現行の消費者契約法では旧統一教会の問題は解決できない
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中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也が8月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。消費者庁の霊感商法対策会議について解説した。
消費者庁の霊感商法対策会議がスタート
消費者庁は8月29日、霊感商法に関する対策検討会の初会合をオンラインで開催し、河野消費者担当大臣も出席した。
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飯田)霊感商法に対しては安倍元総理大臣の銃撃暗殺事件をきっかけに、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐって改めて関心が高まっています。この問題についてメールもいただいています。世田谷在住の41歳女性、“マミ”さんから。「宗教2世というような言葉もよく耳にするようになりました。献金の問題もあります。献金を規制するのは難しいと思いますが、政治の力で献金の限度額を設定するなどして欲しいです。霊感商法について、コメンテーターの方々の意見が興味深いです」ということです。政治に対するアプローチの話と、霊感商法の問題についてですが。
先に献金させているので、現行の法律の適用外となる ~よし悪しも含めて議論しなければ整理がつかない
野村)2018年に消費者契約法が改正され、初めて霊感商法が取り消せるという条文をつくりました。その延長線上で今回の会議が設定されているのですが、これだと、現在問題となっているものはほとんど解決できないですよね。
飯田)解決できない。
野村)霊感商法は、基本的に物品の販売に関する法律なので、「ありもしないようなことで脅かして買わせる」という契約を取り消せるだけのものです。いま最も問題なのは、罪から逃れるために「先に献金させている」ということです。
飯田)先に献金をさせていること。
野村)献金した人に対してプレゼントをする。献金は献金で切り離されているので、これは物品の販売ではなく、法律の適用外になってしまっています。「このような問題に少し拡大して法律を適用できないか」ということが議論のスタートではあるのですが、それだけだと非常に狭い消費者庁の話になってしまうのです。
飯田)狭い消費者庁の話に。
野村)「何でもかんでもすべて徹底的に規制しろ」というような状況になってきているなかで、よし悪しも含めてしっかりと議論しないと整理がつきません。
「反セクト法をつくれ」ということは「自分たちの政治信条がはっきりしていない」ということを明らかにすることになる
飯田)世の中全体が、旧統一教会に少しでもタッチしていたらよろしくないというような、踏み絵を踏ませるような形になっていますよね。
野村)そこが恐ろしい面でもあるのです。宗教団体だけではなく、「セクト」と呼ばれているような特定の性質を持った集団について、「解散させろ」という議論があります。
飯田)あるセクトに対して。
野村)この種の議論は通常であれば、リベラルな人たちは絶対に反対するはずなのです。プラカードを掲げて「絶対にするな」と。ときの権力者がそのような曖昧な定義で、「お前はセクトだろう」と言って禁止するようなことを許すな、権力にそのようなことをやらせるなというのが普通なのに、いまや真逆になっています。いろいろとヒアリングを行い、「反セクト法をつくれ」というようなことをやっていますが、本質として「自分たちの政治信条がはっきりしていない」ということが、逆に明らかになってしまっているのです。
現行の宗教法人法の「解散命令」により、犯罪を繰り返すようなものには裁判所が関与して解散を命ずることができる
飯田)反セクト法の立法などについては、フランスは確かにやっていますが、日本国憲法下では可能なのでしょうか?
野村)フランスは歴史的にナチスの話などがあり、背景事情の関係で極端なものを規制しようとしたのですが、適用例がないのです。
飯田)法律はあるのだけれど、適用例はないのですね。
野村)基本的に運用できません。自由の国であるフランスが、ときの権力者の曖昧な要件で一部の団体を規制するようなことを許すはずがないのです。
飯田)条件としては一応挙げられていますね。精神的不安定化や法外な金銭要求、もとの生活からの意図的な引き離し、身体に対する危害、子どもの強制的な入信などが書いてあります。
野村)これは象徴的なもので、そのような活動はやめろと言っているのです。
飯田)法律をつくることによって、予防としているのですね。
野村)実は日本でも、宗教法人法のなかに「解散命令」というものがあります。犯罪を繰り返すような団体については、裁判所が関与して解散を命ずることができるのです。いまつくらなくても、裁判所が正しく認定した上でやるという手続きになると、ときの権力の抑制にはなります。現行の宗教法人法の運用で足りる部分があるのです。
飯田)現行の宗教法人法でも。
野村)考えるとすれば、税制優遇措置の剥奪を行うかどうかという話です。もう少し冷静に議論しなければいけないと思うのですが、現在は「何でもかんでも潰してしまえ」というような極端な議論になってしまっています。
飯田)政争の具として使われているところがある。
霊感商法の定義を踏まえた上で「何を規制しなければならないのか」という議論をするべき ~「救われたい」と信じて出したお金について「献金はすべて悪」とするのはおかしい
飯田)献金の問題は、個人の財産権の話とも絡んできます。喜んでお布施を出すような人を止められるかというと、難しいですよね。
野村)難しいです。「救われたい」と信じて自分が出したお金については、宗教上の内心の自由から言っても、認めなければいけない部分があります。「献金はすべて悪だ」としてしまうのはおかしいです。
飯田)そうですよね。
野村)「何をどのように規制するのか」という議論を、もっと詰めていかなければいけない。いまのように感情的な議論の機運に乗って話し合うのはよくありません。霊感商法の定義もしっかりと踏まえた上で、「何を規制しなければいけないのか」という議論をすべきだと思います。
政教分離は信教の自由を守るための制度 ~宗教団体が政治家にアプローチすることを禁止する国などどこにもない
飯田)政治の場で「(旧統一教会に)少しでもタッチした人が」という話になっていますが、そこを完全に規制できるのかという問題もあります。
野村)まずは、「信教の自由」が最も大事です。政教分離についてもいろいろと議論されていますが、政教分離とは信教の自由を守るための制度です。「特定の宗教団体を権力が保護してしまうと、他の宗教を信じている人たちがそれを信じられなくなってしまう」ということで、国家神道のようなものを禁止するという話なのです。
飯田)政教分離というのは。
野村)宗教を信ずることを規制しようという話ではなく、「政治と関わってはいけない」という話でもありません。宗教団体が政治家にアプローチすることを禁止する国など、どこにもないのです。そこはしっかりと切りわけていかなければならない。
飯田)政治と関わってはいけないということではない。
野村)では、何が問題なのか。団体が特別に犯罪行為を行っていたのだとすれば、政治側のモラルの問題として、一線を画すような形で整理しなければいけません。
飯田)犯罪行為を行っているのならば。
野村)さらには、そのような状況に陥らないよう、政党のガバナンスを整える必要もあります。政党が問題のある団体とは付き合わないようにしてくださいという警告を発していれば、確認できる部分があるので、ガバナンスの問題はあると思います。
旧統一教会による政治への影響力
飯田)政策の部分で、例えば家族構成や夫婦別姓の話などが、旧統一教会の教義によって政策が変わることがあったように報道されています。そのような影響力について、実際はどうなのでしょうか?
野村)政策に対して影響があったのかどうかということも、まるで後付けのようになっているところもあります。もともと保守的な傾向を持っている人たちの共通理念があります。旧統一教会の保守や反共という旗が、本当の旗なのかどうか、実は紛らわしいところもあります。「それも方便なのではないか」という疑惑もあるので、「本当に影響力があるのか?」という気もします。
飯田)北朝鮮とも近かったというような話もありますよね。
野村)結局、「利用して利用されていた」という関係なので、その程度の話なのではないかなという気もします。
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