東京大学公共政策大学院教授・政治学者の鈴木一人が10月27日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。最終調整に入った政府の総合経済対策について解説した。
総合経済対策、国費の一般会計歳出25.1兆円で調整へ
政府・与党は10月26日、総合経済対策の全容を固めた。国費の一般会計歳出を25兆1000億円、自治体や企業の支出も含めた事業規模は67兆1000億円程度で最終調整していると報じられた。松野官房長官は10月26日の会見で次のように述べた。
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飯田)ガソリン価格や電気代、都市ガス代などについても補助を出すと、10月27日の新聞各紙でも報じられています。今週末にも閣議決定かという話ですが、鈴木さんはどう見られますか?
鈴木)日本は欧米の国々と比べると、インフレ、物価高の率としてはまだ低い状態なのですが、ロシアによるウクライナ侵攻が影響して燃料価格が上がっています。それが結果として電気・ガス料金にも大きく反映されているので、何らかの対応をしなければ、生活費に大きく支障をきたす段階になってきているということです。
飯田)そうですね。
鈴木)ここで大規模に支出して経済対策を打つのは、適切な規模、適切なタイミングなのではないかと思います。
ウクライナ情勢の影響で上昇するエネルギー価格 ~より安定したエネルギーへシフトするために、いろいろなエネルギー源の可能性を探る必要がある
飯田)先進各国、エネルギー価格の上昇や、それに伴って全体的に上がる物価などに頭を痛めています。特にウクライナ情勢はどう動いていくのか。すぐには終わらないだろうと考えると、エネルギー全体のバランスから考え直さなければいけないでしょうか?
鈴木)エネルギーの問題は一朝一夕にどうこうできる問題ではなく、長期的な投資や研究開発が必要になります。いまの化石燃料、特に石油・ガスに対する依存をやめるのは難しいと思いますが、やはり、こういうことが起きる可能性を考えて、「より安定したエネルギーへのシフト」を考えなければならないと思います。
飯田)安定したエネルギーへのシフト。
鈴木)再生可能エネルギーはもちろんのこと、原子力エネルギーをどうするかも含めて検討しなければならない。国際情勢の変化によって、エネルギー価格がこれほど乱高下するような状況だと、我々の生活に大きく影響する電気代・ガス代などへの選択の余地が狭まってしまいます。そうならないためにも、いろいろなエネルギー源の可能性を探っておく必要があると思います。
「革新軽水炉」か「小型モジュール炉(SMR)」か ~腹を決めて政治的な決断をしなければいけない時期に来ている
飯田)岸田政権は、現在稼働を予定している原発9基に関して、安全が確認されたものは速やかに動かしていくという方針を既に示しています。一方で、各原発は建ってから時間が過ぎてきており、それはどうするのか。新たにつくるのか。世の中の情勢もあると思いますが。
鈴木)岸田政権は「革新軽水炉」という、既存の技術を使いながら、より安全性の高い原発をつくるということも示しています。しかし、福島原発事故の影響も残っているなかで、国民のコンセンサスが取れるのかどうかは極めて怪しいところではあります。
飯田)革新軽水炉について。
鈴木)別の選択肢として、「小型モジュール炉(SMR)」という小型原子炉があります。もし仮に事故が起きたとしても被害が小さく、どちらかと言うと分散型の原子力の選択肢もあるのだということが示されています。しかし、これも実際に導入するとなると、分散型ですから、適切な地域にそれぞれ置かなければなりません。それもまた、各々のコンセンサスを取るのが難しい。
飯田)なるほど。
鈴木)まだまだハードルが高いとは思うのですが、それをやらないのであれば、「電気料金が高い状態をずっと放っておいてもいいのか」ということになるのです。どちらを取っても不都合がある。
飯田)いばらの道です。
鈴木)「どこかで腹を決めて政治的に決断しなければいけない」というところに、いま近付いているのではないでしょうか。
「依存すればするだけ、自分たちは脆弱になる」 ~ドイツがロシア産のガス全廃を目指す
飯田)27日の日経新聞に、ドイツの財務大臣へのインタビューが載っていました。
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『ドイツ財務相、ロシア産ガス「全廃めざす」 調達を多様化、再生エネ拡大 物価抑制を景気より優先』
~『日本経済新聞』2022年10月27日配信記事 より
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飯田)そんなことがドイツで可能なのかと思うのですが。
鈴木)ドイツはいままで、あまりにもロシアに依存してきた。マックス60%くらいがロシア産のガスだった時期もあります。そのように依存していると、当然、ロシアに何かが起こったときは自分たちにとって不都合な状態になるのです。いままでは政治と経済は別物で、経済的な関係、例えばガスの供給はいくら政治的に対立しても止まらない、契約は守るだろうとされてきたのです。
飯田)向こうにも利益のある話だから。
鈴木)経済的に合理的な判断をするはずだと思っていたのですが、戦争が始まり、それに対して天然ガスを武器のように使うということが起こると、政治と経済が切り離せなくなります。
飯田)今回のように戦争が起こると。
鈴木)エネルギーや技術を武器として使うような時代に入ってきたのです。敵対的な国家、あるいは、もしかしたら対立するかも知れないような国家には依存しない。そういう経済体制をつくらなければいけません。逆に言うと、「依存すればするだけ、自分たちは脆弱になる」という自覚がかなり強まってきたのではないでしょうか。
経済安全保障は安全保障 ~相手が経済的に攻めてきたら自分たちを経済的にどう守るのか
飯田)26日のワーキンググループ(第2回)の会合で、国家安全保障戦略の見直しを自公でやっていましたが、経済安全保障の話を盛り込むのだと。まさにいまの文脈になりますか?
鈴木)経済安全保障というのは安全保障なのです。経済が武器として使われる。そして安全保障の戦略のなかに組み込まれていく。相手が攻撃してきたら、自分たちをどう守るのか、どう反撃するのかも考えなければいけません。
飯田)経済安全保障は安全保障である。
鈴木)日本はロシアがガスを止めるとなったときに、「どう対抗するのか」ということも考えなければいけないのです。ガスが止まった場合は、当然、ガス料金や電気料金が上がっていくわけですから、それに対してどう衝撃を吸収していくかというプランも立てなければいけない。完全に戦争時と同じなのです。相手が攻めてきたときにどう守るのかという話と同じで、相手が経済的に攻めてきたら、どう経済的に自分たちを守るのか考えなければいけない。経済と安全保障の切れ目がなくなってきたのだと思います。
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