内村航平から羽生結弦まで 2022年レジェンドアスリートたちの「最後の言葉」

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話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、2022年に引退、もしくは競技生活に1つのピリオドを打ったアスリートたちが語った「最後の言葉」「節目の言葉」にまつわるエピソードを紹介する。

内村航平から羽生結弦まで 2022年レジェンドアスリートたちの「最後の言葉」

【羽生結弦 決意表明記者会見】フィギュアスケートの羽生結弦が記者会見で引退を表明。会見の冒頭ではすっきりした笑顔を見せた=2022年7月19日 東京・赤坂 写真提供:産経新聞社

記憶に新しいサッカーW杯をはじめ、さまざまなドラマが生まれた2022年のスポーツ界。この1年を振り返ると、「世界一」「歴代1位」といった称号が似合う偉大なアスリートが何人も競技人生に一区切りをつけ、新たなステージへと歩み始めています。今回は、そんなレジェンドアスリートたちの「最後の言葉」を振り返ります。

■体操:内村航平

2022年1月14日、体操界の「キング」が引退会見に臨みました。男子個人総合でロンドン五輪、リオデジャネイロ五輪で連覇を達成。さらに、世界選手権でも6連覇を果たすなど、「史上最高の体操選手」とも称された内村航平です。

引退会見の10日前に33歳の誕生日を迎えた内村は、3歳で始めた30年間の体操人生を振り返り、こんな言葉を残しました。

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『人生の半分以上、日の丸を背負ってやってこられたのは誇りですし、今後、自分が何をやっていくにしても自信を持っていろんなことを発言していけるのではないかなと思っています』

~『時事通信』2022年1月14日配信記事 より(内村航平の言葉)

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その長い体操人生で数々の栄光を残しつつ、リオ五輪後はケガとの戦いが続いた内村。ただ、その経験こそが今後の人生に活きてくるはず、と言います。

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『良いところばかり知り過ぎていたので、挫折とか、落ちたところからはい上がる力とかは、今後、人に伝える立場として知らなければいけなかったと思う。栄光も挫折も経験できたのは、自分だけじゃなくて、伝えていく立場からすると本当に貴重な経験をさせていただいた』

~『時事通信』2022年1月14日配信記事 より(内村航平の言葉)

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■フィギュアスケート:羽生結弦

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『皆さんの応援の力の中で、羽生結弦としてフィギュアスケートを全うできるのが、本当に幸せです。まだまだ未熟な自分ですけれど、プロのアスリートとして、スケートを続けていくことを決意いたしました』

~『朝日新聞GLOBE+』2022年7月19日配信記事 より(羽生結弦の言葉)

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2014年のソチ、そして2018年の平昌大会で五輪連覇を果たし、世界のフィギュア界をリードしてきた羽生結弦。そんな偉大なスケーターが今後は競技会に出る「選手」ではなく、「プロフィギュアスケーター」としての道を歩んでいくと宣言したのは7月19日のことでした。

会見では引退報道と捉えられることを何度も否定した羽生。その目線は「もっとうまくなりたい」「理想の形のフィギュアスケートをさらに追い求めたい」といった“未来”を強く意識したもの。「羽生結弦」という生き方に求められること、存在意義を理解しているからこそ、「挑戦し続ける姿を見せたい」というモチベーションが湧き上がると言います。

その原動力となるのがファンの「応援」や「期待」。そのことを何度も言及していたのが印象的でした。

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『皆さんがたくさん期待して下さって、その期待に応えると、またより多くの人が期待して下さって。そんな循環が僕が本当に大切だったし、そんな循環をこれからもさらに続けていきたいですし、皆さんの期待に応えれるような演技を続けていきたい』

~『朝日新聞GLOBE+』2022年7月19日配信記事 より(羽生結弦の言葉)

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■テニス:ロジャー・フェデラー

ツアー通算103勝、世界ランキング1位の連続記録は歴代最長の237週、四大大会では史上6人目の「キャリア・グランドスラム」を達成……と、数々の偉業を残したテニス界のレジェンド、ロジャー・フェデラー(スイス)。なかでも、ウィンブルドンでは優勝8回と無類の強さを誇り、「芝の帝王」の異名で呼ばれてきただけに、膝の故障で今年(2022年)のウィンブルドンを欠場したことで、引退を決意したのです。

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『この3年間、私は怪我や手術という困難に遭遇してきた。そして、競技者として完全な形で復帰するために、懸命に取り組んできた。しかし、私は自分の体の能力と限界も知っている』

『テニスは、夢見た以上に私を寛大で、そして今、競技生活を終えるべき時をはっきりさせなければいけない』

~『Tennis Classic』2022年9月16日配信記事 より(フェデラーの言葉)

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9月15日に引退表明したフェデラーは、その直後に行われた男子テニス団体戦「レーバーカップ」を引退試合の舞台に選択。長年のライバルであり盟友、ラファエル・ナダル(スペイン)とダブルスを結成し、世界のテニスファンにその勇姿を届けました。

ナダルだけでなく、ノバク・ジョコビッチ、アンディ・マリーとのライバル関係は「BIG4」と呼ばれ、この15年近く、世界のテニス界を牽引。まさに一時代が終わることを告げる引退表明となったのです。そんなライバルたちに向けてこんなメッセージを残しています。

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『コート上のライバルたちにも感謝したいと思う。幸運にも、一生忘れられないような壮絶な試合をたくさんすることができた。我々は正々堂々と、情熱と激しさを持って戦い、私は常にテニスの歴史に敬意を表し最善を尽くした。非常にありがたいことだと感じている。互いに切磋琢磨し、ともにテニスを新たなレベルへと押し上げたんだ』

~『Tennis Classic』2022年9月16日配信記事 より(フェデラーの言葉)

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そしてテニスという競技に向けても。

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『最後に、テニスという競技へ。私はあなたを愛していますし、決してあなたから離れることはありません』

~『Tennis Classic』2022年9月16日配信記事 より(フェデラーの言葉)

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■スピードスケート:小平奈緒

10月22日、「現役ラストレース」と公言して全日本距離別選手権女子500mに出場した小平奈緒。半年以上かけて準備してきたこの引退レースで、小平は北京五輪銀メダルの高木美帆を破って堂々の優勝。これ以上ない有終の美を飾ります。

だからこそ、引退レースから5日の記者会見では、満足した様子でこんな言葉を残しています。

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『山あり谷ありのジェットコースターのような日々だったなと思っています。ただそのたびに多くの人に支えていただいて、一度も後ろを振り向くことなく常に前を向いて歩いてこられた』

~『スポーツ報知』2022年10月27日配信記事 より(小平奈緒の言葉)

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2018年平昌五輪500mの金メダルを筆頭に、W杯女子500mと1000mで日本歴代最多タイの通算34勝と、日本女子短距離のエースとしてスケート界を牽引。その偉大すぎる経験をもとに、今後はどんな生き様を目指すのか?

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『私がスケートというスポーツで磨いてきた人間性は、一緒に競い合う仲間をリスペクトすること。外国の方と接したり、違う文化や言語、思考の持ち方、いろんな人と接する中で違いを分かろうとすること。あとは数字や順位で自分や人の価値を決めつけないでほしいという思いは、たくさんの子どもたちに伝えていけたらいいなと思います』

~『スポーツ報知』2022年10月27日配信記事 より(小平奈緒の言葉)

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いずれのアスリートも、自分自身が大きな影響力を持っていると自覚しているからこそ、その力を今後どう活用していくかに思いを馳せているのが印象的でした。2023年、現役アスリートたちの活躍も楽しみですが、レジェンドたちが第一線を退いたあともどんな存在感を示してくれるのか、非常に楽しみです。

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