ジャーナリストの佐々木俊尚が9月21日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。3年ぶりに上昇した基準地価について解説した。
基準地価が3年ぶりに上昇
国土交通省は9月20日、令和4年7月1日時点の全国約2万1000地点での基準地を調査した都道府県地価(基準地価)を発表した。全国の商業地、住宅地などの全用途平均は3年ぶりに上昇に転じ、前年比0.3%上昇となった。
飯田)9月20日に発表された基準地価は、全体で見れば3年ぶりの上昇だそうです。
進む地価の二極化 ~大都市圏ではマンションの値段も上がる
佐々木)二極化が激しいのではないかと思います。私は東京、長野、福井と3拠点生活をしていて、実際にいろいろな地方の家や空き家の利用を見ていると、グラデーションがすごいなと感じます。コロナ禍のあとにK字回復する、二極化すると言われていましたよね。
飯田)そのまま下がっていくグラフと、上がっていくグラフがあるという。
佐々木)地価がまさしくそうなのではないでしょうか。東京や大阪のような大都市圏は地価が上がっていて、マンションの値段も上がっていると言われます。
飯田)上がっていますね。
地方都市の小さな町では家が売れず空き家に ~管理する息子世代に固定資産税
佐々木)地方でも、県庁所在地、中核都市とそれ以外の小さな町・さらに小さい田園地帯の3つくらいに分けると、まったく見えてくる様相が違います。
飯田)地方でも。
佐々木)いまのグラフを見ると県庁所在地など、賑やかなところは上がっているのです。一方で、福井県の敦賀という中核都市が南の方にあって、その隣の美浜町という人口9000人くらいの街に私は家を借りているのですが、その辺りの事情で見ると、まったく家が売れなくなっています。
飯田)売れない。
佐々木)土地も家も。そもそも人口が減っています。若い人が入ってくるわけではないので、新規で買う人があまりいません。地元に残っている80歳~90歳くらいのお年寄りが施設などに入居して、住んでいた家が空き家になるということが多いのです。それを息子世代が売ろうとするのですが、まったく売れない。
飯田)売れない。
佐々木)売れず、仕方がないから持っているのです。持っているのですが、親が住んでいた家だから放っておくわけにもいかないし、放っておくと老朽化して近所に迷惑がかかるので、週に1回くらい掃除に行くのです。それが大変だということと、それほど金額が高くないけれど、年間数万円程度の固定資産税を払わなければいけない。更地にするとまた固定資産税が高くなります。
飯田)更地になるとかえって高くなるのですね。
佐々木)だから家のまま維持しているのだけれど、全然売れない。
取り壊し費用のみの200万円でも売れない ~無料の譲渡物件でも売れない
佐々木)取り壊し費用が、だいたい一戸建てで200万円かかると言われています。取り壊して売るために、200万円の取り壊し費用だけ捻出したいから「200万円で売ります」という物件がやたらと多いのです。
飯田)なるほど。
佐々木)200万円で買ってもらい、そのお金で取り壊して土地を売る……手渡すということですよね。しかし、200万円でもまったく売れないので、最近よく聞くのは譲渡物件と言って、「お金は要りませんからあげます」というものです。
飯田)譲渡物件。
佐々木)私の友人がやっている空き家対策のNPOにも、「NPOで所有してくれませんか」と言ってくるらしいのですが、NPO側も「もらってもうちで固定資産税を何軒も払えない」と言ってみんな断っているそうです。完全にババ抜きなのです。
飯田)そういうことになっている。
佐々木)手にした方が永遠に固定資産税を払い続けて、家の管理をしなければいけなくなってしまうから、誰ももらいたがらない。そういう状況が福井の町だけではなく、全国の人口数万人程度のエリアに広がってきているのです。
知らない人に譲りたくない、世間体が悪くなるから売りたくないという人も
飯田)コロナ禍でテレワークが非常に進んだため、最近は「どこに住んでいたって仕事ができるではないか」と言われます。それでも手を挙げる人は少ないのですか?
佐々木)売れない割に、近所の知り合いに譲り渡したいのだけれど、知らない人には渡したくない。また、すべての家が譲り渡しで売れればいいのですが、売りたくない人もいるのです。なぜ売りたくないかと言うと、世間体が悪いと。「あの家はお金がないのか」と言われるのが嫌なようです。
飯田)苦しいから家も売りに出したのかと。
佐々木)あとは仏壇があるから困るとか。たしかに、古い家に行くとおじいちゃん、おばあちゃんをはじめとした写真が欄間に並んでいたりします。あのような家はなかなか売ることができないのです。
飯田)ご先祖を大切にしてきただけに、というのは気持ち的にもありますよね。
田舎で家を買おうと思っても流通しないので買えない ~さまざまなものが障害になっている田舎の空き家問題
佐々木)以前、福井で家を貰おうとしたことがありました。契約直前までいったのですが、突然ダメになったのです。理由を聞いたら、大阪に住んでいる親戚がやってきて「そんな大事な家を売る必要はない」と言い出したということです。遠い親戚が文句を言ってくるから売れなくなったと。
飯田)なぜ大事な家を売るのかと。
佐々木)いろいろな抵抗勢力があって、なかなか物件を手放せないのです。東京で家を借りる場合は、不動産屋さんやインターネットで調べられるではないですか。しかし、田舎の物件はそういうところに出ないのです。コネクションのみなので。
飯田)田舎の物件は。
佐々木)「〇〇さんの紹介だから貸します、売ります」という話になり、流通しない。そうすると、東京から出てきた若い人が買おうと思っても、まったく手に入らないのです。いろいろなものが障害になって二進も三進もいかなくなっているのが、いまの田舎の空き家問題なのです。
飯田)テクノロジーだけでは何とかならないところですね。
佐々木)ならないですよね。
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