元内閣官房副長官で慶應義塾大学教授の松井孝治が9月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。安倍元総理の国葬への立憲民主党の対応について解説した。
立憲民主党、国葬への出席は執行部を除く国会議員がそれぞれ判断
9月27日に東京・日本武道館で行われる安倍元総理の国葬儀について、立憲民主党は泉代表ら執行部の出席は国葬に関する疑問点を政府に質した上で判断する一方、国会議員についてはそれぞれの判断を尊重するとした。執行部から何らかの要請を行う予定はないとしている。
葬儀について「出る、出ない」を運動化するということはいかがなものか
飯田)野党各党で対応が分かれていますが、野党第1党の立憲民主党はそれぞれの判断を尊重するとのことです。ネット上では国葬への案内状があがるようなことも起きています。
松井)岸田政権については、いろいろな議論があってもいいと思います。しかし、これは葬式ですから、葬儀について「出る、出ない」を運動化するということはいかがなものでしょうか。共産党はそういうことをなさっている政党ですから、今回もされるでしょうけれども、「そういうことはして欲しくない」という声を、よく存じ上げている立憲民主党系の長老の方もおっしゃっています。それを議論の焦点にしてしまったこと自体が、「泉代表はどうなのか」という話も聞こえてくるのです。難しいのですけれどもね。
追悼演説は野田元総理にするべきではないか ~反対党派が対立を乗り越えて敬意を表するべき
松井)岸田政権の国葬の進め方も上手くなかったと思います。「いろいろ議論はあるだろうけれども、ここは協力してくれ」と言うべきだった。安倍さんへの追悼演説も、本当は野党の然るべき人が行う方がいいと思います。私は野田さんしかいないと思います。野田さんは故人への追悼演説で変なことを言いません。むしろ、いい話をいくつか持っておられるような方です。「実はこんな話が安倍元総理との間でありました」というような話を。
飯田)野田元総理ならば。
松井)論敵の首相が凶弾に倒れたのだから、送るというのが議会の良識です。むしろ、反対会派が追悼するということが。
飯田)反対会派だからこそ。
松井)日本社会党の浅沼委員長が刺殺されたときの池田元首相の演説もそうですし、それ以外にもあるのです。私たちの同僚議員だった山本孝史さんが癌で亡くなったときに、現在の参議院議長である尾辻さんがいい演説をされて、私たちも泣きましたよ。同じ議会人として日本国のために頑張っているのだから、反対党がいろいろな対立を乗り越えて名誉を持って送る、敬意を表するということが本来の議会の美徳なのです。
議論は議論として、国葬は整然と行えばいい
松井)先日もジョージアの大使が呟いておられたけれど、「日本人らしくない」と思います。諸外国の方々を公賓として迎えて国葬を行うときに、反対党派が反対姿勢のプラカードを掲げているのは、国家として外国のお客さんを招く態度ではありません。
飯田)そうですね。
松井)議論は議論として、国葬は整然と行えばいい。もし、自分の追求してきた信条に照らして出席しないという人は、黙って欠席されたらいいのです。なかには「絶対におかしい」「許せない」という方もいらっしゃるかも知れませんが、おそらく8~9割の日本人は先述したように思っているのではないでしょうか。
党内の強硬派にも配慮し、苦しい立場の泉代表
松井)立憲民主党、あるいは泉さん本人は苦渋ですよね。
飯田)引っ張られてしまっているようなところもある。
松井)国会での質疑もラジオで聴いていましたけれども。
飯田)閉会中審査ですね。
松井)彼は本音のところは私と同じ思いなのだけれども、党内には強硬な人もいるので、そこに配慮せざるを得ない。他方で元保守系、元社会党の人でも「出ないなどと言ってはいけない」という声もあるのです。閉会中審査のときの泉さんも、最後は「説明を上手にしてくれたら出たい」という思いを私は感じます。
飯田)そこを滲ませつつ。
松井)党としては、一般議員の意思判断に委ねるということでしょう。ここまで反対しておいて自主判断というのも、反対している人たちからすれば「中途半端だ」という批判を浴びるけれど、難しいですよ。
飯田)反対している側からすれば。
松井)先鋭な声に答えてしまうと、どんどん先鋭化していく。そうすると真ん中に大量にいるような、大きな声は上げないけれど、「どうなのか」と思っている人たちから見放されてしまいます。厳しい局面で泉さんも大変だと思うけれど、ここは頑張って、議論は議論として国葬には出ようと考えていただきたい。
国葬へ反対の論陣を張る朝日新聞や毎日新聞は選ばれた代表者が国葬に出席か
松井)朝日新聞や毎日新聞の社長さんは出るのか出ないのか。会社としては絶対に代表を出すと思います。社長さんは週刊誌に顔をマークされているから、社のナンバー2やナンバー3の人を出すのではないでしょうか。社会常識として、こういうものにご案内をいただいて出ないというのはあり得ない。どのような出版社でも新聞社でも、大きなところはそうなります。それが社会常識です。
飯田)どのような出版社や新聞社も。
松井)他方では、「反対の論陣を張っておいて社長を出すわけにはいかない」など、その手のことで朝日新聞や毎日新聞は悩んでいるはずです。しかも毎日新聞は新聞協会の会長でしょう。新聞協会の会長が出ないというのはあり得ないと思います。
飯田)確かにそうですね。
松井)お葬式ですから、議論は議論としてバランスを取って欲しいし、党内議論もうまく運んで欲しいと思います。
ベテランで錚々たるメンバーの立憲民主党執行部
飯田)立憲民主党の泉代表の立場としても、いろいろな方法が考えられるかも知れませんね。
松井)先鋭な反対論者もいたりして、なかなか大変だろうとは思うけれど、踏ん張って欲しいですよね。
飯田)立憲民主党は執行部も一新されました。
松井)ベテランで御せない人たちですけれども。
飯田)岡田さん、長妻さんなど錚々たるメンバーがいます。
松井)長妻さんはかつて、官僚組織に戦いを挑んで嫌われていましたが、最近は官僚組織のなかでも「長妻さんはよく話をしてみると、意外とわかってくれている」という声が私のところにも聞こえてきます。
飯田)厚生労働行政に関してはプロです。
松井)長妻さんという方は真面目なのです。
与党への対案を出すべき
松井)いまの岸田政権もいろいろあると思います。今回の取り掛かり方もそうです。そのときに野党でライバルになるようなところが、極左的な行動を取ってしまうことは避けた方がいい。国民は旧統一教会問題や国葬のやり方の問題について、「おかしい」と思う人が半分以上だから、それに対する批判はいいです。しかし、それはそれとして、場をわきまえて動いて欲しいと思います。
飯田)2009年の政権交代の前は、対案の部分で「こういう政策をする」というものを出していました。旧統一教会の話も「そうは言っても宗教の自由はある」というところで、具体的に何をすべきか、当時の民主党ならば何か提示していたのではないかと思います。
松井)旧統一教会以外も含めて、彼らにもそういう議論があるということは聞くのですよ。
飯田)政治と宗教というようなところ。
松井)悪徳商法的な被害がどのくらいあったときに対応するのか、それが見えてこないですよね。やり方の問題もあるかも知れない。
飯田)党内では議論をしているという。
プレアップをどうするか ~先鋭的な行動をすると真ん中にいる国民が引いてしまう
松井)批判はしても、対案を出すというプレアップをどうするか。せっかく岡田さんなどのベテランがいますし、安住さんは国会対応としてはプロですからね。
飯田)国対委員長。
松井)私たちは55年体制すぎるのではないかと。森山さんと安住さんのお二方の関係が、昔そのものではないかと思うのです。
飯田)ここまでは喧嘩するから、そのあとの審議には一応応じて、最後の採決は通すというような。でも採決には欠席するというようなことをやっていましたね。
松井)昔は社会党の方がある意味で大人でした。あまり出来試合でやると、いまの萩生田政調会長がおっしゃったように、筋書きが全部できていてやらせではないかという批判もありました。しかし、いまの野党のように子どもっぽいやり方をしていると、真ん中にいる国民が引いてしまうのです。
飯田)真ん中にいる国民が。
松井)先鋭の人たちは先鋭的な行動を求めてしまうので、あまりそこに対するウケを狙いすぎると、真ん中の人たちは黙って離れていくと思います。
飯田)真ん中の部分の人たちが「どこへ行こうか」と選挙のたびに迷っている。
松井)しかし、片方が左に振れてくれているから安心なのです。
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