円安だけでなく「価値観の安い日本」への懸念 まるで「30年前のアメリカのよう」

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元内閣官房副長官で慶應義塾大学教授の松井孝治が10月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。円安水準を更新する円相場について解説した。

円安だけでなく「価値観の安い日本」への懸念 まるで「30年前のアメリカのよう」

円安が進み1ドル=146円台後半となったことを示すモニター=2022年10月13日午後、東京都港区 写真提供:産経新聞社

円相場が一時147円台後半まで下落、32年ぶりの円安水準

10月13日のニューヨーク外国為替市場では、アメリカの消費者物価指数の伸びが依然として高い水準だったことから円安が加速し、円相場は一時1ドル=147円台後半まで値下がりした。1990年以来、約32年ぶりの円安水準を更新した。

飯田)アメリカの9月の消費者物価指数は、前年同月比で8.2%プラスだったということですが、インパクトのある数字ですね。

松井)アメリカのインフレ懸念がますます高まっているということで、当然、利上げ傾向が続きます。日本は相変わらず金融緩和を続けている。自民党の代議士の方と話しても、わかってはいるけれど、引き締めという方向にはなかなか行かないと。そうすると金利差が上がって、どうしてもこういう構造が続いてしまう。

円安だけではない「安い日本」に懸念 ~日本の仕組みが非効率になっていて「まるで30年前のアメリカ」のよう

松井)金融政策の問題もさることながら、全体として「安い日本」というところに懸念があります。ツイッターを見ていたら、落語家の古今亭菊之丞師匠が都内から都内に郵便を出したところ、「丸1週間かかってしまった」と嘆いていました。昔あった郵政民営化の議論の際、「郵便は効率化すれば必ず翌日配達することができる」という話もあったくらいです。

飯田)そうでしたよね。

松井)いろいろな問題が背景にあるのだけれど、日本の仕組みがすべて非効率になっているような気がします。たまたまツイッターのやり取りで、同僚の上山信一先生がおっしゃっていたのですが、「日本が30年くらい前のアメリカのようになってきている気がする」と言うのです。

自動ドアも故障ばかりだった30年前の「ポンコツなアメリカ」になってきているいまの日本

松井)普通のサービスが普通に提供される国ではなくなってきていると。円相場も20年前に戻っているし。

飯田)そうですね。

松井)昔、アメリカで勉強させてもらったときに、成田からアメリカ・シカゴのオヘア空港に着いたのです。飛行機からタラップを降りて、バスに乗ってターミナルに着いたら、自動ドアが開かないのですよ。すると、半分くらいいたアメリカ人の乗客が一斉に“We are back!”と言って笑うのです。

飯田)「アメリカに帰ってきたぜ!」と。

松井)成田便で日本から乗って、「ポンコツのアメリカに帰ってきたぜ!」という自虐の笑いがありました。その感じが日本の現状になってきているのですよ。

飯田)都内から都内への郵便配達が1週間かかるというような。

賃金も上がらず、大きな不動産も外国人に買われている ~「安い日本」になってきている

松井)アメリカはインフレだけれど、物価が上がって賃金も上がり、マクドナルドの時給が日本の2倍~3倍ぐらいになってきています。物価も高いのですが、経済全体が右肩上がりになっている。

飯田)賃金も上がって。

松井)「先進国の成熟」などと言っていたのだけれど、他の国は物価も上がって賃金も上がっているのに、この間、日本は「賃金も上がらない」という状況にあり、とても安い日本になってきているのです。

飯田)日本は賃金も上がらない。

松井)それだけなら悪いことばかりではないのですが、京都などでは大きな不動産はすべて外国人の方々が買っているらしいのです。買い手が日本人であってもダミーで、後ろで資金を供給しているのは外国人の方だったりする。全体として、日本が安い国になってきているのです。

飯田)不動産でも。

松井)逆に円安というのは、外国の方が日本に来れば安くつくのです。その辺りで反転させて、日本の経済をもう1回成長させなければなりません。

飯田)円安を利用して。

松井)日本はずっと財政支出も含め、「我慢、我慢」で進んでいます。でも、その割には赤字が減っていない。メスを入れられるところにメスを入れず、伸ばせるところを伸ばせずに、どんどん以前の化石のような日本が残っているのです。

円安だけでなく「価値観の安い日本」への懸念 まるで「30年前のアメリカのよう」

2022年10月12日、日経リスキリングサミット~出典:首相官邸HP(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202210/12reskillingsummit.html)

世界の大学ランキングでも中国・韓国に抜かれる ~成長しない日本

松井)世界の大学ランキングが出ましたが、1位がオックスフォード、2位がハーバードと、英米系が上位を独占しています。

飯田)英米系の大学が。

松井)中国はベスト100のなかに7校が入り、韓国も3校入っていますが、日本は東大含めて2校しか入っていません。全体に縮んでいるという状況です。為替の数字もその反映かも知れませんが、そこに目をつけないといけないのではないでしょうか。単に金融政策だけの問題ではないように思います。

草食系で元気のない若者が多い

飯田)円安が進んでいるというところから、90年代のバブル崩壊以来の宿痾だと思いますけれども、「成長しない日本」に話は及びます。私も氷河期世代と呼ばれた世代です。成長する日本を知らないという部分で、「割を食ってきたな」という気持ちがあります。成長しないでいいのかと、経済政策で起爆させなければいけないと思うところもあるのですが。

松井)1つ間違うと昭和のおじさんの回顧談になってしまうのだけれども、ゼミ生と接していても、みんな草食系になっているのですよ。

飯田)ゼミの飲み会などでも、みんな黙ってスマホを見ていて、先生が来ると少し話すのだけれど、話が続かないそうですね。

松井)全体的に元気がなくなっている。うちのゼミにも海外に留学する生徒がいますが、全体的に少ない。私たちの時代は、留学したいという人の割合がいまの倍以上あったと思うのです。

飯田)倍以上。

松井)コロナ禍以来、あえて外食比率を上げているのですが、昨日行った店などは人気のあるところで、コロナ前は全然予約が取れなかったのです。いまはコロナも大分収束しているではないですか。でも予約が取れてしまうのです。

飯田)お客さんが戻っていない。

松井)女将さんと話しても、コロナが終わったと言っても全然戻ってこないそうです。背景として、ライフスタイルや価値観がある意味で成熟化している。左派の人などは「脱成長」と言いますが。

飯田)清貧のような。

若い人のチャレンジ精神がないと国全体が伸びない

松井)そういう感じになっています。「書を捨てよ、町へ出よう」と言った人がいましたが、それは若い人にとっても大事なことだと思うのだけれど、いまはスマホの世界でいろいろな情報を取れてしまう。

飯田)知った気になれる。

松井)「飲み屋なんかに行っても」というような感じになってきているのです。昭和の親父の回顧かも知れませんが、本当にそれでいいのでしょうか。

飯田)若い人にこういう話をすると、「そうは言っても先立つものがない」という問題があります。だから、やはり全体を回していかないといけない。

松井)全体として若い人のマインドをずっと下げているような気がするのです。どうにかして反転させてあげなければいけない。やはり、若い人たちのチャレンジ精神がないと、国全体が伸びませんよ。

飯田)経済政策は本当に大事ですよね。

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