安倍元総理襲撃事件で浮き彫りになった日本の警察に根差す問題
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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が8月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。警察庁がまとめた安倍元総理銃撃事件の検証結果と、それを受けた中村警察庁長官の辞職について解説した。
警察庁が安倍元総理の銃撃事件を検証、中村長官が辞職へ
安倍元総理大臣が参議院選挙の演説中に銃撃され、暗殺された事件で警察庁は8月25日、奈良県警の不十分な警護計画や現場の警護員間の意思疎通の不徹底など、複合的要因が重なったとする事件の検証結果をまとめた。これを受け、警察庁の中村格長官は「人心を一新する必要がある」として辞職の意向を示した。また、奈良県警の鬼塚友章本部長も辞職を表明している。
飯田)報告書と辞意表明が出たのが昨日(25日)でした。事件が起きてから1ヵ月半あまりが経ちます。
その人の価値を決める「出処進退」 ~30年間変えられなかった警護の仕方
宮家)いろいろな批判があることは当然ですが、ここでは元公務員の独り言を言わせていただきたいと思います。
飯田)元公務員であった宮家さんの。
宮家)私は役人生活を始めたときから思っていたことがあります。それは出処進退です。政治家も経済人もみんな同じだと思いますが、出処進退とは、すなわち「どう辞めるのか」ということです。その人の価値を決めるという意味で、これが最も大事なことだと思います。
飯田)出処進退が。
宮家)役人の場合は、自分で出世することができないから、自分が決められるのは辞めることだけなのです。ある意味で官僚の美学だと私は思います。
飯田)官僚の美学。
宮家)警察だけではなく、官僚組織はみんなそうですが、基本的に組織という形です。外務省は必ずしもそうではありませんが・・・。
飯田)個人プレーよりは組織。
宮家)よくも悪くも組織なのです。今回の事件はもちろん不祥事です。不祥事ですが、この報告書を読む限り、単なる個人的な問題かと言えばそうではない。30年間、警護の仕方等々について変えてこなかったわけですからね。
日本の警察は「中央集権なのか分権なのか」という問題がある ~要人警護は中央集権
宮家)それには理由があるのです。組織だから変えにくいこともあるかも知れませんが、もともと日本の警察には「中央集権なのか分権なのか」という問題がありました。
飯田)中央集権なのか分権なのか。
宮家)アメリカには連邦警察(FBI)がありますが、各州にも警察があります。でも、州はFBIの地方警察本部ではないのです。州は独立の警察を持っているのです。では、州だけかと言ったら、そうではない。例えばアメリカの大学にも警察があるのです。
飯田)州の警察とは独立した形であるのですか?
宮家)形としてはね。その大学内の管轄部分は大学の警察が担当するわけです。それ以上の犯罪になれば、州ごとの州法で対応する場合もあるし、さらに連邦法があります。「中央集権か分権か」という議論があった末に今のアメリカの形があるのです。
飯田)アメリカの形が。
宮家)日本は戦後、集権から分権にしたわけですよね。今回は奈良県警が責任を負う。では、分権と中央集権の部分でどこが問題なのか。その分かれ目は警護の部分ですよね。要人警護は基本的に中央集権ではないですか。
飯田)要人は都道府県を飛び越えて、今回のように移動しますからね。
シークレットサービスという大きな組織があるアメリカでは今回のような事件は起きない
宮家)アメリカであればシークレットサービスですけれども、日本ではSPがつきます。1人ですけれど。
飯田)今回は。
宮家)アメリカであれば、今回のようなことが起きる可能性は非常に少ないと思います。なぜなら、「シークレットサービス」という大きな組織があるからです。それによって、手厚く警護したと思います。
警護のやり方を30年間変えなかった ~変えるためには大きな改革が必要
宮家)今回は組織的に若干、不備があった。警護のやり方を30年間見直さなかった。私がもし長官であれば、「ついに辞めるときがきたな」と瞬間的に思うでしょう。
飯田)この事件が起きたときに。
宮家)ただ、組織人であれば「なぜこの事件が起きたのか」がわかるはずです。自分が行う仕事、自分の責任は何か。責任を取るためには、責任を果たしてから辞めたいと思いますよね。
飯田)責任を果たしてから辞める。
宮家)そして30年間変わらなかったシステムを、中央集権に戻すまではいかなくとも、中央集権と分権の間にある警護の部分をもう少し集権化することで、より効果的なものにする。そのためには組織改革をしなければならない。予算も変わってくるし、人も必要になります。相当大きな改革になると思います。
出処進退をしっかりと見極めて、潔く辞めていく中村格警察庁長官は潔かった
宮家)自分が辞めると言い、だから「こういう計画でいくのだ」と考える。そして報告書をつくって辞める……潔いと思います。
飯田)潔い。
宮家)最近、元次官で変な辞め方をする人がたくさんいるではないですか。
飯田)変な辞め方をする人が。
宮家)公務員の組織人は、間違っているかも知れないけれども、組織の一員として組織を守り、組織をよくするために、過ちが起きたときには辞め際、出処進退をしっかりと見極めて潔く辞めていくというのが、本来あるべき姿だと私は思います。そういう意味では、中村格警察庁長官は潔かったと思います。
辞意表明のタイミング
飯田)辞め方について、報告書が出るのは8月末になるだろうと言われていましたが、辞意を表明したのもこのタイミングでした。「もっと早く表明するべきだったのではないか」と言う人もいますが、それでは報告書ができないということですか?
宮家)私だったら歯を食いしばってでも頑張りますね。国葬があるわけですから、その準備もある。そうすると、タイミングとしては限られています。8月末というのは決して遅くはないと思います。
飯田)なるほど。先に「辞める」と言ったら、その人の言うことを誰も聞かないことになってしまう。
宮家)そこが難しいところです。だから歯を食いしばってやらないといけないときもあります。嫌われてしまうけれどね。
30年ぶりに「警護要則」の抜本的見直し
飯田)戦前は内務省という強力な官庁があって、集権という形で警察もあり、各都道府県に分権という形で分けた。しかし、要人警護はエアポケットのようになってしまいました。戦後のレジームのようなものも変えなくてはならない。
宮家)大きな組織であればあるほど、変えるのは難しいです。前例があり、伝統があり、それがまたプライドになっていくわけですから、伝統を変えることを躊躇するのは当然だと思います。
飯田)大きな組織であるほど。
宮家)ただ、変えなくてはいけないときもあるわけです。今回やらなかったら、「いつやるのだ」ということですよ。新型コロナも同じです。あのシステムを変えなくてはならない。腹の据わった役人がいるかどうかということだと思います。
飯田)見直し報告書という形で大きく出ていますし、長官の出処進退の部分も大きく取り上げられていますけれど、肝は「警護要則の抜本的見直し」というところですね。
宮家)私はそう思います。これによって人の流れ、警護の動き方について、「警察庁がどれだけ関与できるのか」ということが明確になるわけです。それはいい傾向です。
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