「海上保安庁法25条」は撤廃すべきではない「これだけの理由」

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地政学・戦略学者の奥山真司が11月29日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。台湾有事を含めた日米の安全保障の現状と海上保安庁法25条について解説した。

「海上保安庁法25条」は撤廃すべきではない「これだけの理由」

【2020東京オリンピック・パラリンピック一年前合同訓練】訓練前に訓示を述べる海上保安庁の岩並秀一長官=2019年8月5日午後、東京港晴海埠頭 写真提供:産経新聞社

岸田総理大臣が2027年度に防衛費をGDP比2%に達するよう指示

岸田総理大臣は11月28日、浜田防衛大臣と鈴木財務大臣と会談し、2027年度に防衛費と安全保障関連の経費を合わせて現在の対国内総生産(GDP)比2%に達する予算を確保するよう指示した。現在のGDPの計算では、2%の達成に約11兆円が必要になる。2022年度当初の防衛予算は5兆4000億円あまりで、GDP比で計算すると0.96%となる。

飯田)1%もなかったのかという。

台湾有事はいつ起こってもおかしくない ~メディアも国民も危機感のない日本

奥山)台湾有事も含めて、安全保障関係は本当に厳しくなっています。日本もそうですがアメリカ側の認識というか、定期的にアメリカの方とお話しする機会があるのですが、安全保障に関しての危機感は「相当まずい状況になっているね」ということです。「尻に火が点いている」状況が実際にあるのです。ところがメディアや国民のなかでは、まだまだ危機感が足りないというのが正直なところです。

飯田)前々から言われていますが、「台湾有事は起こるか起こらないか」ではない。起こるのはわかっていて、あとは「いつだ」という話だけだと。

奥山)ですが、日本のメディアを見ていると「そんなことを言ってもまだ起こらないよね」という雰囲気が強いではないですか。安全保障を見ている人は「危ないな」と思っているのですが、そこまで危機感がない。

海上保安庁と海上自衛隊 ~海上保安庁が何をやっているのかがよくわからない

奥山)今回フォーカスされているのが、海上保安庁と海上自衛隊です。

飯田)焦点になるのは尖閣周辺の話で、ここに関してはこの10年を見ても一気に変わりました。

奥山)そうですね。

飯田)石垣にも第12管区をつくり、そこに機動展開するような感じで、各管区から船を集めていま必死にやっている状況です。

奥山)必死にやっているのですが、なかなか国民には伝わっていないですよね。一応、メディアには「中国の船が入ってきました。何日連続で来ています」ということは出ているのですが、実際の映像で我々が見ているわけではないので、ジワジワと中国が圧力を掛けてきている感じが伝わっていないことが残念です。

飯田)リアルな現状が伝わらない。

奥山)海上保安庁に関して残念だと思うのは、我々、メディア側も国民側もそうなのですが、「海上保安庁が何をやっているか」が見えてこない。

飯田)そうですね。

奥山)彼らの責任ではないのかも知れませんが、海上保安庁には「どういう活動をしているのか」を発信していただきたいです。

海上保安庁の通常業務が伝わらない ~海に出てしまうので見えない

奥山)海上保安庁と言えば『海猿』という映画がありました。あの映画の影響で応募(人数)が上がったようです。かなり危機的な状況で救済を行う人たちの話ですが、普段の活動でどこまでできているかというところは伝わってきていない。

飯田)通常の業務内容が。

奥山)海上保安庁自体は頑張っているのですが、海に行ってしまうので我々には見えません。海上自衛隊も同じで、震災のときに陸上自衛隊は目の前で救助活動や災害対策をしているのが見えましたが、海上自衛隊は海に出ると見えなくなってしまう。発信力不足ではないのですが、見えなくなってしまうことは残念だなと思います。

飯田)今年(2022年)、海保の架空の部隊をドラマにした『DCU』が放送されましたね。

奥山)短く終わってしまったという話もありましたけれど。

飯田)仕事の話を聞くと本当に多岐に渡っていて、「海の警察官」というイメージがありますが、それだけでなく灯台を管理したり、日本の周りの海図をつくっていたり。

奥山)密漁の取り締まりなど、かなり地味な仕事もやっています。

現場は仲がいい海上自衛隊と海上保安庁

奥山)我々にはあまり見えないのですが、海上自衛隊と海上保安庁は仲がいいのです。上の方では「役割を同じにしよう、連携させよう」などと政治的な議論がいろいろありますが、現場は仲がいいです。あまり知られていない話ですが、例えばソマリアの海賊対処に向かう際は、海上自衛隊の船に海保の職員が乗って一緒に行くのです。

飯田)相手が「海賊」なので軍隊とも違うため、法律で取り締まろうとすると逮捕権などの整理で、海上保安庁の人が行って「海洋法を執行しなければいけない」ということがある。自衛隊の人だけでなく、海保の人も一緒に船に乗って行動しないと、最終的に取り調べや立件して法で裁くことができない。

奥山)現場は同じ「海」というステージで戦っているので、仲がいいと言われます。

「海上保安庁法25条」は撤廃すべきではない「これだけの理由」

※画像はイメージです

海上保安庁法の25条 ~準軍事組織だが、軍隊ではない

飯田)中国からは海警局の船が次々と入ってくる。場合によっては軍艦を白く塗り替えたような、過剰な火力を持っている船が来ます。対処するには海自・海保の一体運営をしなければならない。そのため、海上保安庁法の25条に「我々は軍隊ではない」という条文があるのはいけないのだという議論があります。

奥山)自民党の一部で「25条撤廃」という主張が出ています。海上保安庁側に肩入れするわけではないのですが、彼らにとっての存在意義は「準軍事組織かも知れないけれど、軍隊ではない」ということが拠り所になっているので、ここはいじらない方がいいと思います。

海上自衛隊が出る前のクッションとして重要な海上保安庁の存在 ~現状のまま、いじらない方がいい

奥山)中国の公船が来た場合、海保がワンクッションになることが重要なのです。例えが適切かどうかわかりませんが、バーで喧嘩したときには突然、戦車を持って行かないではないですか。

飯田)まずはお巡りさんを呼びますね。

奥山)収集がつかなかった場合、あるいは戦車が来ることもあるかも知れませんが。

飯田)それはバーで徒党を組んで喧嘩していて、しかもものすごい火力の「RPGを持ってきたぞ」というような場合ですね。

奥山)マシンガンを持ってこられたら、さすがに対応するかも知れませんが、いきなりは持ってこないですよね。そういう意味では、クッションの役割を持つ海上保安庁に先に行っていただくことが必要です。

飯田)クッションとして。

奥山)現場の人の話を聞くと、海保は後ろに灰色の海自がいて、海自の人たちが「後ろ盾になってくれる」という気持ちの上での連携もできているということです。

飯田)なるほど。

奥山)もちろん、烈度が上がってきて戦闘になれば一体運用が必要かも知れませんが、極限まで一体運用せずにお互い組織としてリスペクトしつつ、同じ脅威に対抗するという点では、現状をいじらない方がいいのではないかと思います。

エスカレーションを招かないためにも、海保の存在は現状のままの方がいい

飯田)「25条を撤廃した方がいい」という主張を見ると、そうは言っても、中国の海警は中央軍事委員会のもとで組織されていて、軍隊のような指揮命令系統なのだから、こちら側もという話ですが、それが逆にエスカレーションを招くのではないかという心配もありますよね。

奥山)「向こうは軍隊を出しているのだから、こちらも軍隊で対抗するべき」という理屈はわかるのですが、「あくまでも平時ですよ」という体裁を持てるだけの組織を持っているので、海保の存在はクッションとして大事だと思います。

飯田)こちらが先に軍隊を出したという形になってしまいかねない。

奥山)そうすると、どんどんエスカレートしますからね。

「日本は国の軍隊をいきなり出してきた」と中国に突っ込まれないためにも、エスカレーションは避けなければならない

飯田)中国の巧妙なところとして、中央軍事委員会はいかにも軍の元締め、行政組織のようなイメージがあるのですが、中国共産党の軍事委員会なのですね。

奥山)党の軍隊。党の組織ということですから。

飯田)行政機関の海警の上には立っているけれど、建前上は「党と行政だから別ですよ」という。要するに自民党の防衛部会が組織を持って提案するけれど、建前は別という感じです。こちらは防衛大臣のもとに海上保安庁がぶら下がることになるので、完全に日本国政府ではないですか。

奥山)「エスカレーションした」と向こうが言えますからね。

飯田)国際的にそれがアピールできてしまう。

奥山)そういう理屈を向こうに言わせないためにも、こちらもエスカレートさせていないというスタイルを取るのが大事です。

飯田)そこをうまいこと入れ替えてしまうのですよね。向こうは「党と政府が一体」と言いながら、国際的に主張するときは「党と政府は別」という体を取ります。

奥山)それが中国の狙いでもあるので、乗ってはいけない。こちらが出してエスカレートさせたら、「日本は国の軍隊をいきなり出してきた」と中国が突っ込んでくるので、「あくまでも平時です。実効支配しているところを警察として動いただけです」という認識を最初につくることが大事だと思います。

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