政府が「国家安全保障戦略」など3文書の改定を急ぐ「もう1つの理由」

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経済アナリストのジョセフ・クラフトが12月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。自公が合意した「国家安保戦略」など3文書改定案について解説した。

政府が「国家安全保障戦略」など3文書の改定を急ぐ「もう1つの理由」

2022年12月10日、冒頭に発言する岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202212/10kaiken.html)

自民・公明両党で「国家安全保障戦略」など3文書の改定案に合意、16日にも閣議決定へ

自民・公明両党は12月12日、政府の「国家安全保障戦略」など3文書改定に向けた与党協議のワーキングチーム(WT)の会合を開き、改定案について合意した。自衛目的で敵のミサイル発射拠点などを破壊する「反撃能力」の保有などが柱で、反撃能力の要となるアメリカ製の巡航ミサイル「トマホーク」の導入を盛り込んだ。政府は3文書を16日にも閣議決定する方針。

台湾有事は2024年にも起こり得る ~その準備を急ぐ日米

飯田)反撃能力について、また中国に対する書き振りなどが朝刊の1面トップで報道されていますが、いかがでしょうか?

クラフト)個人的に日米の政府高官らと話した感触では、台湾有事の可能性は5年~10年先のことではなく、2年先の話として彼らは動いていると思います。

飯田)2年先となると、2024年。

クラフト)ないしは2025年。かなり準備を急いでいます。もちろん、ないに越したことはありませんが、相当な出遅れ感があって、スピードをつけて動いています。

3文書の改定を急ぐのも台湾有事を想定してのこと

クラフト)今年(2022年)に入って急にミサイル「トマホーク」を購入したのも、その理由の1つです。私が驚いたのは、10月30日に統合司令部が自衛隊で戦後初めて発足されたことです。なぜ統合司令部が必要なのかと言うと、自衛隊と米軍の連携に当たって、統合司令部が重要になってくる。つまり、台湾有事を想定した形で組織づくりが進んでいるということです。

飯田)前統合幕僚長の河野克俊さんがおっしゃっていたのですが、統合幕僚長は制服組のトップになるので、本来であればカウンターパートはアメリカの統合幕僚議長にあたる人、ワシントンの人になるのだけれど、太平洋軍とも動かなければならない。カウンターパートが2人いて、どうしようということになり、そこを整理しなければいけないのだとおっしゃっていました。

クラフト)おそらく裏では日米政府間で、有事が起きたときの米軍の役割と、日本の自衛隊の役割を精査している段階だと思います。その結果、統合司令部がつくられ、3文書が出てきている。つまり政府としては台湾有事を深刻に想定し、準備を急いでいるということです。

日米台ともに選挙イヤーの2024年 ~その足元を見て中国が動く可能性も

飯田)2024年、ないしは2025年という話がありましたが、2024年には年明けすぐに台湾の総統選があります。

クラフト)2024年は台湾のみならず、アメリカ大統領選、日本では自民党総裁選があります。各西側は選挙イヤーですので、有事に関わっている場合ではないのです。

飯田)各々内政にシフトしていく時期なのですね。

クラフト)その足元を見て中国が動く可能性があります。

「仕方なく台湾を獲りにいく」中国の事情 ~あらゆるものが下り坂に入る

クラフト)もう1つ、アメリカの高官が印象的なことを言っていました。実は習近平氏は、プーチン氏のように積極的に台湾へ侵攻するというよりも、どちらかと言うと追い込まれているのだと。

飯田)追い込まれている。

クラフト)時間が経てば経つほど台湾は独立に向かうのです。アメリカとの関係が強まり、中国内の経済が弱まる。待てば待つほど不利になります。そして中国が追い込まれ、「仕方なく台湾を獲りにいくのだ」という可能性の方が、私は説得力がある気がします。

飯田)以前、オンラインで行われたシンポジウムでアメリカの専門家と話したときに、これから先、中国は人口も減っていくし、経済もシュリンクしていく。いま時間は味方していないのだという話をしていました。人口面でもそうですし、あらゆるものが下り坂に入るのではないかと言っていました。

クラフト)「ロシアを見て中国も」というわけではなく、中国は追い込まれて仕方なく動くのだと見ると、「なるほど」と思います。

飯田)いろいろなものがリンクしていますね。

中国がいつ台湾侵攻に動いてもおかしくない

飯田)中国で言うともう1つ、「ゼロコロナをどうするのか」という問題があります。混乱しているのではないかという報道もありました。

クラフト)混乱しています。ある程度予想できたとは思うのですが、確かに2023年に関しては台湾どころではないと思います。ただ、逆に言うとコロナで混乱すればするほど、内政から外に目を向けるために目標を台湾に定める可能性もある、という見方をする人もいます。

飯田)外に逸らすために。

クラフト)どのように出てくるのか。いずれにせよ、日米政府はいつ中国が動いても不思議ではないと考えています。「そのための準備が遅れている」と見なければいけないのではないでしょうか。

防衛費の財源は増税も含めて2023年に十分な議論をするべき ~1年間は国債や予備費で賄う

飯田)その流れのなかで、「防衛費をどのように増やすのか」という議論もあります。先週末の会見で、岸田総理は国債の発行については否定し、基本的には税金を上げていく形になるというところですが、この辺りはいかがですか?

クラフト)そうしないと無理だとは思います。やり方が下手だったのか、党内で意見が分かれてしまって、逆に統一感をなくしてしまいました。増税はいいのですが、取りやすいところから取ろうとすると、法人税やたばこ税が必ず槍玉に上がります。

飯田)法人税やたばこ税が。

クラフト)もう少しオープンに、増税も含めて「ゼロからの議論」にしたいですよね。年内に決めていくのは時期早々のような気もするので、1年間だけ国債や予備費で賄い、2023年に「財源をどうするか」という議論を十分にした方がいいと思います。

飯田)来年、時間を掛けて。

クラフト)当初、岸田総理は全部増税で賄おうとしていたのですが、清和会に押し切られて、「1兆円増税」というところに追いやられた。党内でまずコンセンサスをつくってから動いた方が綺麗ではないかと思います。このような党内の混乱を中国も見ています。足元をつかれてしまいますから。

富裕層が多く、やりやすいアメリカ

飯田)日本では守るために何が必要かという議論の前に、財源の話が出てきてしまいます。アメリカの場合は、防衛費と増税がリンクすることもあるのでしょうか?

クラフト)財源のために増税するというよりは、まず景気をよくしていけば税収が上がるので、それをやっていこうという議論がアメリカでは上がってきます。

飯田)まず景気をよくする。

クラフト)また、アメリカの場合、富裕層が非常に多いわけです。そこだけに焦点を当てて上げていくと、かなりの財源になるので、アメリカではやりやすいのです。日本の場合は2023年に春闘があるので、法人税をこの時期に掲げると、そこに影響しかねません。

飯田)税金を取られるなら、「このお金は取っておかなければ」となってしまう。

クラフト)いまインフレで重要な時期なので、2023年の1年間を掛けて、ゆっくりと財源を議論するべきだと思います。無理して今週、来週までに結論を出す必要はありません。

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