世界と大きな差がついてしまった「日本の軍事産業」
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元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が9月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「防衛装備品の海外輸出を国主導で推進する」という政府の方針について解説した。
防衛装備品の輸出を国の主導で推進、国家安全保障戦略に明記へ
政府は防衛装備品の海外輸出を「国主導」で推進する方針を年末までに改定する国家安全保障戦略に明記することで調整に入った。政府が外国との受注交渉に全面的に関与し、防衛関連企業への財政支援を導入する方向だ。
相次ぎ防衛事業から撤退する日本企業 ~巻き返しを狙った今回の方針
飯田)防衛装備品の輸出については、安倍政権で縛りの部分も変えたところでしたよね。
兼原)そもそも佐藤栄作元総理のときには、「戦争中の国や国連制裁対象国には武器を輸出するな」という佐藤三原則(武器輸出三原則)があったのです。しかし、1976年に三木元総理がアメリカも含めて「一切、武器を輸出しない」ということをおっしゃった。あれで防衛産業は完全にスケールメリットがなくなり、自衛隊だけがお客さんになってしまったのです。それから一気に衰退の一途をたどりました。また、防衛産業は収益率も低い。意図的に抑えてあるのです。
飯田)収益率を抑えてある。
兼原)コマツなど、かつて防衛事業を行っていた企業がやめていくわけです。最近はSDGsが強く言われて、株主からも「ミリタリーはダメだ」と言われ、「儲からないとやっていられない」ということになってしまいました。
国を挙げて軍事産業に力を入れる韓国 ~世界と大きな差がついてしまった日本
兼原)ところが、10年くらい前に韓国が軍事産業に力を入れてきて、いまや独り勝ちの状況です。ポーランドに約1000両の戦車を出すなど、国を挙げて取り組んでいます。日本は完敗で、自衛隊自体が維持できなくなるくらいに衰退してしまったのです。
飯田)日本は。
兼原)安倍元総理のときも「味方には売ってもいい」、「第三国には勝手に輸出するな」など、基準を変えながら「味方には売る」というように大きく方向を変えたのですけれども、変更したあともまったく輸出していません。
飯田)一時期、「US-2」という水陸両用機をインドに売るというような話もありました。
兼原)本格的に努力しないといけないのですが、自衛隊が確実に少し使ってくれるので、生産ラインを増やそうともしない。そもそも英語で苦労して輸出しようなどと思っていないのです。防衛省の武官が海外にいるのですが、情報将校で、普通の国は「武器商人」なのです。
飯田)そういう部分もあるのですね。
オーストラリアへの原潜供与もフランスに負けてしまった
兼原)同盟国に武器を売ると同盟関係が強くなるでしょう。通常は一生懸命、武器を売って回るのです。しかし、日本の場合はそういうことはしません。豪州に原子力潜水艦を売るという話があったときも、フランスに完敗してしまいましたが、そういう経験の差があります。
飯田)そういう話がありました。
兼原)三菱重工は頑張ってくれたのですけれども、フランスは世界中で商売しているのです。武器の輸出に関してWTOは関係ないので、おまけをたくさん付けられるのです。
飯田)「安全保障は別だ」というのがWTOルールのなかにもありますものね。
兼原)ロシアなどは「原発を付けますか?」などと、いろいろなことをやっているわけです。
飯田)そういうオプションもある。
兼原)ありとあらゆることがくっつくのですよ。金額も巨大です。しかし、日本はこの半世紀くらい何の努力もしていません。世界的には、高校野球と大リーグくらいの差が付いています。隣の韓国が大リーガーになってしまったので、日本も何とかしようという話だと思います。
この10年でアジアのなかで中国に次ぐ武器輸出国になった韓国 ~防衛費は日本に追い付きつつある
飯田)ロシアはこれまで軍事産業に力を入れてきましたが、いまはウクライナ侵略に対応して輸出できない。その間、どこが隙間を埋めるかということになったとき、韓国が有力だという話があります。
兼原)中国は別格ですが、韓国はこの10年間でアジア最大の武器輸出国になりました。彼らは国を挙げて取り組んできたのです。
飯田)この10年間というと、韓国は左派系の政権もありましたが。
兼原)韓国は日本と逆で、左派系の方が軍拡に走るのです。「アメリカから離れるために強くなるのだ」という発想です。
飯田)自主防衛しなくてはならないという。
兼原)日本は左派がロシアの言うことを聞いて軍縮しろという方向にいってしまうのですが、韓国は違います。アメリカと手を切る以上は、「自分でやるぞ」ということで軍拡に走るのです。韓国の防衛費は日本に追い付きつつあります。
やっと本腰を入れる気になった日本
飯田)「概算要求の段階では上回った」などという記事が出ました。
兼原)経済力は日本の4分の1しかないけれど、軍事力では追い付こうと頑張っているのです。それが韓国の場合は左派政権なのです。
飯田)そのなかで日本がこれから巻き返すのは大変ですよね。
兼原)日本はお尻に火がつくと頑張る国なので、やっと本腰かなという感じがします。
中国の力は以前の3倍になり、書き直さなければならない「国家安全保障戦略」
飯田)国家安全保障戦略は、2022年末までに改定されます。最初のものができた当時、兼原さんはまさに官邸にいらっしゃったのですよね。
兼原)そうですね。その前は「国防の基本方針」という、1957年につくったものしかなかったのです。あれは中身があまりなく、「国連が頑張る」「愛国心で頑張る」「効率的な防衛力で頑張る」「日米同盟で頑張る」というようなもので、戦略ではありません。とりあえずこの4項目を頑張るということが書いてあるだけなのです。
飯田)スローガンのような感じですか?
兼原)1954年に自衛隊をつくった直後の基本方針であり、「自衛隊をつくったぞ」ということを宣言するようなものなのです。ですから愛国心と防衛力と日米同盟と国際連合がセットで書いてあって、「戦略」というものではありません。
飯田)戦略ではない。
兼原)ずっとそれで対応してきたのです。また、安倍政権ができたときにNSCがつくられました。世界中のNSCは、国家安全保障戦略をつくるのが仕事なのです。(日本でも)「恥ずかしいからつくろう」ということでつくったのです。
飯田)そこから月日が経って、情勢が変わってきています。
兼原)10年間で中国の大きさが3倍になったので、それは書き直さないといけないですよね。
「北海道で数ヵ月頑張ればアメリカが助けに来てくれる」という前提でつくられた自衛隊
飯田)今回は装備品の話も入ってくるということです。防衛費もGDP比2%に増額しようという話も出てきていますけれど、この辺りの議論をご覧になっていていかがですか?
兼原)もともとは冷戦中、「北海道で数ヵ月頑張ればアメリカが来るのだ」ということを前提にして自衛隊はつくられたのです。
飯田)対ソ連でという。
兼原)東側の人たちからは「自衛隊を大きくするな」という議論がありましたけれど、はじめはアメリカも日本の帝国陸海軍が怖かったのです。帝国陸海軍は約1000万人いましたからね。それを約28万人にしたのです。日米同盟は「とにかく北海道で頑張ってくれれば、帰って来るから」という約束なのです。
飯田)北海道で頑張っていれば。
GDP比1%という防衛費は「半年頑張ったら終了」ということ ~冷戦も終わり、それでは中国を抑止できない
兼原)はじめからそれでいいことになっていたのです。しかし、1976年に当時の三木総理が「ここで打ち止め」と言ってしまった。これがGNP1%なのです。GNP1%というのは、「半年頑張ったらおしまい」という意味であり、それ以上は国民を守らないということです。
飯田)半年頑張ればいいと。
兼原)冷戦中はアメリカも「ドン」といてくれたし、それでよかったのですが、冷戦も終わって中国が強くなり、それではとても持たないのではないかという話になってきた。
飯田)中国が強くなり。
兼原)台湾有事に対応しようと思ったら、「半年持てばいい」という話ではありません。2年くらい持たないといけないのです。とても1%では持ちません。いまは本当に弾もないし、部品もないし、もう自衛隊はボロボロなのです。
飯田)「弾がない」ということが報道されるようになり、部品も共食い状態になっていて、2機ある機体のうち、1機を部品取りのために使ってしまうという。
兼原)1つ潰すと、ハイエナのように他の飛行機のための部品を持って出て、骨だけにしてしまうのです。そして、そこから取った部品をまた使う。そういう感じなので稼働率も高くないですよね。少し真面目に考えないといけません。これまでのように「半年頑張ればいい」ということではないのです。台湾有事などが始まったら、ウクライナのように1~2年続いてしまいます。
防衛力を強化しなければ強くなった中国を抑止できない
飯田)そういう足元の状態がありながら、予算が増えるということになったとき、「新しい兵器をどうするか」という議論ばかりが先行してしまう。
兼原)まず、足腰ですね。足腰が本当に弱いので、いまのままでは戦えません。変えなければならない法律も多くあるのですが、お金がないのです。戦後、「半年戦えばいい」という軍隊にしてしまったためです。
飯田)冷戦が終わってから30年以上経ちますよね。
兼原)冷戦が終わり、余計に緩くなってしまったのです。それで「今度は北朝鮮だ」と。「では後方支援だ」と言っていたのです。台湾有事という話が出てきたのは、この10年くらいです。
飯田)台湾有事のことが出てきたのは。
兼原)いまは中国軍が圧倒的に強い。北朝鮮軍よりも、かつての極東ソ連軍よりもはるかに強いので、抑止できればいちばんいいのです。でも、隙を見せると抑止できないかも知れません。戦いが始まると悲惨なことになりますから、始めさせないことが大事です。
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