ゼレンスキー大統領が「クリミア奪還するまで戦う」と表明した「もう1つの理由」

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慶應義塾大学教授の廣瀬陽子氏が8月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアによる侵略から半年が経過したウクライナ情勢について語った。

ゼレンスキー大統領が「クリミア奪還するまで戦う」と表明した「もう1つの理由」

2022年4月4日、ウクライナの首都キーウ近郊ブチャで、報道陣に話をするゼレンスキー大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

ロシアとウクライナの戦況と今後

ロシアがウクライナへの侵略を開始してから、8月24日で半年が経った。8月に入り、ロシアの実効支配が続くクリミア半島での攻防が激化するなど、新たな局面に突入している。

「クリミア奪還まで行わなければこの戦争は終わらない」と変化してきたウクライナ

飯田)ロシアによるウクライナへの直接的な侵略が2月24日に開始され、半年が経過しました。ウクライナのゼレンスキー大統領は、「クリミアも含めて獲り返すまで戦う」と表明しています。当初とニュアンスが少し変わってきているようにも見えるのですが、どうお考えですか?

廣瀬)最初のころは、「2月24日のラインまで戻せばいい」という形で戦闘が始まりましたが、ロシアが残虐行為を繰り返している。さらに、想定していた以上に欧米からの兵器供与が積極的に行われて、「もっとやらなければ示しがつかない」とウクライナは思っているのではないでしょうか。

飯田)欧米に対して。

廣瀬)もともとこの問題は、2014年のロシアによるクリミア併合から始まっているものです。そこまで戻って、「クリミア奪還まで行わなければこの戦争は終わらない」という立場に変わってきていると思います。

さらにハイレベルな兵器を欧米に供与させるためにウクライナが「クリミアまで」とした可能性も

飯田)クリミアまでということになると、ウクライナとしても、さまざまな犠牲を払わなければならないことが予想されます。そこは覚悟しているのでしょうか?

廣瀬)覚悟はしていると思いますが、クリミアを奪還するためには、これまで以上にレベルの高い武器の供与が必要になってきます。ハイレベルな兵器を供与する決意が、むしろ欧米側はまだできていないような気がします。

飯田)ウクライナがそれを促すために高い球を投げたという感じですか?

廣瀬)その可能性が高いと思います。多少、欧米も雰囲気が変わってきています。最初のころはクリミアにはまったく手をつけずに、「ウクライナ東部のみで決着をつける」というようなムードがありました。しかし最近、若干、クリミアの話にも理解を示しているように見えます。

「ウクライナ領内での戦闘を続けろ」という姿勢で兵器の供与をしてきた欧米 ~どちらの領土かの認識が難しいクリミア

飯田)ウクライナとしては、公式には認めていませんが、ロシア軍の弾薬庫などで爆発が起こったり、さまざまな工作をしていると言われています。暗に西側も、それを容認しているところがあるのでしょうか?

廣瀬)容認している部分はあると思います。クリミアでの戦闘は、非常に難しいところでして、欧米は本来ウクライナに対して「ロシアでは戦闘をするな」と言ってきました。「ウクライナ領内で戦闘を続けろ」という姿勢で兵器の供与をしてきたわけです。

飯田)ウクライナ領内で。

廣瀬)そのために、長距離兵器は供与しないというスタンスだったのですが、クリミアというのは、ロシア側からすればロシア領ですけれども、ウクライナ側からすればウクライナ領なのです。そこは微妙なラインとして、欧米も黙認せざるを得ないところだと思います。

ウクライナに対するドイツ、フランスの姿勢

外交評論家・宮家邦彦)現在、大規模に支援しているのはアメリカです。額が一桁も二桁も違うわけです。鍵はドイツとフランスの2ヵ国がどう動くかだと思うのですけれども、ロシアに対するドイツとフランスの見方は変わっていますか? 変わっていませんか?

廣瀬)ドイツは、かなり変わっていると思います。ただ、ドイツもこれから冬になってエネルギー問題がさらに深刻になると、国民世論によって、「もっと緩やかにならざるを得なくなる」という可能性もあります。ドイツは今後、要注意で見ていかないといけません。フランスの状況は比較的変わっていないと思いますが、フランスも明確にウクライナを支援するまでの決意はできていないと思います。

一枚岩ではないEU ~今後、エネルギーを使ってさらにロシアが揺さぶりをかけてくる

飯田)独、仏ということは、むしろEUの意思決定に大きく影響しますよね。

宮家)EUは一枚岩ではないでしょうね。海洋国家であるイギリス、それから大陸のフランス、ドイツ。そして中間にあるポーランド、チェコ、スロバキア等々があるので、みんな思惑が違うのではないでしょうか。

廣瀬)違うと思います。特にハンガリーなど、ロシアに配慮するような国もあります。国によって色合いが変わると思います。また、イギリスのジョンソン首相はこれまで熱心にウクライナを支援してきましたが、首相が交代したらイギリスもどうなるのかわかりません。

飯田)首相が交代することで。

廣瀬)なかなかヨーロッパの出方が見えてこない。そのなかで、エネルギーを握っているロシアが今後、さらにエネルギーを使って揺さぶりをかけてくるという状況があるのだと思います。

ゼレンスキー大統領が「クリミア奪還するまで戦う」と表明した「もう1つの理由」

ロシアのプーチン大統領は、ヤロスラヴリ州知事とのビデオ会議を開催 2022年8月3日 Mikhail Klimentyev/Kremlin Pool/Planet Pix via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

「ウクライナ人がドゥーギン氏の娘を暗殺した犯人である」というストーリーをつくって、国民の反ウクライナ意識を高める状況に持っていこうとしているロシア

飯田)一方で、ロシア国内の話なのですが、プーチンさんは軍の人員を増強する大統領令に署名しています。また、プーチンさんに近いとされる思想家のドゥーギン氏の娘が、自動車の爆発で死亡したという報道もあり、不穏な空気が流れています。その辺りはいかがですか?

廣瀬)不穏な空気があると思います。この状況は決してロシアにとっては望ましくありません。テロのようなことが国内で起きているのは、「国内を統制できていない」と言っているようなものですから、避けたい状況だったと思います。

飯田)ロシアとしては。

廣瀬)いまの政権にとってはマイナスなのですが、マイナスの状況をいかにプラスに持っていくかというところだと思います。そこで、おそらく犯人……ウクライナ人ではないのですが、「ウクライナ人がドゥーギン氏の娘を暗殺した犯人である」というストーリーをつくって、国民の反ウクライナ意識を高める状況に持っていこうとしているように見えます。

長期戦になればなるほどロシアに有利 ~長引けば制裁の返り血を浴びている国が疲弊していく

飯田)ウクライナは長期戦も覚悟の上だという話がありましたが、ロシアは長期戦を覚悟しているのですか?

廣瀬)ロシアにとっては、長期戦になればなるほど有利だと思います。ウクライナを支援することによって、制裁の返り血を浴びている国がどんどん疲弊してきています。それをロシアは狙っているのだと思いますね。

核兵器使用の可能性は低い

飯田)膠着状態になってくると、いよいよ核兵器に手をかけるのではないかと危惧されますが、いかがでしょうか?

廣瀬)可能性はいまのところ低いのではないかと思います。核兵器に手がかかってしまうと、間違いなく第三次世界大戦になってしまう。欧米が入ってきた場合、ロシアは太刀打ちできません。核の脅威をチラつかせながら揺さぶりをかけていくのが当面の方針ではないかと思います。

支持率も未だ高く盤石なプーチン体制

宮家)長期戦を念頭において、ロシアは体制固めをしていると思うのですが、1つはプーチンさんの政治的な地位がどれくらい揺らいでいるのか。2つ目に、まだ国家総動員体制のような状況ではありませんが、それには理由があるのでしょうか?

廣瀬)プーチン体制の支持は未だに盤石で、少なくとも半数以上の人はプーチン大統領を支持しています。支持率で言えば、7割ぐらいあるという状況です。ただ若干、戦争に関する支持が下がり気味ではあるのですが、半数は支持しているという状況です。

飯田)半数は支持している。

廣瀬)ロシア国民もこのような厳しい状況で、「欧米によってロシアが虐げられているからだ」と、むしろ反欧米意識を高めてしまっている部分もあります。非常に嫌な感じですが、プーチン支持率は高いと思います。

制裁の影響が出始めているロシア国内 ~どれだけ持ち堪えられるか

廣瀬)しかし、ロシアの状況は刻々と悪化しています。国民にも制裁の影響が出始めていて、「どれだけ持ち堪えられるか」ということがロシアにとって重要になります。

飯田)どれだけ耐えられるか。

廣瀬)ロシア経済はかなりいいのですが、輸入できないということで、水産などが厳しい状況におかれています。マクロではいい収入があるように見えますが、経済的に余裕がある状況ではありません。

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