上智大学教授で政治学者の前嶋和弘が11月24日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。今後のアメリカ政治と日本との関係について解説した。
今後のアメリカ政治と日本との関係
大接戦となった中間選挙の結果、2023年1月から上院と下院で多数派が異なる、いわゆる「ねじれ」状態となるアメリカ連邦議会。同盟国として日本は安全保障上、アメリカに頼らざるを得ないなか、今後アメリカの政権運営はどうなっていくのか。
今後のバイデン政権は外交でポイントを稼いでいくことに
飯田)外交についての影響はありそうでしょうか?
前嶋)共和党が下院の多数派になったことで、議会が今後動かなくなる。過去の大統領を見ると、動けるとしたら外交・安全保障です。そこしか動けないのです。
飯田)外交・安全保障。
前嶋)例えば、オバマさんのときは、イラン核合意やTPP。トランプさんの場合は中国に対して厳しく出ていった。あるいは「アブラハム合意」としてUAEとバーレーンに署名させ、中東でイスラエルを助けるためにアラブ諸国と結んでいきながら、イラン包囲網をつくっていった。
飯田)アブラハム合意。
前嶋)基本的に中国の話もアブラハム合意も、バイデン政権が引き継いでいる感じなのですが、バイデン政権も基本的には外交でポイントを稼ぐ形になると思います。
飯田)外交でポイントを稼ぐ。
前嶋)ウクライナ支援のような「お金を出す」部分に関しては、アメリカ議会を通すわけですが、微妙なのです。それ以外のところに関して、大統領の専有特権は外交・安全保障です。
過去最も関係性のよい日米 ~バイデン政権の残り2年間も安泰
前嶋)アメリカは今後も中国に対して厳しく出ていく。そのために、いちばんの同盟国である日本とはしっかり連携しなければなりません。いまほど日米関係がいい状態だったことはなかなかありません。アメリカの世論を見ても、日本に対する好感度は過去最高です。
飯田)過去最高。
前嶋)日本側も高いので、相思相愛という感じです。アメリカ政府の方と会っても、日本は重要であり、中国に現状変更の動きを止めさせるにはアメリカだけではなく、日本にもオーストラリアにも入ってもらい、人によっては韓国にも入ってもらって、いろいろな形で動かなければいけないと言います。
飯田)韓国も。
前嶋)できればインドには中国側に行かず、こちら側に入ってくれればいい、ということでインド太平洋政策があるわけです。いずれにしても日米関係は、おそらくバイデン政権の残り2年間も安泰です。
アメリカからは攻めてはいかないけれど、中国の現状変更は止める ~そこに日本も入って欲しい
前嶋)バイデン政権では「敵」という言葉は使わずに、「競争相手」という言葉を使います。中国という難しい国に対して、「いかに現状変更させないか」という2年間になる。
飯田)中国に対して。
前嶋)特に台湾の問題はいろいろな話がありますが、何かあったらアメリカはすぐ動けるように準備する。ただ中国とアメリカの関係は、右手で殴り合いながら、左手で握手しているような関係です。握手というのは、経済的な相互依存です。日本も中国に対しては同じところがあります。
飯田)日本も経済的には相互依存している。
前嶋)しかし、こういう状況なので、競争しながらでも現状変更だけは絶対に止めるのだと。「アメリカから攻めてはいかないけれど、中国の現状変更は止める」というのがポイントです。
飯田)現状変更だけは止める。
前嶋)そこに日本も入って、いろいろな意味で協力して欲しい。同盟国のなかで半導体のサプライチェーンをつくる、あるいは日本の防衛費もできる限り増強して欲しいというのが、アメリカの狙いです。
次期大統領選、当選してもトランプ氏、バイデン氏ともに高齢の大統領に
飯田)中国の現状変更、台湾海峡の話がクローズアップされますが、2024年という数字が出てきています。台湾では1月に総統選があり、アメリカでは大統領選があります。
前嶋)既にトランプさんは「出る」と言ってしまいましたので、もうスタートしている感じです。
飯田)メールでも質問をいただいています。「バイデンさんは大統領選に出られるのでしょうか? 仮に再選しても、大統領に就任したら任期満了のときは86歳くらいです。アメリカの男性の平均年齢を考えると、あるいは健康寿命を考えると大丈夫なのでしょうか?」という質問です。
前嶋)それは皆さんが思っているところです。しかし、アメリカ大統領の健康寿命は、かなりあります。例えば、まだカーターさんはご存命です。
飯田)確かにそうですね。ジミー・カーターさん。
前嶋)早く亡くなる方は少ない。それだけアメリカの医療が大統領に対して手厚いのだと思います。いずれにしても、なかなかの高齢になる。それは共和党の方にも言えて、トランプさんが出た場合、バイデンさんとは3歳半くらいの差があります。
猛烈な「トランプおろし」とデサンティス待望論 ~それでも予備選でトランプ氏が勝つ可能性はある
前嶋)トランプさんは出馬表明しましたが、猛烈なトランプおろしの傾向にあります。
飯田)前のトランプ政権の幹部たちも、そっぽを向いているという話があります。
前嶋)ルパート・マードック氏がFOXニュースやニューヨーク・ポスト紙を持っているのですが、「トランプ氏ではないのだ。フロリダ州知事のデサンティス氏なのだ。若い方に賭けろ」というような「デサンティス待望論」があるのです。
飯田)デサンティス待望論が。
前嶋)一方で、アメリカの選挙は党のリーダーやメディア、あるいは大口献金者が決めるのではなく、予備選は誰が出ても勝てる仕組みになっています。
飯田)予備選は。
前嶋)トランプさんが実際に出てデサンティスさんと戦う。あるいは、そこにペンスさん、ポンペオさんなどいろいろな人が入ってくるかも知れませんが、トランプさんが勝ち残る可能性はあると思います。
飯田)トランプさんが。
前嶋)ですので、「トランプさんは終わった」と言うのは早いと思います。まだまだわからないし、実際の選挙になってみたらトランプさんが勝つ可能性もあるのです。
2024年の大統領選 ~若い候補とバイデン大統領、トランプ前大統領の大御所がどう動くか
前嶋)もう1つ、例えばデサンティスさんが出てきて、共和党の大統領候補者が若くなると、民主党側も「バイデンさんではなく若い方を」となるかも知れない。
飯田)民主党も。
前嶋)ハリスさんやブティジェッジさんがいますが、政権のなかにいる2人もそれほどプレゼンスがある感じではない。カリフォルニア州知事などの名前も上がっていますが、まだまだ見えません。
飯田)あと2年と考えたら、一気にいろいろなことが変わる可能性も高いですか?
前嶋)来年(2023年)の春くらいに候補が出て、夏くらいから共和党側は討論会でしょうか。あと1年くらい経つと脱落者が出てきます。選挙は始まっていないのに、脱落者が数人出てくる。そんな感じになっていくので、夏以降は選挙戦モードになるでしょう。
飯田)夏以降は。
前嶋)ただ、まだまだわからない。各候補の成長を見ると、特に民主党側はハリスさんやブティジェッジさん。共和党側はデサンティスさん。そんな戦いになりながら、バイデン大統領とトランプ前大統領の大御所2人がどうなるかですね。
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