらロシア・ウクライナ戦争がなければ、中国がもっと全面に出ていた可能性が高いけれど、ここでロシア側に引き戻された感じはします。しかし、中国の存在感が薄くなったかと言えば、そうではなく、しっかり見ていくべき存在ではある。そのためには具体的な対策を取っていくという方向性は変わらないのだと思います。
空中分解する可能性の高い欧州と中国の対話枠組み「17+1」
飯田)2019年から特に厳しくなってきたという話が先ほどありましたが、ドイツやフランスなどがインド太平洋戦略を出してきた。当時はコロナ禍前の話でしたが、EU各国と中国との話し合いの枠組み、経済協力の枠組みのなかから、最初にリトアニアが抜けるという話になった。その際、「これは重要な変化である」と東野さんはツイッター等で指摘されていました。その流れは変わらずにありますか?
東野)去年、リトアニアが17+1(セブンティーンプラスワン)というヨーロッパと中国との対話枠組み、経済協力枠組みから抜けるという事態がありました。この17+1は、中国が巧妙につくり出した枠組みなのです。
飯田)中国が。
東野)つまりEU加盟国の一部とEU非加盟国で、まだ入ることができない国々を合わせ、できるだけEUの影響力が及ばないよう巧みにつくられたものです。ところがそこに入っている、主に中・東欧諸国が中国との実質的な協力を期待していたのだけれど、なかなか約束していた投資をしてくれないだとか、投資したとしてもすごく遅れるなどということがあった。その上、リトアニアのような国は、中国との間に対等な関係を築きたかったと思うのですが、小国のような扱いを受けてしまって、思ったような関係を築けませんでした。
飯田)リトアニアなどは。
東野)そのため昨年リトアニアが抜けて、今年になってラトビアやエストニアも追随したということです。
飯田)ラトビアやエストニアも。
東野)別に正式な条約に基づく関係ではないので、「行きません、出ません」となったらそれで終わりなのです。17から3ヵ国が抜けて、どんどん櫛の歯が抜けたような状態です。そしていま取り沙汰されているのが、チェコが確実に抜けるだろうということです。時期はわかりませんが、チェコの外務省は「いつ抜けるのか」というタイミングを見計らっているとも言われています。
飯田)チェコも。
東野)そうなってくると、残るはハンガリーやセルビアなど、親中的なヨーロッパの国が残っていく可能性がありますし、ボスニアなど中国に頼らざるを得ないような、ヨーロッパのバルカンの小国が残されていく可能性がある。
飯田)なるほど。
東野)中国はそれを喜ぶのかというと、恐らく恥をかかされたと思うでしょうし、枠組み自体が空中分解していく可能性が高いですね。
ヨーロッパから離れていくハンガリーやセルビアのバックには中露がいる
飯田)積極的に残る方にいく国として、ハンガリーやセルビアの名前が出ましたけれど、ロシアとも非常に近い国々ですね。
東野)EUとの枠組みでは、ハンガリーは特に法の支配に反している部分があります。「オルバン政権に大きな問題がある」ということで、EUからも問題視されています。オルバン政権は、何も自分たちの居場所はEUだけではなく、「ロシアとも関係がある、中国とも関係がある」ということを、むしろ盾のように使ってきたわけです。
飯田)ハンガリーは。
東野)セルビアに関しても、EUとの加盟交渉をしているはずで、EUとの関係を最重視しているのかと思いきや、やはりロシアや中国に全振りしている感じもある。EUに積極的に加盟したいのかどうかが見えなくなってきました。
飯田)セルビアに関しても。
東野)EUがウクライナの戦争をめぐって団結しているところはありますが、EUのなかのハンガリーや、本来はEUに入りたかったセルビアのような国が離れていく。「そのバックには中露がいる」という複雑な関係があります。
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