ジャーナリストの須田慎一郎が11月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。現地時間11月8日に投開票される米中間選挙について解説した。
アメリカ中間選挙、11月8日に投開票
4年に1度の大統領選挙の中間の年に行われるアメリカ中間選挙が、現地11月8日に行われる。選挙戦最後の土曜日となった5日には、バイデン大統領とトランプ前大統領が激戦区ペンシルベニア州で応援演説を行い、民主党と野党・共和党の戦いが一段と激しさを増している。
飯田)11月8日の投開票ですが、時差の関係で、日本で結果が判明するのは9日の昼以降になりそうです。
須田)中間選挙に関して言うと、日本の衆議院にあたる下院の方は、おそらく共和党が過半数以上を獲得するだろうという情勢になってきました。中間選挙は、ほぼ大統領出身の政党が負けるのです。そのため「バイデンさんだから」というわけではないのですが、それでも「バイデン大統領だからここまで負けるのだ」というくらいの勢いが、いま共和党にはあります。
焦点は上院 ~「残り7議席をめぐる争い」
須田)焦点は上院です。現在は50対50であり、上院議長は副大統領が兼務しますから、民主党が51になるわけです。かろうじて過半数を維持しているのですが、はたしてこれがどうなるのか、情勢はまだはっきりと見えていません。混沌としている状況です。
飯田)混沌としている。
須田)ちなみに上院は下院と違い、全員改選ではなく、非改選組がいます。非改選は民主党が36議席、共和党が29議席です。私の分析なのですが、安全圏に完全に突入しているのが民主党で6議席、共和党で15議席。ほぼ優勢ではないかと思われるのが、民主党で4議席、共和党で3議席です。
飯田)須田さんの分析では。
須田)優勢も含めて、ほぼ確定しているところを見てみると、「残り7議席をめぐる争い」なのです。実はこの7議席が激戦区と言われていて、これで過半数を維持できるか、できないかがわかるのだと思います。
7州の共和党候補はすべてトランプ派 ~共和党がここで勝てばトランプ氏の2024年の大統領選挙出馬へつながる
須田)アリゾナ、ジョージア、ネバダ、ニューハンプシャー、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの各州になります。ただ、共通していることがあって、7州の共和党候補者は、7人すべてがトランプ派なのです。
飯田)そうなのですね。
須田)トランプ大統領のバックアップを受けて予備選を勝ち抜いてきた候補者なのです。つまり、上院が大きな注目ポイントだと申し上げましたが、それに加えて、2024年の大統領選挙に大きな影響を及ぼしかねないのです。トランプさんの推薦を得た人たちが雪崩を打って当選することになると、トランプ派が勢いを増しますから、結果的に「(トランプさんの)2024年の大統領選挙への出馬」という流れがここで出てくるのかなという感じがします。裏テーマは「大統領選挙」なのです。
最後まで予断を許さない
飯田)いま挙げられたアリゾナ、ジョージア、ネバダなどは、大統領選挙のときも最後の最後まで結果が出ず、どちらに振れるかわからないという州でした。
須田)加えてペンシルベニアやウィスコンシンのように「スイングステート」と呼ばれるところがあります。選挙のたびに共和党が勝ったり、民主党が勝ったりするので、予断を許さない状況にあるのだろうと思います。
「反トランプ」を訴える民主党 ~不法移民のリスクにさらされる州ではトランプ氏を評価
飯田)争点はやはり経済になるのですか?
須田)有権者としては経済を強く意識するでしょうけれども、民主党サイドは「反トランプ」を全面的に出してきているのではないかと思います。
飯田)反トランプ。
須田)しかし、例えば国境の壁問題などを見ると、現実問題として不法移民のリスクにさらされている州などもあるわけです。そうすると、そういう地域で「反トランプ」を訴えても、果たしてそれが心に響いていくのかどうか。
「反極左」を訴える共和党 ~反発する旧住民
須田)日々、不法移民のリスクにさらされている州としては、やはり「そうは言っても」と、トランプさんのつくった国境の壁を評価する声が大きいのです。そのなかで共和党が何を仕掛けてきているのかと言うと、今度は「反左派」、「反極左」です。
飯田)反極左。
須田)行き過ぎたリベラル的な動き。その1つの大きな象徴になっているのがサンフランシスコです。
飯田)サンフランシスコ。
須田)西海岸は「左派の牙城」と言われています。いまやサンフランシスコは「極左の巣窟」というようなイメージがアメリカの有権者のなかにあるのです。「我が州はサンフランシスコのようにはならない」というような。
飯田)なるほど。
須田)特にLGBTQ問題やヒスパニックに関する問題など。そういったところでは、従来からの住民の権利を削り取っていき、そちらの方に手厚く対応していくという意識が広まっているものですから、反発している旧住民が多いのです。
3つに分かれるアメリカ
飯田)真っ二つという感じになってきているのですか?
須田)私は3つに分かれていると思います。共和党のなかにも「反トランプ」はいるのです。やはり2021年1月6日の「米連邦議会議事堂襲撃事件」を受け、共和党支持者のなかにも「私は反トランプです」という人もいます。
飯田)3つに分かれている。亡くなったジョン・マケインさんや、かつて副大統領だったチェイニーさんのお嬢さんであるリズ・チェイニーさんなどは、確かに反トランプ的なことを言っていました。けれども、チェイニーさんも予備選で落ちてしまっている。
須田)そういった意味で言うと、トランプ派に勢いがあるのは間違いありませんが、「米連邦議会議事堂襲撃事件」が共和党攻撃の材料になっています。予備選は勝ち抜いたのだけれども、結果的に「トランプ色を払拭しよう」という人も出てきているという、混沌とした状況なのだと思います。
物価高騰のなかで賃金上昇の恩恵を受けている人と、そうでない人との格差が分断を呼んでいる
須田)選挙戦の争点は、トランプさんをめぐる問題が1つあるけれども、やはりインフレも1つの大きな焦点として取り上げられています。ある種アメリカの分断のポイントになっているところです。
飯田)物価高騰の問題。
須田)物価高騰と言っても、日本で起こっている物価高騰と、アメリカで起こっている物価高騰は若干違うのです。日本の場合は「コストプッシュインフレ」です。原材料費やエネルギー価格の高騰が物価高騰を招く。つまりコストが押しているインフレで、コストプッシュインフレです。
飯田)日本の場合は。
須田)ところが、アメリカやイギリスは「ディマンドプルインフレ」であり、需要過多なのです。コロナ対策や気候変動対策などもあって、あまりにも財政出動を過剰に行ってしまったため、需要が爆発的に増えてしまった。
飯田)アメリカやイギリスの場合は。
須田)供給よりも需要が大きいためにインフレが起きている側面が非常に色濃くあるのです。そういった意味では、「景気がいいなかでの物価上昇」であることは間違いありません。
飯田)景気がいいなかでの物価上昇。
須田)ただ、そういった状況でうまく経済を回すためには、賃金上昇がなくてはならないのですけれども、賃金上昇の恩恵を受けている人と、地方や農家の方など、そうではない人との格差が出てきてしまっている。これもまた分断を呼び込んでいる状況があるのだと思います。
賃金が上がった人は民主党支持
飯田)賃金が上がっている富裕層などの人たちは、どちらかと言うと民主党の方に寄りがちなのですか?
須田)民主党支持になるでしょうね。富裕層だけではなく、都市部やテック系企業の人たちにとってみると、物価上昇は十分に許容範囲ですからね。
2024年の大統領選挙までに分断が深まり、政治が機能不全の状態に陥りかねない ~そこまでのアメリカの政治の動きに注目
飯田)日本にとって、外交政策などが注目されるところですけれども、影響はありそうですか?
須田)冒頭で申し上げたように、過去を振り返ってみても中間選挙はほぼ与党が負けるのです。勝つことはほとんどありません。そういった意味では「どの程度の負けで抑えられるのか」というところだと思います。
飯田)確かに議会の陣容が変わっても、特に台湾の話など、議会は一枚岩でしたよね。
須田)対中国という点で、特にインド洋やアジア太平洋の問題などは、それほど大きく変化しないと思います。問題なのは、その後の大統領選挙です。
飯田)2024年の大統領選挙。
須田)問題は大統領選挙で誰が選ばれるかということよりも、大統領選挙へ向けてアメリカの分断が深まっていくのではないかということです。分断が深まれば、政治が機能不全の状態に陥りかねない。2024年の大統領選挙の結果もさることながら、そこまでのアメリカの政治の動きには注目すべきだと思います。
バイデン大統領のレームダック化も進む
飯田)そこから先の2年間は、やはり内向きにならざるを得なくなるからですか?
須田)加えて、バイデン大統領のレームダック化はもっと進んでいくでしょうし。
飯田)そこへ来て習近平体制が3期目に入り、外に出ていこうとするのかということが言われていますものね。
須田)安全保障面では一枚岩になるでしょうけれども、米中の経済について言うと、半導体などは完全にデカップリングが進んでいますが、デカップリングを進められない分野もあるわけですから。
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