兵隊を置いて司令官クラスの士官たちが逃げてしまったロシア軍

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慶應義塾大学総合政策学部准教授の鶴岡路人が9月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ゼレンスキー大統領が「東部と南部で6000平方キロメートル以上を解放した」と発表したウクライナ情勢について解説した。

ウクライナ南東部マリウポリに展開するロシア兵たち(ウクライナ・マリウポリ)=2022年5月18日 AFP=時事 写真提供:時事通信

ゼレンスキー大統領「東部と南部6000平方キロ以上を解放」と発表

ロシアによる侵略が続くウクライナでは、東部でウクライナ軍の反転攻勢の動きが鮮明になっている。ウクライナ軍が東部で交戦を続けるなか、ゼレンスキー大統領は9月12日に「東部と南部で6000平方キロメートル以上を解放した」と述べ、反撃をさらに進める考えを示した。

飯田)特に東部ではハルキウ州イジュームを解放したということが、昨日(13日)辺りのニュースでも出ていましたが、もはやそこを越えてルハンシク州に入っているという話もあります。

兵隊を置いて司令官クラスの士官たちが逃げてしまったロシア軍 ~兵隊は制服を脱いで一目散にいなくなってしまった

鶴岡)進軍スピードが速すぎます。おそらくウクライナにとっても、ここまで早く行けるとは思っていなかったでしょうし、驚きの状況だと思います。注目すべきなのは、ロシア軍と正面から戦って勝った結果、進んでいるのではないということです。

飯田)戦いに勝って進んだわけではない。

鶴岡)ロシア側は「再配置だ」と強がっていますが、そもそも部隊としての退却すらできていません。戦車を含めた車両もすべて置いて、一目散に個人が逃げています。しかもヨーロッパなどの報道によると、まずは司令官クラスの士官たちが逃げてしまったようです。

飯田)そうなのですね。

鶴岡)下士官である兵隊たちを置いて逃げてしまったので、兵隊はどうしたらいいかわからない状況なのです。そうなると、部隊として整然と退却するのは無理です。ですから報道にもあるように、地元の人たちの車や自転車を盗んで逃げているとのことです。自転車でどこまで逃げられるのかは疑問ですが、制服も脱いで普通の洋服を奪い、それを着て逃げている人たちもいたそうです。個人が一目散に逃げていなくなってしまったから、ウクライナ軍は進めたということです。

手薄な場所がわかった上で進軍させたウクライナ軍の頭脳と分析の勝利

飯田)ウクライナ軍としても、「抵抗がないぞ? 進めるぞ?」という状況のまま、ここまできているのですね。

鶴岡)これほどのロシア軍の崩れ方は、ウクライナの想定以上だったと思いますけれど、徹底的に計画していたのは確かです。南部ヘルソンがおとりだったとは思いませんが、二正面ということだったのでしょう。

飯田)ハルキウとヘルソン・ザポリージャの。

鶴岡)東部ハルキウと、南部ヘルソンやザポリージャの両方で反転攻勢する。ただ、「南部をやるぞ」と言い続けた結果、ロシア軍の主力部隊が東部から南部に移動し、東部が手薄になっていました。そこをウクライナは虎視眈々と狙っていたのです。ロシア軍がどこにいるのか、おそらくアメリカも含めて衛星情報で徹底的に確認し、ロシア軍が手薄なことをわかった上で進軍させた。ですから、頭脳と分析と計画の勝利だと思います。

飯田)単なる偶然ではなく、状況をつくってきていた。二正面で戦うと負担がかなり大きくなるので、一正面で突破するのが常道だと言われますが、ウクライナ軍は予備が分厚くあったということですか?

鶴岡)部隊を温存してつくり、しかも少しずつ分けていた。数万人単位で移動するとロシア側に伝わってしまいますから、数千人ずつぐらいに分かれて準備していたようです。

ロシア人に対する心理的インパクトが強かったクリミアへの攻撃 ~国内から見ていればいいというものではない

飯田)8月末に南部で攻勢を強めたぐらいから、ゼレンスキー大統領がしきりに「これから勝負をかけるため、あまり情報を表に出してくれるなよ」と訴えていました。ここが肝だったのですね。

鶴岡)私は完璧に騙されました。ただ、重要なのは、南部もウクライナにとっては死活的に重要だということです。8月に南部への攻勢を強めた結果、ロシアが一方的に行おうとしていた住民投票が、事実上の延期になりました。

飯田)そうですね。

鶴岡)そういう成果はあったのだと思います。クリミアへの攻撃も8月に相当やりましたが、あれもロシア人に対する心理的インパクト、つまり、いままで安全だと思っていたところが安全ではないと思わせる。今回の戦争は「異国の地で行われていて、ロシア国内には影響がない」というのがロシア人の印象でした。それに対して「違いますよ」と。クリミアでもどこで爆発が起こるかわからないし、クリミア以外のところでも国境を越えてウクライナが攻撃していると思われる事案がいくつかあります。そういうものを含めて、「外から見ていればいいわけではないですよ」という強いメッセージがあるのだと思います。

(C) Sarsenov Daniiar/Ukraine Preside/Planet Pix via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ Ukrainian President Volodymyr Zelenskyy talks by phone with U.S. President Joe Biden, from his office at the Mariyinsky Palace, June 15, 2022 in Kyiv, Ukraine.

プーチン政権がどこまでロシア国民に動員をかける気があるか ~直接的な影響の少ない大都市圏の国民

飯田)ロシア国内の動揺がどこまで広がっていくのか。いまのところ、ウクライナに入っているロシア軍の兵隊などを見ると、西の方の貧しい地域から動員してきた人が多い。まだモスクワやサンクトペテルブルク辺りの人への影響はないという指摘もありますが、それも変わってきますか?

鶴岡)プーチン政権がどこまで動員をかける気があるのかということです。いままでは戦争ですらないという立場ですよね。「特別軍事作戦だ」と。この意味は一般人……特に政権にとって重要な一般人は、モスクワやサンクトペテルブルクにいる大都市圏の人たちですが、彼らは直接影響を受けない。ものがなくなったり、スターバックスがなくなるというような影響はありますが、モスクワで「家族が今回の戦争で死にました」という人はまだ少ないです。そうすると「自分たちの戦争ではないのだ」という認識になる。

EUのロシア人に対するビザの制限への不満の矛先がプーチン政権に向かう可能性も

飯田)一方で、ロシアでは11日に統一地方選挙の投票があったということです。そこでプーチン政権に対して反旗を翻す人も出てきている。徐々に崩れてきているということでしょうか?

鶴岡)まだ先行きはわかりませんが、モスクワやサンクトペテルブルクの一定階層以上の人たち、特に富裕層がどういう形で動くのか、政権は気にしていると思います。

飯田)富裕層がどう動くか。

鶴岡)興味深いのは、先週、合意された欧州連合(EU)のロシア人に対するビザ発給の話です。いままで日本を含めた欧米は、「悪いのはプーチン大統領やロシア政府だ」という発想で制裁を行ってきました。一般市民を直接ターゲットにすることはなかったのですが、今回、EUが決定したビザ発給の制限は、まさに一般市民を対象にした初めての制裁です。

飯田)今回のビザの制限は。

鶴岡)いままでの「悪いのは政府であり、一般市民は悪くない」というロジックから少し外れます。その結果、一般市民も反西側で固まってしまうという懸念もありますが、いまこの状態でEUへ旅行に行く人は相当な富裕層です。本来はクレジットカードも使えないはずですから、海外の銀行口座に紐づいたクレジットカードを持っているような人たちしか、現実的には海外旅行ができないのです。

飯田)ロシア人は。

鶴岡)該当するのは、モスクワやサンクトペテルブルクなどの大都市の富裕層です。彼らにとって、ヨーロッパへ旅行や買い物に行くのは生活の一部なのです。彼らがヨーロッパに行きにくくなると、不満を抱えるはずです。不満がどこに向かうかはわかりませんが、もしかすると政府の方針へ矛先が向くのではないかという期待も、ヨーロッパ側にはあるということです。

アメリカはビザの制限に反対だった

飯田)心理的な効果も狙いつつ、一方で向こう側に追いやって固まってしまうという懸念もありますが、制限に反対するような意見も出ていたのですか?

鶴岡)アメリカはビザ制限に反対していました。「悪いのは政府であって一般市民ではない」というラインが崩れてしまうからです。EUでも意見が分かれていて、制限に積極的な人とそうでない人がいました。ただ、これだけロシアがウクライナのなかで破壊と殺戮を行っている状況で、「何事もなかったかのようにロシア人がEU諸国のビーチリゾートで寝転がっていていいのか?」と。それは道徳的な気持ちとしてよくわかります。

EUからのロシアへの直行便は経済制裁によってない ~エストニアやフィンランドから飛行機に乗るため、ロシアからの入国者が多く、安全保障上のリスクになっていた

鶴岡)もう1つは、安全保障の問題でもあったのですね。

飯田)安全保障の。

鶴岡)現在は経済制裁によって、ロシアとEU諸国の直行の航空便がありません。そうするとロシア人は、地続きであるフィンランドやエストニアに陸路で入り、そこから飛行機に乗るのです。

飯田)なるほど。

鶴岡)イスタンブール経由などもありますが、より直接的にヨーロッパへ行くとなると、そういう方法になります。その影響でエストニアやフィンランドに対し、ロシアからの入国数が増えているのです。ロシアからの入国者が増えていることが、安全保障上のリスクではないかという側面の議論もあります。

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