ジャーナリストの鈴木哲夫と、産経新聞社・月刊「正論」編集長の田北真樹子が9月15日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田官邸のあり方について解説した。
岸田総理、総合経済対策の策定を指示へ
岸田総理大臣は9月14日に行われた経済財政諮問会議のなかで、今後の経済運営について、「物価上昇に負けない持続的な賃上げが重要だ」と指摘した。また、「新しい資本主義」の実行に向けた具体的な総合経済対策を10月中に取りまとめる考えを示した。
飯田)「輸入価格上昇により、海外への所得流出が続く状況を抑制していく必要がある」とも指摘しています。10月に予定されている臨時国会へ向けてなのでしょうけれども、中身はどんなものになるのですかね。
「新しい資本主義」が何なのか未だにわからない ~抽象的な言葉が多すぎる岸田総理
田北)そもそも論のところで、「新しい資本主義」が何なのか未だにわからないのです。
飯田)この単語は総裁選のなかでも出てきていて、あれから1年経ちます。
田北)1年経っても、なかなか我々に見えてこないですし、「総合経済対策」など抽象的な言葉が多いです。もっと具体的に、前向きにさせてくれるようなものをみんな求めていると思うのですが、何か漠然としていて捉えようがないのですよね。
飯田)「個別的なところで金融の所得を増やす」、「資産所得倍増」などとありますが、では何をやるのかというところが見えてこない。
財務省に操られている印象が払拭できない岸田総理
田北)相変わらず岸田さんは、財務省に操られているという印象が払拭できないままでいるではないですか。岸田さん周辺の方によると、「必ずしも財務省にべったりではない」と言うのですが、なかなかそうは思えないところがある。岸田さんもその辺りを意識して、いろいろなものを発信されるべきだと思います。
飯田)鈴木さんはいかがですか?
鈴木)私も同感です。そもそも「経済対策」と言いますが、遅いですよ。経済が大変なことになってきたというのは、去年(2021年)の秋からスタートしているのです。
飯田)政権発足のときから。
鈴木)原油が大変なことになったでしょう。岸田さんは外務大臣をやっていたのに、「中東に電話1本で話せる首脳はいないのか」という話もしていました。年が明けてからは、ロシアによるウクライナ侵攻です。確かに、原油と小麦に集中してお金を出すということはあるけれど、極めてスタンダードなやり方でしかありません。
経済対策に着手してこなかったツケがきている
鈴木)春くらいから、「年内に1万品目くらいが値上がりする」と言われていました。この辺りから手を打たなければいけなかったのだけれど、選挙があったので手をつけずにきてしまった。そのツケがいまごろになって回ってきた。いまさらやることなのでしょうか。5万円給付にしても、非課税という線引きでいいのかと思います。
飯田)低所得世帯に給付するという。
鈴木)以前、安倍政権のときはそうだったけれど、子育て世代という新たな線引きをしました。非課税世帯というのは、いまある1つの仕組みのなかで、「ここに線を引けばいいだろう」というような感じです。
非課税世帯に5万円給付も、7~8割は高齢者で現状に合った線引きができていない
鈴木)しかし実態は7~8割が高齢者で、苦しんでいる若者たちには5万円は届かないのです。クリエイティブな経済対策、現状にあった線引きができていない。となると、先ほど田北さんが指摘されたように、「絵を描いたのは誰ですか」という影が見えてくるのですよ。
飯田)あまりお金を出したくないけれど、出さないわけにもいかないというような。
鈴木)「ここで引けば簡単ですよ」という感じがします。
政策決定のプロセスが見えない岸田官邸 ~官邸は所帯が大きく指揮が難しい
飯田)当然、総理にもいろいろな考えがあるとは思いますが、誰が立案して決めているのか、全体の意思決定が見えてこないような気がするのですが。
田北)岸田官邸の特徴ですよね。顔が見えないのです。いろいろな悪い話があると「木原副長官だろう」とか、「栗生副長官だろう」などと名前は出るのですが、実態がよくわからない。おっしゃる通り、政策決定のプロセスがわかりません。岸田さんが所属する宏池会が首相官邸入りするのは、30年ぶりくらいです。森政権以来、ずっと清和会が首相官邸をコントロールしていました。
鈴木)宮澤さん以来ですか?
飯田)宮澤喜一さん以来になるのですね。
田北)私も官邸を担当したことがありますが、官邸は各省庁とは違います。言葉が適切かどうかわかりませんが、魔物が住むところがあるし、大臣が各省庁を差配できるのとは違い、官邸は所帯が大きいだけに指揮するのが難しい。安倍元総理は、実を言うとほとんど官邸しか知らない珍しい政治家です。安倍さんは各省庁の大臣を担当したことがありません。
飯田)官房長官、副長官、そして総理大臣。
田北)安倍さんはそういう意味では、官邸の仕組みを熟知されていた方です。
飯田)各省庁の上にいるのと、官邸からの景色は全然違いますね。
田北)まったく違うと思います。
飯田)動かし方も違う。
外務省でずっと外を見てきた岸田総理 ~各省庁と官邸では仕組みがまったく違う
飯田)岸田さんは外務大臣としては歴代最長でしたが、感覚のスイッチを入れ替えなければいけないわけですか?
田北)外務省は外務省で内政を担当していないから、まったく目線が違うわけです。外務省は常に外を見ているではないですか。他の省庁はだいたい国内を見ているなかで、外をずっと見てきた人が総理大臣になって、「できるでしょう」というわけにはなかなかいかないですよね。
官邸のなかで岸田総理を支える存在がいない
鈴木)もう1つのポイントは、官邸のなかで危機管理も含め、岸田さんを支える存在がいないのではないでしょうか。安倍政権のときには、菅さんが官房長官として官邸からグリップしていた。しかし、菅政権のときにはその存在がいなかったから、菅さんは自分でやっていた。だからいろいろな問題もありました。
安倍官邸で存在の大きかった杉田元官房副長官 ~各省庁の事務次官の上に君臨し、動かない省庁を事務方から動かせた
飯田)いまの官房長官は松野さんですが、官邸からのグリップの仕方はいかがですか?
田北)コメントしづらい部分がありますが、もう少し重みを増した方がいいのではないかという感じがします。
飯田)官邸から各省庁を含めて日本政府全体を動かすというところで、「官邸が頭脳であり、各省庁が筋肉や内臓である」ということを、かつて官邸に長くいた金原信克さんに聞いたことがあります。そこを動かすとなったときに、安倍政権では事務の官房副長官が警察出身でグリップしていたという話を聞くのですが、その辺りも難しいのですか?
田北)パーソナリティの部分が大きいと思います。安倍官邸のときは、安倍さんが総理で菅さんが官房長官でした。安倍さんは大きな決定や方向性は出しますが、どちらかというと調整型です。菅さんは物事を動かすブルドーザー的な存在だったわけです。
飯田)なるほど。
田北)菅さんと一緒に、事務の副長官だった杉田さんがいました。杉田さんは警察庁出身ですし、年齢もかなり上だったので、各省庁の事務次官に指示できる方だったのです。
安倍元総理は調整型で菅氏は命令して動かす存在だった ~菅氏に絞られた人に安倍元総理が慰めの言葉をかける
田北)動かない省庁を事務方から動かせるタイプでした。菅さんと杉田さんの上に安倍さんがいて、菅さんにきつくやられた人に安倍さんが会って、ねぎらいの言葉をかけたりしていた。
飯田)椅子を蹴飛ばしたあとに「カツ丼食うか」というような話なのですね。
田北)ですので、会った人は「安倍さんはいい人ですね」とみんな感激するのです。
安倍政権は人事を含めて官邸を掌握していたから長期政権となった
飯田)その菅さんが今度は総理になると、なかなか難しかったわけですか。
鈴木)「菅政権には菅官房長官がいない」と。
飯田)そういうことを言われていましたね。
鈴木)となると、菅さんが自分で出て行ってガンガンやるわけです。総理自身がやると、それはそれでよくありません。
飯田)内閣総理大臣の権限や最終的な決定権者というような、意向の強さが出てしまう。
鈴木)総理がそれをやると独裁になってしまうでしょう。
飯田)官僚からすれば、そう見えてしまうかも知れません。
鈴木)安倍長期政権は、人事を含めて掌握したということが基礎にあったから、政策よりもそちらで安定していた。菅さんは官房長官になったときに「何をやりたいですか?」と聞かれて、「内閣人事局をやりたい」と言っていました。政策ではないのです。まずは内閣人事局、つまり官僚を人事で縛る権限をつくる。いまは仕組みができていますが、これをまずやりたいと言ったのです。
岸田総理と松野官房長官の役割分担が見えない
飯田)仕組みをつくって、官邸主導を確立した部分があったわけではないですか。その仕組みに乗って行うということは、いまの岸田政権では難しいのですか?
田北)岸田総理が「どうやって仕組みをうまく回せるか」ということを、よくわかっていないのかも知れません。先ほどの話ですが、岸田総理と松野官房長官の役割分担が、私たちからは見えないのです。
飯田)それぞれの役割分担が。
田北)2人とも優しい雰囲気ですが、「誰が何をやっているのか」ということが官房副長官も含めて、この官邸では見えません。
スクープ記事が出ても、そのネタがどこから出たのかということもわからない
田北)役割分担をざっと言えば、総理は大所から交渉。官房長官は各省庁。官房副長官、特に政治家の方は国会対応と見ているのですが、そこが明確になっているのかもよくわからない。また、いろいろなネタが新聞から飛び出しても、「どこから出た情報なのか」がよくわかりません。
鈴木)それはありますね。
田北)みんな結局、「出元は木原副長官だろう」と言ったりしますが、それも本当かわからない。
鈴木)わからないからそこにいってしまう。
田北)そうなのですよ。
菅氏が官房長官のときは党の担当大臣と打ち合わせしたあとに情報が出ていた ~情報統制も含めて青写真があった
飯田)リークで観測気球を上げて、「やるのかな」と思ったら、いつの間にかフェードアウトすることが多い。
鈴木)菅さんのときはリークが出ても、きちんと党の担当大臣と打ち合わせしていますからね。朝、閣議のあとに打ち合わせをして、そのあとに情報が出る。「なるほど」と思うのは、今回、誰が出しているのかさっぱりコントロールできていないのです。
田北)安倍政権も菅政権もそうでしたが、スクープが出ると「誰がリークしたのだ」と犯人探しもよくやっていましたね。
飯田)ある意味の情報統制も含めて、全体をどう回していくかという青写真があった。そういうものを描くのは、やはり総理に覚えがないとできないですか?
田北)総理だけではないと思いますが、そうですね。自民党のなかにも知恵袋のような方がいらっしゃればいいのですが。
鈴木)その存在がいなくなっているということも、いまの自民党の1つの問題です。
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