「1強」ゆえに危惧される習近平氏の今後 気になる「健康状態」も
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ジャーナリストの佐々木俊尚と、キヤノングローバル戦略研究所主任研究員でジャーナリストの峯村健司が10月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国国家統計局がGDP発表を延期した理由について解説した。
共産党大会開催中の中国でGDP発表を異例の延期 ~予想よりも悪い経済指標の可能性
中国国家統計局は10月18日に発表予定だった7~9月期の国内総生産(GDP)や、9月の各種統計の公表を延期すると発表した。理由は明らかにされていないが、16日から始まった中国共産党大会の期間中の数値公表を避けた可能性がある。
飯田)前日になってホームページ上で明らかにしたそうです。
峯村)私も驚きました。もともと18日にGDPなどの各種統計の発表が決まっていたのです。共産党大会の開幕日が2日前の16日になった最大の要因は、18日の統計発表を意識してのことだと事前に聞いていたからです。
飯田)そうなのですか。
峯村)つまり、先に党大会を開幕し、2日後に統計を発表することによって、芳しくない経済指標を党大会の勢いでごまかす意図があったと聞いていました。そのため18日に発表すると思っていたら、再度延長したのです。想像以上にもっと経済の指標が悪いという可能性は十分にあります。
飯田)予想していたよりも悪い数字であると。
峯村)ここ最近、いろいろな統計の発表がすべて遅れています。おそらく党大会が終わったあとにまとめて出すことになると思うのですが、それだけ深刻な経済状況なのかもしれません。
経済が失速し、逆風が吹いている ~経済について北戴河会議で叱責を受けた習近平氏
佐々木)習近平政権は共同富裕で、「経済成長よりも平等を重んじる」という方向に舵を切っています。コロナ禍があったとはいえ、結果的に成長がストップしてしまうと逆風になると思うのですが、その辺りはどうですか?
峯村)完全に逆風になっていますね。いちばんの中国経済のエンジンだった民間企業、特にアリババなどのテック系も「共同富裕」という名のもとに叩かれたわけです。
飯田)そうですね。
峯村)それによって経済が失速している状況です。今年(2022年)夏の「北戴河会議」という、いわゆる秘密会合でも。
飯田)長老たちとの。
峯村)そこでも胡錦濤前総書記ら引退幹部が、「経済政策についてはどうなっているのだ」と、かなり習氏を批判したと聞いています。中国の急成長を維持してきた改革開放とは真逆のことをやっていることに対して、「やはり改革開放を捨てたらダメだ」と苦言を呈されたようです。
飯田)改革開放を捨ててはいけないと。
峯村)その結果、北戴河会議が終わってすぐにナンバー2である李克強首相が、広東省の深圳という、まさに改革開放が始まった土地に行きました。「我々は改革開放を捨てることはないのだ」と宣言して、鄧小平の像を参拝しました。それは内外に向けての「改革開放は今後も続けていくので、国内外のみなさんは心配しないでください」というメッセージだったのだと思います。
ゼロコロナ政策を解除できない中国 ~想像できないくらいの経済の悪化も
佐々木)これで習近平政権が揺らぐところまではいかないのですか?
峯村)揺らぐという言葉にはいろいろな意味があると思うのですが、習近平氏の「1強独裁」が揺らぐことはありません。しかし、中国の屋台骨である「経済がどうなるか」と言うと、わからないです。揺らぐ可能性も十分あると思います。あとはゼロコロナです。もともと経済が失速したところにゼロコロナ政策がきていますので、ゼロコロナからのリカバリーがどうなるのか。党大会が終わったら解除されると言われていたのですが、どうもさらに延びそうです。
佐々木)維持すると言っていますね。
峯村)おそらく長らく「ゼロコロナ」政策によって、中国国民に「集団免疫」ができていないので、なかなか解除できない状況ではないでしょうか。となると、ますますサプライチェーンや消費が落ち込んで、さらに経済が悪化する可能性があります。
ゼロコロナという自分の政策によって支持基盤が危うくなるほど追い込まれている習近平氏
飯田)7~9月期のGDPの数字は、上海などでロックダウンによる都市封鎖があり、経済が落ちたくらいのタイミングです。しかも上海のトップである李強さんは、もともと習近平さんの「一の子飼い」とされていて、「次の首相になるのではないか」「国務院総理になるのではないか」などと言われていましたが。
峯村)それはもうないですね。総理はまずあり得ないですし、そもそもトップ7にすら入れないという話があるくらいです。それほど、李強氏はいまは追い込まれている。ゼロコロナという自分の政策によって支持基盤が危うくなり、自分のいちばんの子飼いも求心力を失っている。習近平氏は辛い状況に追い込まれてみて間違いないでしょう。
飯田)それが際立つような数字を、党大会中に出すわけにはいかないと。
峯村)いかないですね。「ごめんなさい」と言うわけにもいかないですし。
飯田)「誤りは認められない」ということですか?
峯村)そうですね。
演説中に咳をして声が出なくなる場面も ~健康不安説もあり得る
峯村)もう1つ気になったのは、習近平氏の演説です。今回の演説は前回の5年前と比べて、半分くらいの1時間45分だったのですが、短かったということもそうですし、かなりカットして読んでいるのです。
飯田)全体の報告書は別にあるのですよね?
峯村)前回と同じくらいあるのですけれど、半分くらいになりました。気になったのは、演説の途中で咳払いして声が出なくなることが何度もあったことです。演説中、「カツン、カツン」とコップを置く音が何度も聞こえました。あとでわかったのですが、習氏は演説中、水を頻繁に飲みながら演説していたようです。面白いのは、国営の中国中央テレビの映像には1回も映っていないのですよね。
佐々木)水を飲むところは。
峯村)映っていません。
飯田)そうなのですか。
峯村)中国中央テレビの関係者聞いたら、「水を飲むところは映すな」と事前に指示が出ていたということです。つまり、事前に習氏が水をよく飲むことを想定した支持を出しているのです。「健康不安説」が広がることを恐れたのでしょう。おそらく3期目は確定なのですが、リスクを負った船出となったようです。
トップの健康状態はどの国でもトップシークレット
飯田)トップの健康状態は、どの国でもトップシークレットですよね。
峯村)北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)さんの父親である金正日(キム・ジョンイル)さんは、外遊のときに排泄物を持ち帰っていました。持ち帰る係がいるのです。排泄物からDNAや健康状態などの弱点がすべてわかってしまうので、持って帰るぐらいの機微な情報なのです。
飯田)先日、軍事評論家の小泉悠さんがゲストに来たときに、プーチン大統領もG20大阪サミットのときは、排泄物まで持ち帰ったと言っていました。
佐々木)ずっと同じコップを使っていたという話も聞きました。
峯村)習近平氏もそうです。ずっと同じマイコップです。
佐々木)独裁者は考えることが同じなのですね。
習近平氏が倒れたあと、「ナンバー2がいない」という最悪のシナリオ ~核兵器やミサイルを誰がコントロールするのか
佐々木)もし健康不安説が本当で、政権が終わる可能性があるとしたら、その先は天変地異のようなことになりますか?
峯村)なります。基本的に中国は鄧小平氏以降、集団指導体制でトップの後継者が常にわかるようにフォーメーションを組んできました。「何かあったときにはナンバー2がしっかり支える」という仕組みになっていたのですが、いまはいないのです。完全に習近平氏1強なので、「何かあったときを想定していないシステム」になっています。最悪のシナリオはそこですよね。
佐々木)ナンバー2がいないので大混乱になる。
峯村)大混乱になるしかないですね。「台湾有事」がチャイナリスクと言われていますが、後継への権力移譲がうまくいかなくなるリスクも、日本は考えなくてはいけません。
佐々木)何が起きるかわからないですね。
峯村)わからないです。
佐々木)いきなり台湾有事に踏み込む可能性もありますよね。
峯村)そうですね。台湾有事ならまだいいのですが、中国という国家自体が崩壊する可能性があります。核兵器とミサイルをあれだけ持っていますから、「誰がコントロールするのだ」という事態になりかねないことも考えなければいけません。
重篤説を裏付ける江沢民氏の欠席
飯田)1強だから安定するというものでもない。
峯村)1強ゆえに、それが崩れたときのダメージは大きいのです。
飯田)1強の象徴のように今回、「江沢民氏がいない」など、誰かの不在がクローズアップされていましたが、その辺りで気になるところはありましたか?
峯村)やはり今回、江沢民氏がいなかったのは大きなニュースです。複数の共産党関係者に聞くと、やはり体調がすぐれないらしいです。これまでも3~4回ほど重篤説が出ていましたので、それを裏付ける形だったということが1つ。
長老たちの間で今後力を持つであろう胡錦濤前総書記
峯村)江沢民氏の席は習近平氏の隣なのですが、そこに座っていたのは胡錦濤氏でした。習氏と談笑している場面もありました。江沢民氏に代わって、いまは胡錦濤氏が今後の引退幹部のなかでは力を持っていくのだろうということが、開幕式の場面から分析できます。
飯田)その変化が日本に対して大きな影響を与えますからね。
峯村)大変な影響になります。
佐々木)ロシアとの関係も考えると、どうなるのかよくわからないですね。
峯村)そうですね。
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