ロシアとウクライナの戦争が長期化する「いくつかの理由」
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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が10月24日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ情勢について解説した。
ヘルソン州西部からロシア軍が撤退開始か ~完全撤退ではない
アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は10月21日、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部ヘルソン州から、ロシア軍が撤退を始めたとの見方を示した。ヘルソン州をめぐってはウクライナ側が21日に「これまでに88の集落を奪還した」と明らかにしている。
飯田)思えば、ロシアによるウクライナ侵略が始まったのは2月24日です。
宮家)8か月前です。あのとき、「プーチンさんは戦略的な判断ミスをしたのだ」と言った覚えがありますが、これほど長く続くとはプーチンさんも思わなかったでしょうね。ロシアには相当な負担になっているはずです。今回、ヘルソン州から出ていくということですが、実態は、ヘルソン州内に川があって、その西岸から東岸に移動しているということだと思います。
飯田)川の西岸から東岸へ。
宮家)つまり川を挟んで、ロシアは守りをまた固めようとしているわけです。撤退には違いないのかも知れませんが、「完全撤退」というわけではありません。また戦況が膠着状態になってしまう可能性は常にあります。ただ、全体の流れとしてロシアは劣勢です。プーチンさんにしてみれば、「お前たち軍人は2月から何をやっていたのだ」と言いたくなるでしょうね。
ロシアの劣勢は間違いないが、状況が大きく変わるわけではない
飯田)ウクライナ側はいま反転攻勢と言われています。そして、これから冬がやってくる。
宮家)冬も地域によって違うでしょうから、いわゆる冬将軍的なものがロシアに有利になるとは限らないし、ウクライナも冬はよく知っているでしょう。
飯田)自分の国ですからね。
宮家)大きな流れとしてはロシアが劣勢で、もともとの勢いがなくなったことは事実だと思います。しかし、簡単に状況が変わっていくという期待はしないようにしています。戦争はそんなに甘いものではありません。
飯田)そうなのですか。
宮家)川を渡ることだって大変なことなのです。私がイラクにいたころ、「陸上部隊が300メートル前進するのは、どれだけ大変なことか」と自衛隊の人に言われました。本当にその通りだと思います。当時はイラン・イラク戦争をやっていましたからね。
飯田)300メートル前進することが。
宮家)川を渡ると言っても、もちろん橋などないのです。戦争では簡単に物事が動くときと動かないときがあって、いまは若干動いているけれど、それがずっと続く保証はないと思います。
いまの状況で停戦合意は難しい ~長い戦争になる可能性は高い
飯田)ロシアのプーチン大統領は、「話し合いに応じる秋波なのか」というような発言をしていますが。
宮家)これも2月から言っていることなのですが、停戦というのは「戦場で何が起きているか」によるわけです。そして、負けそうな方が停戦を言い出します。勝っている方は停戦する必要などないですからね。「これは危ない」と思っている側が言い出すのが自然なのですが、両方とも「これは危ない」と思わなければ最終的な停戦はできません。
飯田)停戦は。
宮家)ウクライナの大統領が、せっかく北大西洋条約機構(NATO)からいろいろな武器が入ってきて反転攻勢しているときに、プーチンさんが「停戦しませんか?」と言っても、それを受けたらいまの状態で戦況は固定されてしまいますよね。
飯田)停戦してしまったら。
宮家)プーチンさんはそれでいいのかも知れませんが、ゼレンスキーさん側は「それはどうか」と思うでしょうし、両方がある程度疲れていないと停戦は難しい。仮に停戦合意ができたとしても、簡単に破られてしまうものですし、まだまだ長い戦争になる可能性は十分にあると思います。
飯田)もう8ヵ月になりますからね。
宮家)8ヵ月ではありません。2014年にこの戦争は始まったのですから。
飯田)そうか。
宮家)クリミアを獲ったのが2014年ですよ。2014年以降は静かな戦争だったのが、今回、正規軍を使った戦争になっただけです。その意味では、8年以上続いていると考えるべきだと思います。
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